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死神の猫  作者: 十三番目
第三傷 Third Guilty 真なる神へ告ぐ
137/223

ep.35 第二試合


 ヴォルクとリーネアの戦いは、予想よりも早く終わりを告げた。

 リーネアが降参を申し出たことで、ヴォルクの勝利が確定したからだ。


 試験の開始時から変わらない雰囲気の樹莉は、にこやかにその申し出を受け入れている。


「第二試合はアルス対睦月でしたね。準備はよろしいですか?」


「ははは、はいぃっ!」


 緊張で声が裏返るアルスに、ヴォルクがぶはっと吹き出すのが聞こえた。


「そんなんでやれんのかよ?」


「へへ、平気です!」


「ふーん」


 馬鹿にしたというより、純粋に面白がっているようだ。

 ヴォルクからしてみれば、アルスの結果がどうなるかなんてどうでもいいのだろう。

 ただ、アルス自身には興味が湧いたのかもしれない。


 小刻みに震える手でキューブに手を伸ばすアルスを、リーネアが侮蔑(ぶべつ)の混じった目で見ている。

 アルスの実力はこの場に見合わないほど低い。

 それなのに何故、こんな死神が試験を受けられているのか。


 ──といった感じだろう。

 目は口ほどに物を言う。

 感情に素直なのは結構だが、敵に思考を読み取られているようではまだまだだ。


 漏れ続けた(本音)はいずれ自らを呑み込み、(むしば)んでいくことになる。

 身から(さび)を出さないためにも、時には押し込める努力をした方が良いだろう。


「なるほど。スナイパーライフルですか」


 樹莉が感心した様子で呟く中、ヴォルクは「なにそれかっけー」とアルスの武器を褒めている。

 持ち主にとって最適な形を取るキューブが、遠距離用の銃を選択した。


 それはつまり、アルスの能力が()()()()()ということだ。

 不快そうに視線を逸らしたリーネアだったが、私がキューブに手を伸ばすと、再び強い視線を向けてきた。


死神之大鎌(デスサイズ)……」


 ここにきて初めて、樹莉が動揺を(あらわ)にした。


 手に取ったキューブは上下に伸び、仕事で使う死神之大鎌(デスサイズ)と同じ大きさにまで変化している。

 死神之大鎌(デスサイズ)が自由に伸縮可能ということを考えると、このサイズが私にとっての基本だと判断されたようだ。


「でっけー武器って強そうでいいよな」


 ヴォルクから羨ましげな視線が突き刺さってくるが、勝手に変形してしまう以上、私にはどうしようもできない。

 申し訳なさそうに(うつむ)きながら、アルスが前へと進み出ていく。


 同じように進み出た私を見て、樹莉が「それでは」と口を開いた。

 上昇していく石柱に、アルスは慌てた様子で距離を取っている。


 先ほど辺りの観察をしていて気づいたのは、周りの石柱はどれも結構な高さがあるということだ

 使い方次第では攻撃にも防御にも適しているが、相手の能力が分からない以上、頼りすぎるのはよくないだろう。


 樹莉たちのいる石柱は、監視塔のように飛び抜けて高い。

 さっきまであそこに居たのだと思うと、何だか不思議な気持ちになってくる。


「──始めてください」

 

 開始の合図が届く。


 アルスが最も取りそうな手段としては、身を隠しながら距離を取り、遠距離から狙ってくる方法だ。

 ただし、武器は能力と合わさることで、異様な変化を遂げることがある。


 遠距離のみだと決めつけ、高を(くく)る訳にはいかない。

 とは言え、このまま距離を取られる方がもっと良くないのは確かで──。


 石柱の壁を足場に跳躍する。

 それぞれに高さの違いがあるため、あえて半ばほどのサイズを選んで飛び乗った。


 空中から探してもいいが、相手に気づかれやすくなる上、全身を晒すことになる。

 互いに手の内が分かっていない以上、余計なリスクを増やすのは避けておきたいところだ。


 モニターに現れたカウンターは0を示している。

 一試合に3度までなら、あまり渋る必要もないだろう。


「視つけた」


 思っていたよりも素早い。

 アルスの現在地は、開始の位置から随分と離れていた。

 死神之大鎌(デスサイズ)を構える。


 決着をつけるため、私はアルスのいる方角に向かって、勢いよく石柱を蹴り上げた。




 ◆ ◆ ◇ ◇




 石柱の間を縫って走りながら、アルスは対戦相手について考えていた。

 参加者の中で明らかに異質な存在。

 近づくだけで、自然と背筋が伸びるような死神だった。


 どこか整然たる姿の死神は、とても神秘的な目をしていた。

 視線が合っていても、合っていないような。

 アルスを見ているようで、全く違う何かを見ているような。

 けれどアルスの方は、その目に釘付けになってしまうのだ。


 いつまで経っても消えない思考に、アルスはぶんぶんと首を振った。

 他の事を考えている余裕なんてない。


 接近戦が苦手なアルスにとって、距離を取ることは何より優先すべきことだった。

 切り替えようと強く(まぶた)閉じたアルスは、次の瞬間、自分が既に手遅れの状態にあることを理解した。


「わあああ!?」


 空から振ってくる(つるぎ)を、間一髪で避ける。

 しかし、量が多すぎた。

 避けきれず尻餅をついたアルスを囲うように、剣が次々と刺さっていく。


 まるで剣山を逆さにしたような有様に、思わずアルスは涙ぐんだ。

 見上げた先には、死神之大鎌(デスサイズ)を構えた睦月が立っている。


 死神之大鎌(デスサイズ)の先端は槍のように尖っており、そこから広がる魔法陣は星空のような色をしていた。

 黙ってアルスを眺める睦月に、アルスはゆっくりと手を上げていく。


「こっ、降参します……」


 試合が終わったことで、睦月は死神之大鎌(デスサイズ)を下ろすと、石柱から飛び降りた。

 同時に、アルスを囲んでいた剣を跡形もなく消し去る。


 睦月の視界に出ていたカウンターが1から0に戻るのを確認すると、睦月はアルスに向かって手を差し出した。


「すすす、すみません……!」


 恐々と手を握ったアルスは、睦月に何度も頭を下げている。


「ささ、さっきのって……む、睦月さんの能力ですか?」


「そうだね」


「どっ、どんな仕組みというか……あああの」


 ビクビクしつつも興味を抑えきれず聞いてくるアルスに、睦月は内心、なんと説明すればいいか悩んでいた。


 この能力は転幽から提案された方法だ。

 扉の空間を行き来するうち、転幽は睦月に空間能力があることを明かしてきた。


 ただし、空間系統はかなり希少性の高い能力のため、目立ちたくない睦月が使うのを拒否したのだ。

 結果、扉の一つを亜空間と隣接し、そこから睦月が好きな物を引き出せるよう変更した──という訳である。


 試験に向かう前、転幽が楽しそうにあれもこれもと詰め込んでいるのを見てしまった。

 ちなみに、先ほどの剣も転幽が詰め込んでいた物の一つだ。


「亜空間……能力?」


 少し疑問系になってしまった。

 0から創り出す空間能力と違い、亜空間は別次元にある既存の空間を活用する方法だ。


 能力を聞いたアルスは態度を一変させ、きらきらした目で睦月のことを見ている。

 この後は敗者戦のはずだが、大丈夫だろうか。


 気にかける睦月をよそに、アルスはしばらくの間、睦月のことを輝く目で見続けていた。


 

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