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死神の猫  作者: 十三番目
第三傷 Third Guilty 真なる神へ告ぐ
136/223

ep.34 取引


「最初の相手が決まったようですね。第一試合はヴォルク対リーネア。第二試合はアルス対睦月です。ヴォルクとリーネアは準備を」


 どうやら、試合は左のボールを引いた者から始めるらしい。

 樹莉の呼び出しで、ヴォルクとリーネアが前に進み出ていく。


「この試合においてのルールは三つです。一つ、武器はこちらが用意した物のみを使用可能とする。二つ、能力が使えるのは一試合に3度まで。三つ、勝利条件は相手が降参した場合。または、こちらが続行不可能、ルール違反有りと判断した場合に限る。何か質問はありますか?」


「いいっすか」


「どうぞ」


 ゆるりと手を挙げたヴォルクに視線が集まる。


「能力が3度までってのは、どうやって判断するんすか?」


「各自のモニターに、カウンターが出現します。能力を展開するごとにカウントされ、数字が3に達した時点で警告文に変化。それ以降に能力を使った場合は、ルール違反として相手の勝利が確定します」


「……あ、あの!」


「はい」


「じょっ、常時展開している場合は、どど、どうなりますか……?」


「相手への攻撃として有効だったと判断された際に、一つカウントが進むこととなります」


 攻撃として有効……。

 つまり、ミントのように監視や観察を得意とする能力の死神は、その能力によって攻撃が有利に働いたと判断される度に、カウントが刻まれていくということだ。


「攻撃の手段は、武器でも能力でもいいんすよね?」


「何で勝とうが結構です。ただし、先ほども申し上げたように、この試合はあくまで一位と最下位を決めるためのもの。本戦ではないことをご留意ください」


「りょーかいっす」


 樹莉はヴォルクたちを見回し、これ以上質問が出ないことを判断すると、仕切り直すように口を開いた。


「では、こちらを一つずつ持っていってください」


「キューブ?」


 手に取ったヴォルクが、まじまじと黒いキューブを眺めている。

 正方形のキューブは、ちょうど手のひらに収まるほどのサイズだ。


死神之大鎌(デスサイズ)を所持できるのは、高位の死神と本職の死神。加えて、死局で特定の課に勤めるものだけです。よって、今回の武器はいくらか簡易なものをご用意しました」


「おー、すげぇ。変形した」


「そのキューブは、手に取った時点で持ち主の性質を認識し、最適な形へと変化します。本来は多くの神力が必要ですが、試験用に作られたものですので、皆さんでも問題なく扱えるはずです」


 キューブがサバイバルナイフに変化した事で、ヴォルクは楽しそうな声を上げている。

 手の上で回転させながら遊ぶヴォルクを横目に見ながら、リーネアがキューブを手に取った。


「なんだそりゃ」


「……」


 リーネアのキューブは、糸のような物に変化している。

 糸の先にはリングが付いており、指にはめる事で糸を引くことができる仕組みのようだ。


 不意に、上空で何かが広がった。


 コロシアムを彷彿とさせる造りの現地は、見上げれば空がよく見える。

 空間ごとに四季や天候も違う死界だが、この場所から見える空は、夏の青空のようだった。


「これは私の能力で作成した結界です。中の状態を自由に操ることが可能なため、あらゆるパターンでの試合を提供できます」


 上空で広がった透明な何かは、樹莉が作り出した結界だったらしい。

 結界は地上まで下りてくると、半円状に私たちの周りを取り囲んだ。


「この結界は、余程の力でなければ壊れることはありません。ですので、どうぞ思いきり戦ってください」


 樹莉が話し終えた瞬間、周囲の景色が一変した。


 足元は岩や傾斜だらけ。

 辺りには、石でできた柱のような物が大量に立っている。

 凸凹した地は一見戦いにくそうだが、上手く使えば身を守る盾にもなり得るだろう。


 石柱により迷路のように入り組んだ場所で、ヴォルクとリーネアが互いに一定の距離を取っていく。


「始める前に一つ。この試験の全てで共通する、最も重要なルールをお伝えします。万が一、私の作った結界よりも外に出てしまった時は、すぐさま戦闘を中止してください。もしこのルールを破れば、その死神は即刻失格となります」


 失格という言葉に、ヴォルクたちの表情が硬くなる。

 全員がルールを認識したことを確認すると、樹莉はこちらを向いて微笑んだ。


「睦月とアルスはここに来てください」


 樹莉の言葉に従い、アルスと共に傍へと近寄る。

 突然、足場にしていた石柱が上昇し、アルスは「うわっ」と叫びながら尻餅をついた。


「この試合が終わるまで、お二人はここで見学となります」


「はい」


「わわわ、分かりましたぁっ!」


「楽にしてて良いですからね」


 優しく声をかけられ、アルスの緊張も少し解けたようだ。

 こくこくと頷きながら、そのまま石柱の上に座り込んでいる。


「それでは、──初めてください」


 開始の合図が響く。


 合図が届いた瞬間、ヴォルクはリーネアに向かって急速に距離を詰め始めた。

 しかし、リーネアは逆に距離を取ると、石柱を影にして身を隠している。


 好戦的なヴォルクに対して、リーネアは慎重。

 こうして見ていると、二人の違いが明確に分かってくる。

 アルスがあわあわと呟くのを聞きながら、私は地上の光景を観察していた。




 ◆ ◆ ◇ ◇




「取引……しませんか?」


「はあ?」


 サバイバルナイフをくるりと回転させながら、ヴォルクは不可解な顔でリーネアを見ている。


「あんた、これが試験だってこと分かってんの?」


「もちろん分かってます」


 リーネアの答えを聞いたヴォルクは、つまらなさそうに鼻を鳴らした。


「一時しのぎのつもりかは知らねーけど、そんなんで受かろうなんて笑えるな」


「……貴方もルールは聞いてたはずです。この試合は一位と最下位を決めるための戦い。つまり、()()()()()()()()ということです」


「だから?」


「先に一位と最下位を決めておく理由……。過去に行われた昇格試験の内容(データ)から推測するに、この試合は前哨戦(ぜんしょうせん)みたいなものなんです。勝ったところで、合否に影響する訳ではありません」


 ヴォルクの中にも引っかかる部分はあったのだろう。

 反応を示したヴォルクを見て、リーネアの言葉に勢いが増していく。


「本戦で勝てさえすれば、間違いなく試験には合格できます。この試合……私は今から負けを宣言するつもりです。そうすれば、貴方は一位を決める試合へ進むことになる」


「それで、あんたに何の得があるわけ?」


 いまいち意図が掴めず、ヴォルクの表情が険しくなる中、リーネアはヴォルクの目をしっかりと見返した。


「私は最下位にはなりません。何故なら、次の試合で勝つからです。そして貴方には……次の試合でわざと負けてもらいたいんです」


 

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