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死神の猫  作者: 十三番目
第三傷 Third Guilty 真なる神へ告ぐ
149/223

ep.47 特訓


 目の前で柱の一部が吹っ飛んだ。


 明鷹が呆れた様子で眺める先には、不可解な表情をしたヴォルクが立っている。

 特別警備課の面々は、柱に突き刺さったままの死神之大鎌(デスサイズ)を見て、虚無の顔つきをしていた。


 遠巻きに見つめる隊員の中から、ひょっこりと見知った赤が覗く。

 黄緑色の目を輝かせた威吹は、こちらに気づくと明るい笑顔で駆け寄ってきた。


「睦月さん! どうしてここに?」


「ヴォルクに死神之大鎌(デスサイズ)の扱い方を教えに来たんだ」


「あれじゃ使い物にならないからね。ヴォルクの希望もあって、睦月ちゃんにお願いすることに決めたってわけ」


 興味津々で話を聞く威吹だったが、私の近くに立つ霜月を見つけると、嬉しそうに手を上げている。

 警備課とは異なり、特別警備課は軍服を彷彿とさせる装いが特徴的だ。

 

 新鮮な威吹の姿に、「似合ってるね」と声をかけた。

 素直に喜ぶ威吹を見て、明鷹は何やら感慨深げな様子で頷いている。


「それにしても、少し目を離しただけでこれとはね。威吹、隊員たちの状況は?」


「怪我人はいないです。ただ、指導してる先輩が……」


 威吹の視線の先には、死神之大鎌(デスサイズ)を引っこ抜こうとしているヴォルクと、げっそりした顔で控えている隊員がいた。


「いったん練習は中止! 各員、持ち場へ戻るように。ヴォルクはとりあえずこっちに来て」


 それほど大きいわけではなかったが、明鷹の声はよく通った。

 隊員たちは指示が届くなり、すぐさま動き始めている。


 げっそりした顔の隊員は、解放されたと分かるや否や、神に祈るような表情でヴォルクの傍から離れていく。

 ヴォルクは「あ」と声を漏らすと、死神之大鎌(デスサイズ)を消してから近寄ってきた。


「睦月さんだ」


「睦月さんだ、じゃないんだよ。ヴォルク、僕の言ったこと覚えてる?」

 

「あー、はい。……何でしたっけ?」


 ため息を吐いた明鷹は、呆れを含んだ目でヴォルクを見ている。


「僕が戻るまでの間、指導役の言葉に従うよう話しておいたよね?」


「そーすっね」


「じゃあ、これはいったいどういうこと?」


 隊長である明鷹に対し、ヴォルクはただの隊員だ。

 厳しく叱責されてもおかしくない状況だが、ヴォルクに問いかける明鷹の態度は随分と優しいものだった。


 まるで、幼児(おさなご)をたしなめる親のような声色。

 明鷹からしてみれば、ヴォルクはまだまだ幼児の年齢に当たるのかもしれない。


 とは言え、雛に餌を与えるような甲斐甲斐しさと、部下への寛容さを併せ持った明鷹は、普段のおちゃらけた様子とはかなり異なって見えた。


 隊員たちが独り立ちし、巣から飛び立つ日まで。

 明鷹には隊員(かれら)を見守り、育てきる役目があるのだろう。

 そして、そんな明鷹の姿を、威吹はじっと見つめている。


 ふと思った。

 いつか一人前になった部下に、明鷹が背中を預ける時が来るのだとしたら。


 それはきっと、さほど遠い未来ではないのかもしれないと──。




 ◆ ◆ ◇ ◇




 率直に言って、問題だらけだ。

 サバイバルナイフを器用に使っていたとは思えないほど、死神之大鎌(デスサイズ)の扱い方が壊滅的に悪い。


「腕に力が入りすぎてる。柄はあまり握り締めず、手首をもう少しリラックスさせてみて」


「こうっすか」


「いや、それは緩めすぎ──」


 手からすっぽ抜けた死神之大鎌(デスサイズ)が空を舞う。

 刃が壁に激突する前に、霜月が凍らせて被害を抑えてくれた。


 カチコチに凍った死神之大鎌(デスサイズ)を見て、ヴォルクが「おー」と感嘆の声を上げている。

 どうやら、死神だからといって、必ずしも死神之大鎌(デスサイズ)に適性があるわけではないらしい。


 いや、そもそもこの考えも、現世で過ごす中で自然と染みついた固定概念のようなものだ。

 黒いローブに大きな鎌。

 死界におけるローブは、本職の死神の通行証(あかし)を意味している。


 支給される武器は大鎌(サイズ)に統一されており、どうして死神がそんな姿で語られてきたか、これ以上は考えるまでもないだろう。


「ありがとう霜月」


「うん」


 解凍した死神之大鎌(デスサイズ)を手渡してくれた霜月は、私の言葉にふわりと微笑んでいる。

 心の栄養が補充された。


 死神之大鎌(デスサイズ)をくるりと回し持ち替えると、打開策について思案する。

 近くで様子を見ていた明鷹に、思い切って要望を口にしてみた。


「聞くよ。どんなこと?」


「ヴォルクと模擬戦をさせて欲しいんです」


「模擬戦?」


 予想外だったのだろう。

 明鷹は目を瞬くと、確認を込めて聞き返してくる。

 口で言っても伝わらないなら、実際にやってみるしかない。

 要は、習うより慣れろ作戦だ。


 というような事を大まかに伝えると、初めは驚いていた明鷹も、「面白そうだね」と笑いながら許可を出してくれた。

 ヴォルクに死神之大鎌(デスサイズ)を返すと、引き攣った表情で目を逸らしていく。


 呼び出した死神之大鎌(デスサイズ)を構えた私を見て、ヴォルクは覚悟を決めた様子で視線を合わせてきた。




 ◆ ◇ ◆ ◇




【 おまけの設定まとめ 】



《 各課の制服 》


 死局は課別に制服が存在している。


 きっちり同じである必要はない。

 現世では国によって形が違うように、死界では課の死神によってそれぞれ異なっている。


 例 ↓

 同じスチームパンク系でも、ミントはレトロな服装にゴーグル、ナツメグはつなぎ服にガスマスクをしている。

 リーネアはロリータ風だったりと、あくまで「雰囲気」が統一されていればOKな模様。



《 制服の雰囲気 》


 警備課 → 「警察」風


 特別警備課 → 「軍隊」風

(完全に作者の趣味。軍服のかっこよさは異常だと思う)


 情報管理課 → 「スチームパンク」風

(皆まで言わずともよい)



 警備課と特別警備課は特殊なため、位が上がるまでは統一されたものを纏う。(本職の黒いローブのように)


 高位になると独自の装備を持てるため、明鷹の外行きローブや制服の肩掛けのように、好きな装いが許される。


 ただし、課に属するのであれば「雰囲気」は守らなければならない。



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