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死神の猫  作者: 十三番目
第三傷 Third Guilty 真なる神へ告ぐ
144/223

ep.42 決着 ー Ⅱ / Ⅱ


 負けたくない。

 終わりたくない。

 そんな思いも虚しく、尻餅をついたリーネアの後ろには結界が広がっている。


 死神之大鎌(デスサイズ)を構えた睦月を、リーネアは睨みつけることしかできない。

 しかしその背後で、ヴォルクがゆらりと立ち上がるのが見えた。


 左手でナイフを掴んだヴォルクは、睦月に向けて最後の足掻きとばかりに、勢いよくナイフを投げつけている。

 対して睦月は死神之大鎌(デスサイズ)を構えており、特に避ける動きは見られない。

 

 このままでは攻撃を食らうと思われた最中(さなか)、サバイバルナイフが音を立てて弾かれた。

 ナイフを撃ち落とした銃弾は、威力を保った状態で結界へと直進している。


 ──パキリ、という音が鳴った。


 直後、空間(エリア)を囲んでいた結界がバラバラに砕け散っていく。

 霧の立ち込める樹海は消え失せ、辺りは試験が始まる前と同じ景色に戻っていた。


 樹莉の作った結界よりも外に出た時は、すぐに戦闘を中止しなければならない。

 この試験の全てで共通する、最も重要なルールだ。


 リーネアは硬化したままの糸を緩めると、試合が中断された安堵から身体の力を抜いた。


 刹那、赤い襷が空を舞う。


 真っ二つになった襷は、ひらひらと揺れながら地面に落ちていく。

 呆然と硬まるリーネアの前で、睦月は死神之大鎌(デスサイズ)を地面に下ろしている。


「……なに、してるの……?」


「睦月さーん!」


 手を振りながら駆けてきたアルスは、睦月を見るなり嬉しそうに破顔した。

 試合が終わったことで、樹莉も近くに寄ってきていたようだ。


「お疲れ様でした」


 樹莉の傍には見知らぬ死神が控えていたが、すぐさまヴォルクの元へ向かうと、腕の治療を行っている。


「試験はこれで終了です。昇格の結果については、追ってお伝えするように──」


「待ってください!」


 リーネアの叫び声で、一気に静寂が訪れた。

 誰も口を開かない中、リーネアは怒りに震える声で抗議の言葉を吐いている。


「どうして何も言わないんですか……? そこにいる死神はルール違反を行いました……! 結界の外にいるのに、戦闘を止めなかったんですよ!?」


 リーネアの主張を黙って聞いていた樹莉は、睦月の方を向くと、「何か反論はありますか?」と口にした。


「ルールに違反した覚えはありません」


「なっ……!」


 言い募ろうとするリーネアを手で制し、樹莉は「続けてください」と話しながら睦月を見ている。


「この試験のルールは、樹莉さんの作った結界よりも外に出た場合、戦闘を中止しなければならない。というものでしたよね」


「はい、その通りです」


 肯定する樹莉に、リーネアはもどかしさで唇を噛み締めた。

 本来なら失格しているはずの死神が、平然とした様子で話している。


 それを許している樹莉も、何も言わない外野も、リーネアにとっては苛立ちを増やす原因だった。


「なので、中止する必要はないと判断しました。何故ならここは──まだ樹莉さんの結界の中だからです」


「……え?」


 驚愕の表情を浮かべるリーネアだったが、驚いたのはヴォルクたちも同じらしい。

 アルスに向かって「そうなのか?」と聞くヴォルクに、アルスも「しっ、知りませんでした……」と首を振っている。


「試験場所として案内された時、既にこの場所は結界によって囲われていました。私たちが今見ているこの景色は、樹莉さんが結界によって作り出したものです」


 何も言わず微笑む樹莉に、誰かが固唾を呑む音が響いた。


「つつつまり……結界の中に、もう一つ結界を作り出していた……ということですか?」


「なにそれすげー」


 アルスとヴォルクを微笑ましく見ていた睦月に、樹莉が「お見事です」と笑いかけている。


「リーネア。まだ言いたいことはありますか?」


「……いいえ。ありません……」


 力なく俯くリーネアは、地面に座り込んだまま動かない。

 ヴォルクは怪我の治療が終わったようで、立ち上がると腕を振り回していた。

 

「では、先ほどもお伝えした通り、結果は追ってのご連絡となります。以上で試験は終了です。皆さん、お疲れ様でした」


 樹莉の言葉と共に、各々解散していく。


 こうして、昇格試験は終わりを告げたのだった。


 

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