表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神の猫  作者: 十三番目
第三傷 Third Guilty 真なる神へ告ぐ
146/223

ep.44 階位の仕組み


 昇格試験が終わって数時間ほど経つ。

 霜月たちの元に戻ってきた私は、美火が淹れてくれた珈琲を飲みながら、茶菓子を口に運んでいた。


 食事を必要としない死神にとって、こうした行為は娯楽目的に当たる。

 食べた物が活動エネルギーに変換されることはない代わりに、カロリーとして吸収されることもない。


 しかし五感はあるため、味や香りなどはしっかりと感じられるのだ。

 美火のお菓子をつい食べ過ぎてしまう私としては、この仕組みがむしろ免罪符のようになっていた。


「結果、届いたみたい。合格だって」


 昇格試験の合否について記載されたメッセージには、合格という文字が書かれていた。

 

「おめでとう」


 隣に寄り添っていた霜月が、表情を柔らかく緩める。

 美火は満足そうな顔で、「当然の結果ですね」と頷いていた。


「ただ、階位のところに中特位(ちゅうとくい)って書いてあるんだけど、もしかして手違いだったりする?」


「手違いなんてあり得ません。優秀な死神が位を幾つか飛ばして合格する事例は、たまにですが起こっています」


 美火の視線が霜月の方を向く。

 つまり、私は今回の試験で、飛び級のようなものをしたということだろうか。


 念のため、階位については前もって調べておいた。

 データベースで検索をかけ、各位の名称と、私の次の位が下二位になるという程度の知識は持っている。


 しかし、実際に届いた位は中特位。

 そもそも、データベースで見られるのは基礎的な情報であり、位によって閲覧範囲も制限されている。


 足りない情報を埋めるのに手っ取り早い方法は、有識者に聞くことだ。

 そして今、私の隣にはとても優秀な死神がいるわけで──。


「新人の死神は一部の例外を除き、まずは下三位から始まることになる。位は上から最高位・高位・上位・中位・下位で、そこに属する死神の数はピラミッド型だ。頂点にあるのは至高だけど、該当するのは王のみだから位は付かない」


 目線だけで意図を正確に読み取った霜月が、階位について詳しい説明をしてくれる。

 ここまでは私もデータベースから取り入れていた情報だ。

 既存の情報と照らし合わせながら、続きに耳を傾ける。


「最高位は王の側近だけが手にできる位だ。その下の高位に、優れた死神たちが連なっていく。高位を分けると一位から三位までで、これは上位以下も同じだ。ただ、上位から下位には、特位という位が別に存在する」


 私の位にも、その特位という文字が記されていた。

 近くで聞いていた美火だが、特位に話が移ったことで、そう言えばというような表情に変わる。


「特位は、上中下それぞれの位の一番上に該当します。同じ位でも一線を画していて、次の位に限りなく近い死神や、ある分野で見た時、飛び抜けて優秀な力を持つ死神などに与えられる、例外的な位のことです。睦月さんが今回与えられた中特位は、(つむぎ)と同じ位に当たります」


 以前、霜月は紬のことを、死神としては中位だが、治療関係ではかなり凄い死神だと話していた。

 紬が中特位にいるのは納得だ。


「霜月と美火の位はいくつなの?」


「今は上三位になってる」


「わたしは上一位です」


「二人とも凄いね」


 個々の癖が強すぎて、時折忘れそうになるが。

 そうだった。

 私の周り、優秀な死神しかいないんだった。


 霜月が上三位ということは、間違いなく飛び級をしている。

 褒められたことで嬉しそうに頬を染める霜月と、照れて赤くなる美火を見ながら、私は保温されたままのカップに口をつけた。


 突然、美火の表情が色を失くす。

 入り口の方に目を向けた美火からは、刺々しいまでの不機嫌さが感じられた。


「おっ邪魔〜!」


「とても邪魔なので、今すぐ帰ってください」


「やだなぁ美火ちゃん。ただの挨拶だよ、挨拶」


 美火は苛ついた様子で視線を逸らしている。


「睦月ちゃん、試験合格したんだって? おめでとう」


「ありがとうございます」


 明鷹(あきたか)から祝われ素直にお礼を返すと、明鷹はにこにこと笑いながら、「あとさ」と続けて話しかけてくる。


「霜月との距離、さらに近くなってない?」


「そうですかね?」


 全く気がつかなかった。

 隣に座るのはいつものことだったし、体温のない身体は馴染みもいい。

 明鷹に言われて、自然とくっついていたことを認識した。


 美火が羨ましそうにこちらを見ていたので、「仕事が終わったら隣においで」と声をかけると、華やいだ雰囲気で機嫌が復活していた。


「それで、何かご用ですか? 上司はしばらく不在ですけど」


「あー、それがさ……」


「睦月にお願いがあって来たのよ」


 外装が剥がれ落ちるように姿を変える。

 ひらひらとワンピースを舞わせながら現れたシルフィーは、私と目が合うなり興奮気味に(まく)し立ててきた。


「あのね睦月! 私と一緒に、特別警備課へ来て欲しいの!」


 テーブルの上が一瞬で凍った。

 試しにカップを逆さまにしてみたが、珈琲は一滴も落ちてこない。


「こらシルフィー。誤解を招く言い方は駄目だよ」


「だって……」


 むくれるシルフィーを(なだ)めながら、明鷹が「悪かったね」と謝ってくる。


「ヴォルクのことで、ちょっと相談があってさ」


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ