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死神の猫  作者: 十三番目
第三傷 Third Guilty 真なる神へ告ぐ
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ep.43 審査員


「今回の試験は予想外の連続でしたわ。まさかあの死神が、樹莉の結界を破るなんて」


「経理課のアルスですね! 見た感じ、能力は『貫通』で間違いないと思います」


「どんだけ障害物があろうと、先におる対象を狙える能力か。うちもサポートに欲しいくらいやで」


 昇格試験の終了に伴い、審査員の死神たちは白熱した議論を繰り広げていた。

 事前に聞いていた情報とは異なり、中にはアルスの優秀さに驚きを隠せない死神もいるようだ。


「満遍なく張られる結界とは違うて、銃弾に込められた能力は凝縮されとる。そうは言うても、位を考えれば充分過ぎる実力やと思うけどな」


「でしたら、これで決まりですわね」


「はい! アルスの結果については、こちらで連絡しておきます」


 三人の意見が一致した事で、アルスの合否から先に送られていく。

 性格も装いも様々な審査員たちだが、今回の試験には誰もが満足しているようだった。

 

 口を開くと鋭い犬歯が見える男──鴉鷺(あろ)は、細く吊り上がった目と、少しやんちゃそうな雰囲気を纏っている。

 鴉鷺の言葉に微笑む女は心音(ここね)といい、上品で洗練された所作が美しい死神だ。


 外見は20代後半ほどの二人に対し、三人目の審査員であるシュエンは幼い容姿をしていた。

 丸みを帯びた頬とあどけない顔立ちが可愛らしく、明るい声で賛同を口にしている。


「それにしても、経理課の課長が推薦されていただけありましたわ」


「下位の死神には未熟な(もん)も多いからな。退屈ばっかの試験かと思いきや、ごっつ楽しめる時もある。今回の昇格試験はほんま最高やったわ。あいつも今頃喜んどるやろ」


「でも、心配はされていたと思いますよ。受験者が属する課の死神は、審査員になれない決まりですから」


 鴉鷺とシュエンの会話を楽しげに聞いていた心音は、ふと思い至った様子で視線を上げた。


「そう言えば、警備課と境界管理課(きょうかいかんりか)が揃うのは久しぶりではないかしら」


「本当ですね! 境界管理課(うち)は比較的自由が効く方ですが、警備課は忙しいと聞いてます」


「いや、そうでもないで。最近は()()()()の方が(にぎ)やかや。特別警備課はさておき、警備課は割と落ち着いてんで」


 どうやら鴉鷺は警備課、シュエンは境界管理課に所属する死神のようだ。

 心音は悩ましげに眉を下げると、自身の所属する課について話している。


「それを言うなら人事課こそですわ。今となっては、ほとんど機能していませんもの」


「どこの課も部長が幽霊状態やからな。上も必要な枠だけ押さえておきたいんやろ。だから試験の審査にも、僕らみたいな課長(もん)が動くはめになっとる」


 愚痴を言い合う心音と鴉鷺を見て、段々とシュエンの表情が曇っていく。


「ここでそういう話は止めませんか? 何があるか分かりませんし……」


「そうね。ごめんなさい」


 すぐに謝罪の言葉を述べた心音だが、穏やかな声色の中に僅かな寂しさが感じられる。

 そんな心音の様子に、シュエンも申し訳なさそうに俯いてしまった。


「あー、やめやめ! まだ他の受験者が残っとるやろ。早よ決めな樹莉が急かしに来んで。シュエン、次はどないする?」


 仕切り直しだと声を上げた鴉鷺は、シュエンに次の受験者を選ぶよう伝えている。


「そうですね。なら、ヴォルクにします」


「ヴォルクか。こいつに関して言うなら、可もなく不可もなくっちゅうとこやないか?」


「ですが、咄嗟の判断には目を見張る物がありましたわ」


「それはわたしも同意します!」


 心音とシュエンの意見が一致したことで、鴉鷺は「二人がそない言うなら決まりやな」と口角を上げた。

 

「ほな、通常通りでええか?」


「もちろんよ」


「大丈夫です!」


 思いの外するりと決まったヴォルクだったが、次の受験者に変わった途端、鴉鷺たちは複雑な表情で沈黙している。

 新人でありながら規格外の力を持ち、今回の試験で圧倒的な格の差を見せつけた死神。


 通常、新人の位は一番下の下三位(かさんい)に含まれる。

 ()()()()が直接スカウトして連れてきた存在ではあるものの、睦月は候補生と同じ下三位からのスタートだった。


 事前の情報もなく、謎に包まれていた死神だが、今回の試験で分かったこともある。

 ──明らかに、下位に置いておける存在ではない、と。


「どないするのがええと思う?」


「答えは一つしかないと思います」


「私も、それしかないと思うわ」


 全員の考えていることが同じだと分かり、鴉鷺は大きくため息を吐いた。


「まったく、最近の若者はどないなっとんねん」


「あらやだ。それは年寄りの台詞よ、鴉鷺」


「間違いではないですけどね」


「失礼やで二人とも。僕はまだぴちぴちや」


 心音とシュエンをじと目で見る鴉鷺だったが、元が糸目のためあまり変わっていない。

 鴉鷺の視線を全く気にせず、シュエンは黙々と結果を記載していた。


 ヴォルクに続き、睦月の合否も送られていく。

 この選択の結果がどうであれ、審査員は正当な評価を下すしかない。

 たとえ上の意に反していても。


 ──または、その逆であっても。


「生き残れるとええな」


「上に行くほど、化け物ばかりですものね」


「化け物じゃなくて神ですよ。……そんなに違いはありませんけど」


 いや、大アリやろ!

 なんてツッコミを予想したシュエンだったが、鴉鷺は何も言ってこなかった。


 代わりに、最後の受験者を指して「早よ決めよか」と急かしてくる。

 心音が真剣な表情で思案する中、シュエンは悩むことなく答えを口にした。


 リーネアの結果は、それから程なくして送られることとなった。




 ◆ ◇ ◆ ◇




【 あとがき 】


 関西弁(風)のキャラについてですが、友人の話し方を参考にしています。

 地域によって違うらしく、大阪や京都などが色々と混じっているかもしれません。


 なんか関西弁……っぽい言葉遣いやな。

 くらいに捉えていただけたらありがたいです。


 ちなみに、作者は関西弁ならではの話し方や、発音の仕方が好きだったりします。

 言葉がつるんっとしている感じが可愛くて、流れるようなリズムがお気に入りです。


 

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