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死神の猫  作者: 十三番目
第三傷 Third Guilty 真なる神へ告ぐ
135/223

ep.33 試験の始まり


 満月を膝に乗せ、顎下をくすぐる。

 気持ちよさそうに目を細めた満月は、手に何度か擦り寄ると膝の上で丸くなった。

 転幽は微笑みながら、その様子を傍で眺めている。


「試験まであと少しだね」


「そうだね」


「何か悩むことでもあった?」


 柔らかい声で話しかけてくる転幽は、私が考えていることを既に見通しているかのようだ。


「どこまでやっていいのかなって」


「好きなだけやってみたらいいよ」


「そうできたら楽だけど、警戒されれば余計な面倒事が増えるだけだから」


 上を引き摺り下ろすために準備しようという段階で、目立つ行為はなるべく避けておきたい。

 ただでさえ、霜月は優秀な人材として目を付けられている。


 わざわざ手間を増やすような行為は、控えた方が賢明だろう。


「目立ちすぎず、完勝する方法か」


 ふむと考える仕草を見せた転幽は、こちらを向いてにこりと微笑んだ。


「諦めよう。睦月の存在自体が目立ってる以上、おそらく何をしても目立つよ」


 そんな殺生な。

 色々と諦めるのが早すぎる。


「とは言え、過剰な警戒を引き起こすのが面倒だと考える気持ちも理解できる」


 立ち上がった転幽が、とある扉の前に進んでいく。

 

「能力の代わりに補えるものがあるとすれば、それは知略と戦闘スキルだ。知略の方は充分にあるから、後は戦闘スキルの方かな」


 転幽直々に訓練を付けてもらうことは、今までも何度かあった。

 可能な限り手札を見せずに済むよう、他の部分で補えと言いたいのだろう。


 この扉の先は自由空間だ。

 あらゆる物を、本物同様に創り出せる場所。

 前回、ここは森の中だった。

 しかし今回は、開けた荒野になっている。


 転幽の手には、美しい(つるぎ)が握られていた。

 それを地面に突き刺すと、転幽は私の持つ武器に視線を向けてくる。


「何度見ても、睦月の死神之大鎌(デスサイズ)は綺麗だね」


 本職の死神が持つ死神之大鎌(デスサイズ)とは違う。

 精巧で、黒と銀の縁取りから伸びる刃は、夜空のような色をしていた。


大鎌(かたち)自体はあまり変わってないけどね」


「睦月には、その形が適しているということだよ」


 手に持った武器をまじまじと見つめる。


「支給される死神之大鎌(デスサイズ)には別の型があってね。一段階目を解除すると、戦闘特化型に変わるんだ。二段階目の解除で、持ち主の能力や性質を読み取り、最適な形へと変化してくれる」


「初めから二段階目まで解除しておけないの?」


「出来ないこともないけど、解除するごとに神力の消費が激しくなるからね。それこそ、位を上げないと厳しいと思うよ」


 三日月の持っていた死神之大鎌(デスサイズ)は、刀の形をしていた。

 つまり、自分だけに授けられた特別な武器を、常に最適な状態で保持しているということになる。


「先は長そうだね……」


「大丈夫。睦月ならそんなにかからないよ」


 慰めではなく、本気でそう思っているのだろう。

 武器を構えるように言ってくる転幽は、至極楽しそうな表情をしていた。


 上位の死神たちは、きっと規格外だらけだ。

 だからこそ、こんなところで(つまず)いている場合じゃない。


「殺す気でおいで。ここなら手足が吹っ飛んでも、すぐに治せるからね」


 中性的で美しい転幽の口から、物騒な言葉がスラスラと流れていく。

 万が一あの顔に傷でもつけようものなら、世界の終わりだと叫び出す人まで現れそうだ。


 まあ、今はそんな心配をする余裕もないのだが。

 本当に殺す気でいかないと、こっちが殺されそうだ。

 そんな風に思えるほど、転幽の雰囲気はあまりにも異質だった。


 時間はいくらでもある。

 微笑む転幽に向けて、私は大鎌(サイズ)を振りかざした。




 ◆ ◆ ◇ ◇




「すすす、すみません! おっ、遅れましたか!?」


「いえ、定刻通りですよ」


 駆け込んできた死神に、審査員の死神は優しく声をかけている。


「これで全員揃いましたね。私は現地の審査員を務める樹莉(じゅり)と申します。皆さんがつつがなく試験を行えるよう、精一杯努める所存です。他の審査員については、モニター越しに確認しておりますのでご安心ください」


 はきはきと喋る審査員──樹莉は、「さっそく始めましょうか」と言いながら私たちの方を見てきた。


「今回の試験は、申請者同士で戦う勝負方式です。皆さんにはこれから、一対一のトーナメントを行ってもらいます。全員と戦う必要はありません。一位と最下位を決める戦い。そう認識しておいてください」


 一位と最下位。

 つまり、三人の内の誰かと一対一で戦った後、勝った方と負けた方がそれぞれ戦い、一位(勝者)最下位(敗者)を決めるということだ。


「その後のルールについては、後ほど結果が出てからお伝えします。最初に戦う相手については、こちらで決めてください」


 樹莉が指を鳴らすと、目の前に黒い箱が出てきた。

 この中から引いて、相手を決めろと言うことらしい。


「誰から引いても構いませんよ」


「じゃあ俺から引こーっと」


「私も引きます」


「ぼぼ、僕もっ!」


 真っ先に引いた死神は、左と書かれたボールを持っている。


「ヴォルクは左。そして、リーネアも左ですね」


 樹莉の言葉通り、次に引いたリーネアも左と書かれたボールを持っていた。


「ぼ、僕はえっと、み、右でした……」


「はい、アルスは右ですね。そうなると──」


「私も右です」


 最後に残ったボールを引く。


 そこには、右という文字がはっきりと書かれていた。


 

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