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死神の猫  作者: 十三番目
第三傷 Third Guilty 真なる神へ告ぐ
143/223

ep.41 決着 ー Ⅰ / Ⅱ


 凄い人だ。

 見ているだけで、自然と付いて行きたくなる。

 睦月の背中を眺めながら、アルスはきらきらした視線を向けていた。


 あの時、信じてくれるかと聞いたアルスに、睦月は信じると答えてくれた。

 それなのに、アルスは睦月のことを信じ切れていなかった。


 思い出すだけで悔やまれる出来事だが、睦月は些細(ささい)なことだと気にも留めていない。

 能力だけでなく器も規格外なのかと、感動したアルスの目がさらに輝きを増していく。


 死神の性格は、神性の高さにも左右されている。

 神性が高くなるほど、神に近しい思考になっていくのに対し、神性が未熟であるほど、生前の記憶や感性に引っ張られやすくなるのだ。


 今までのアルスは、その最たる例だった。


「行けそう?」


「はい……!」


 元の場所に戻るため、睦月が死神之大鎌(デスサイズ)を手に取っている。

 決着をつけに行くのだと分かり、アルスはゆっくりと息を吐き出した。

 

 いつもは雑念でうるさい脳内も、今は驚くほど凪いでいる。

 スナイパーライフルを手に取ると、アルスは睦月に向かって真っ直ぐに歩を進めていった。




 ◆ ◆ ◇ ◇




 突然アルスの反応がなくなったことで、リーネアは苛立ちを抑え切れず、糸を乱暴に引いている。

 辺りの木が手当たり次第に倒されていくのを見ながら、ヴォルクはどうしたもんかとため息を()いた。


 包囲しても抜け出され、端まで追い詰めても逃げられる。

 これでは(らち)が明かない。

 むしろ、消耗が大きいのは圧倒的にヴォルクたちの方だった。


 ヴォルクのカウンターは既に3を刻み、現在は警告文に変化している。

 リーネアはまだ能力が使えるが、それもあと一回だ。


 おそらく、睦月は攻撃への対処と、アルスの位置に繋いだ亜空間の使用で、カウントは2と予想するのが合理的だろう。

 アルスに関しては、包囲網を崩したあの攻撃しか見ていない。


 ──打開策が思いつかねー。


 元より、ヴォルクたちが勝つためにはアルスを探し出し、(たすき)を破壊する以外になかった。

 睦月を倒すのは不可能に近い。

 それなら、足留めしている内に終わらせてしまおう。


 なんて作戦を立てたはいいものの、ことごとく破られてしまったという訳だ。

 ほぼ詰みに近い状況だが、ヴォルクに諦めるという選択肢はない。


 たとえ能力が使えなくとも、武器と身体が残っているのだ。

 最後まで足掻いてやる。

 そう決意したヴォルクが、サバイバルナイフを握り直した時だった。


 いきなり空間が裂けたかと思うと、鋭い斬撃がヴォルクに向かって襲いかかってきた。


 反射的に身体を逸らし、バク転をしながら距離を取る。

 リーネアに退がるよう伝えると、ヴォルクはサバイバルナイフを構え直した。


 片手で器用に死神之大鎌(デスサイズ)を扱う睦月を見て、ヴォルクの表情が険しくなっていく。

 霧に身を隠そうとするも、睦月はまるで見えているかのような攻撃を放ってきた。


 立て直すことも出来ないまま、ヴォルクたちは空間(エリア)の端に向かってじりじりと追い詰められていく。

 すんでの所で攻撃を受け止めたヴォルクは、リーネアがそれ以上退がらないのを見て、すぐに事態を察したようだった。


 もし死神が汗をかくのなら、今頃ヴォルクの手は冷や汗で湿っていただろう。

 後がない状況に焦るヴォルクを見て、リーネアの焦りも徐々に増していく。


 出来損ないと()めていた死神の実力を目の当たりにして、リーネアはぐちゃぐちゃの感情を抑え込もうと、手の甲に思い切り爪を突き立てた。


「リーネア! 能力を使え!」


 これ以上は持たないと判断したヴォルクが、リーネアに向かって叫んだ。

 せめて隙を作ろうと、ヴォルクはサバイバルナイフを振りかざしている。


 ナイフが手を離れる間際。

 ──飛んできた銃弾が、ヴォルクの腕を撃ち抜いた。


 何処から狙われたのか把握できない。

 辺りには木が多く残っている上、霧も漂っている。

 障害物の多いこの場所で、いったいどうやって当てたというのか。


「……クソいてー」


 ぼたぼたと流れ落ちる赤は、土に吸われる前に変色し、黒い霧となって消えていく。

 だらりと垂れた右腕を押さえながら、ヴォルクは地面に膝をついた。


 近くにはサバイバルナイフが落ちている。

 撃たれた反動で、手から抜け落ちたのだろう。

 ヴォルクという壁がなくなり、動揺したリーネアの行動がわずかに遅れた。


 赤い(たすき)に刃が迫る。


 間一髪で最後の能力を使ったリーネアは、糸を硬化させ攻撃を防いだ。

 しかし、いくつかの糸は切断され、衝撃で手が痺れていた。


 

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