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死神の猫  作者: 十三番目
第三傷 Third Guilty 真なる神へ告ぐ
133/223

ep.31 事のあらまし


 灰銀の長髪が流れる。

 ゆったりと椅子に腰掛けながら、死界の王は何処かをじっと眺めていた。


「影が一つ、消されたね」


 驚いた表情で王を見た無花果(いちじく)は、珍しく動揺を(あらわ)にしている。


「どうやらアレは、相当重要な情報を知ってしまったらしい。一欠片も残さず消し去るとはね」


「まさかそんな……」


 言葉に詰まった無花果だが、すぐに冷静さを取り戻したようだ。

 王の傍に寄ると、いつでも指示を受け取れるよう控えている。


「思考を共有する分身とは違い、影は完全な分離体だ。こうなった以上、アレが手に入れた情報は諦めるしかない」


「……何者の仕業でしょうか。王の影を消すなど、一介の存在に出来ることではありません」


「宝月でないとすれば、対象は自然と限られてくるものだよ」


 王はすでに答えを知っているようだった。

 しかし言葉にはせず、無花果が口にするのを待っている。


「つまり、太陽跡の干渉を受けた……と」


 静かに微笑んだ王を見て、無花果は天界の王への憎しみを募らせていく。


 太陽跡は、天上神王(てんじょうしんのう)が自ら引き入れた側近たちだ。

 王の意に反することをしない太陽(かれら)が直接動いたということは、()()()()()()に他ならない。


「そう言えば、申請が届いているようだね」


「はい。どうやら昇格試験を受けたい死神がいるようです。申請者の一人が例の死神だったため、一旦差し止めてはいますが……」


「構わないよ。そのまま受けさせてあげなさい」


「よろしいのですか?」


 意図を推し量るように、無花果が問いかける。


「私も少しばかり、(くだん)の死神に興味が湧いてね」


 どこか楽しそうな王の雰囲気を察し、無花果は黙って頭を垂れた。

 

「では、その様にさせていただきます」


「頼んだよ。私の花たち」


 王の視線は無花果と、その先で控える死神の方を向いている。

 騎士を彷彿とさせる装いの死神──ロベリアは、王に一礼を取ると、音もなくその場を去っていった。




 ◆ ◆ ◆ ◇




「……という訳なの。報告が遅くなってごめんなさいね」


「いえ、律さんたちが悪いわけではありませんから」


 テーブルを囲みながら、各々の情報を共有する。

 律からは捕獲した死神たちのその後。

 そして、燕に関する事の経緯を聞いていたところだ。


「結論からまとめると、主犯格の死神は逃走。補佐の死神は捕獲できたものの、警備課へ送る前に謎の現象によって消滅した。という事ですね」


「その通りよ。逃げられないよう注意は払っていたけど、燕の自戒が発動した事で隙を突かれた形ね」


 問いかける美火に対し、律は少し緊張した様子で答えている。


「本当に突然だったんですか? 何か予兆のようなものは?」


「一切なかったと思うわ」


 美火の出してくれたお茶を飲みながら、律の話を整理していく。

 捕獲した死神は合わせて四人。

 その内、カウダとラケルタが逃走した。


 残りの二人は捕獲できていたが、尋問などを行う前に、原因不明の力により消滅してしまったらしい。

 律たちの中で燕の印だけが発動した理由は分かっておらず、何故いきなり発動したのかも不明のようだ。


 そもそも自戒とは、規則(ルール)を破ったものを罰するために使われる仕組みのことを言う。

 公平公正を要する印が、理由もなく使われたというのがおかしいのだ。


「霜月の印も突然発動した事を考えると、やはり故意の可能性が濃厚ですね」


「こい……ねぇ」


「発音おかしいわよ、リブラ」


 律のツッコミが入る中、話題に上がった霜月はいつもと変わらない雰囲気で座っている。

 もちろん、私の隣に。


「それに、死神を一瞬で消滅させられる存在は、三界を合わせてもそう多くありません」


「確かに。先に能力を埋め込まれていたとしても、相当な実力がないと難しいだろうね」


 納得した様子で頷くリブラを、美火が鋭い眼差しで見ている。

 どうやら、美火はリブラの存在が気に食わないらしい。


「そう言えば、睦月ちゃんたちの上司はいつ頃戻ってくるのかしら?」


「多分、しばらく戻って来ないと思います」


「あら。残念ね」


 私たちが居る場所は、上司の所有する空間だ。

 こっそり会議できる場所が欲しいと伝えたところ、二つ返事でこの部屋を空けてくれた。


 安心から胸を撫で下ろすリブラとは違い、律は心から残念がっているように見える。


「会いたかったんですか?」


「だって素敵じゃない。睦月ちゃんたちの上司」


 正気かと言わんばかりの顔をするリブラに対し、美火は何とも言えない表情をしている。


「律さんって、上司みたいなのが好みなんですか?」


「好みというか……。近寄りたいとは思わないけど、観賞するには最高なのよね」


「なるほど」


 飛び抜けて綺麗な容姿というのは、観賞用にもなり得るらしい。

 これに関しては、美火も否定できないのだろう。

 複雑そうな表情のまま、無言を貫いている。


「本来ならあたしたちみたいなのが気軽に会える存在ではないから、何だか残念に思えちゃって……」


「それならむしろ、今がチャンスって事ですね。いっそ呼び出してみますか?」


 早めに戻って来てと連絡すれば、もしかしたら会う機会にも恵まれるかもしれない。

 善は急げとばかりに、上司へのメッセージを(したた)めていく。


 律は私が冗談を言ったと思っていたらしい。

 霜月が「しなくていい」と口にしたことで、私が本気だったと気づいたようだ。

 慌てて止めに入ってくる。


 まだ送っていないことを伝えると、律と同時に席を立っていたリブラも、ほっとした様子で席に戻っていた。


「あたしのために呼び出しなんて、恐れ多くて死にそうだわ……」


「……ほんと、命がいくつあっても足りないよ」


 律たちからそれほどまでに言われる上司の姿と、私が見てきた上司の姿が全く一致しない。

 不思議なものだと茶菓子を摘む私のお皿に、美火が追加のお菓子を入れてくれるのが見えた。


 

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