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死神の猫  作者: 十三番目
第三傷 Third Guilty 真なる神へ告ぐ
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ep.45 運命の擬態


「ヴォルクですか?」


 私とヴォルクの関係性は、相談を受けるほど深くないはずだ。

 どうして私が選ばれたのか、理由が思いつかない。


 能力が解除されたことで、凍っていたテーブルが元に戻っていく。

 珈琲も液体に戻っていたが、保温状態が解除されていたため、美火に渡して温め直してもらった。


 火の能力でカップ越しに沸騰させてくれる美火を見ながら、霜月と美火がいればいつでも冷温完備なのでは?

 なんて考えが浮かんでくる。


「睦月ちゃん、恐ろしい子……!」


 こちらの様子を観察していた明鷹が、いきなり口元に手をかざすと、大袈裟なポーズで驚きを露わにした。

 シルフィーは私と美火を見比べ、ぎょっとした顔で硬まっている。


 湯気の立つカップを受け取り、内心で首を(かし)げていると、霜月に「明鷹(あいつ)は頭がおかしいから気にしなくていい」と声をかけられた。

 美火も間違いないと言うように頷いている。


 それならそうかと納得し、温かい珈琲を口に運んだ。


「えーっと、ヴォルクのことだったよね」


 美火の冷たい視線で正気に戻ったのか、明鷹は用件があったことを思い出したらしい。

 こほんと一つ咳をすると、こうなった経緯について語っていく。


特別警備課(うち)は仕事柄、戦闘になることも多くてね。位が下二位以上になると、死神之大鎌(デスサイズ)が支給されるようになるんだ。一応ヴォルクも試験に合格したから、今回支給が決定した訳なんだけど……」


「あのお馬鹿さんってば、死神之大鎌(デスサイズ)の扱いが壊滅的に下手なのよ!」


 明鷹の言葉へ被せるように、シルフィーが怒りの声を上げた。


「念願の武器を手に入れて嬉しいのは分かるけれど、いざ使い始めたら辺りの壁や備品を壊しまくり! 挙げ句の果てには、手から引っこ抜けた死神之大鎌(デスサイズ)が、他の隊員の顔面スレスレに突き刺さる始末よ。このままでは事故が起きるわ!」


「もうかなり事故ってるんだけどねぇ」


 明鷹とシルフィーの様子を見る限り、ヴォルクはすでに色々とやらかしているようだ。


「建造物は自動修復がかかるからまだ良いんだけど、他の隊員が怪我を負うのは困るからね。武器の形態を変えるには神性力が足りてないし、何よりあれは一時的なものだ。専用の武器なんて、持てる日が来るのかも分からない」


 やれやれと息を吐いた明鷹は、悩みの種をどうにか解決したいらしい。

 本業の死神にとって、死神之大鎌(デスサイズ)が扱えることは必須条件となっている。


 つまり、ある程度使いこなせなければ、そもそも本職にはなれないということだ。

 中には私のような例外もいるが、結果的に扱えているため問題視されていないのだろう。


 本業が外勤だとしたら、死局の死神は内勤のようなもの。

 一部の課も死神之大鎌(デスサイズ)を支給されることは知っていたが、まさかこんな悩みを相談されるとは。


「睦月は死神之大鎌(デスサイズ)の扱いがとても上手だと聞いたわ。だからあのお馬鹿さんに、正しい使い方を教えてあげて欲しいのよ」


 うるりとした目で、シルフィーが手を握ってくる。

 この際、特別警備課に行くのは構わない。

 威吹が退院したと連絡をくれたため、一度会っておこうと思っていたところだ。


 問題は、教えるのが私という点である。

 他の死神に頼んだ方が良い気もするのだが、明鷹たちはどうしても私に依頼したいらしい。


 答えに迷っていると、明鷹が駄目押しとばかりに手を合わせてくる。


「ヴォルクも睦月ちゃんがいいって言ってたし、お願いできないかな? もちろん、お礼はさせてもらうよ」


「お願い睦月……!」


 シルフィーからうるうるした目で見つめられ続け、何だか断るのが可哀想に思えてきた。

 ヴォルクが私を指名したなら、多少の至らなさには目を(つぶ)ってもらえるだろう。


「分かりました。やれるだけやってみます」


 表情を明るくさせたシルフィーは、喜びで私をぎゅっと抱きしめてきた。


「助かるよ。それじゃあ、さっそくいいかな?」


 そう言って笑う明鷹の顔には、計画通りという文字が透けて見える。

 明鷹の首元にふわりと腕を回したシルフィーは、「早く行きましょう」とはしゃいでいた。


 また戻ってくるからと美火の頭を撫で、「一緒に行く」と話す霜月の手を取った。

 明鷹が「猛獣使いってこんな感じなのかな……」なんて呟くのを耳にしながら、私は特別警備課に向かう道を進んでいった。




 ◆ ◆ ◇ ◇




「よろしいのですか?」


 無花果(いちじく)の言葉に、王はゆったりと顔を上げる。


「確かに不出来ではありますが、まだ使える駒です。どうせ消すのなら、別の使い道でという手もありますが」


「いや、もう必要ない。これ以上は、私たちにとっても毒にしかならないだろうからね」


御心(みこころ)のままに」


 礼を取る無花果の傍で、へデラも同じく頭を垂れている。


 少し離れた場所に立っていたロベリアは、王の意図を理解し身を(ひるがえ)すと、そのまま何処かに向かって歩いていった。




 ◆ ◆ ◆ ◇




 候補生として連れてこられてから、死神としての規則(ルール)を沢山学んだ。


 ここには誰もいない。

 姉ばかりを大切にする父も。

 姉ばかりを贔屓(ひいき)する母も。

 姉を愛した彼も……もういない。


 両親と姉の婚約者が悲惨な死を迎えた時、思わず笑ってしまったのを覚えている。


 何もかも滑稽だった。

 泣き叫ぶ姉の姿も、棺に入れられ、冷たい土の下に埋められていく両親や彼の骸も。


 先に好きになったのは私のはずなのに、彼も両親も姉が幸せになることを選んだ。


 許せなかった。

 後に生まれたというだけで、私は思い人を姉に奪われたのだ。

 でも、そんな私を神は見捨てなかった。


 死神は美しさで選ばれたのではないかと思うほど、死界には桁違いの美貌を持つ存在が多くいた。

 姉の婚約者など比較にもならない。


 ここで私は、私だけのパートナーを見つけるのだ。

 考えるだけで心が弾むようだった。

 そして出会った。


 一瞬で目を奪われる容姿と、一線を画す雰囲気。

 霜月(かれ)を初めて見た時、運命だと思った。

 本職を希望していると知ってからは、すぐに行動を開始した。


 新人の死神にはパートナー制度がある。

 私を連れてきてくれた死神に連絡を入れ、彼のパートナーになりたいと伝えた。


 そのつもりだと書かれたメッセージを読んだ日は、歓喜のあまり震えが止まらなかった。

 しかし喜びも束の間、歓喜は絶望へと転落した。


 死局に勤めることが決まった私は、情報管理課へと配属された。

 沢山の情報が手に入る課で、私は知ってしまったのだ。


 彼が既に名前を与えられたこと。


 そして、彼の上司が選んだ新人と、パートナーを組んだという事実を。


 

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