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死神の猫  作者: 十三番目
第三傷 Third Guilty 真なる神へ告ぐ
131/223

ep.30 有罪


 目を閉じた燕が、カプセルの中で横たわっている。


 到着してすぐ出迎えてくれた紬は、燕を一目見るなり治療機の中へ寝かすよう指示してきた。

 動きの遅い時雨に喝を入れると、紬はテキパキと準備を整え、個室の中にカプセルごと燕を運んでいく。


 威吹の時とは違い、部屋の中には色々な物が置いてあった。

 印象的なのは、壁から伝い降りているチューブだろうか。

 紬はそれをカプセルの横側に取り付けると、一段落したのか小さく息を吐いている。


「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ〜。いずれ目も覚めるはずですから〜」


「突然だったのに、ありがとう紬くん」


 相変わらず(くま)の酷い紬だが、治療中の動きに疲れは見えなかった。

 どんなに疲労していても、患者が来れば最善の行動を取れるのだろう。


 紬が重宝されてきた理由が分かる気がする。

 今の王は勿体無いことをするものだ。

 少なくとも、こんな風に酷使していいような死神ではないだろうに。


「そこの君〜。患者が起きるまで居座るつもりですか〜?」


 カプセルの傍で立ち尽くす時雨に、紬が声をかけている。

 俯いたままの時雨にため息を吐くと、紬は壁から大きめの椅子を取り出した。


「倒せば簡易ベッドになります〜。何かあれば連絡を飛ばすか、そこの壁から出てきてくださいね〜」


 時雨の腕を引っ張り座らせると、紬はそのまま部屋を後にしていく。

 こうして個室を用意してくれた辺り、何となく事情を察していたのかもしれない。


「時雨。私たちは行くけど、また様子を見にくるから。燕のこと頼んだよ」


 もう少しすれば、律たちも到着するはずだ。

 時の流れが違うため、現世で数日が経とうと、死界においては数時間ほどの体感になる。

 律とリブラなら、それほど時間はかからないだろう。


「時雨」


「……燕は、起きるんだよな……? このまま腐って、虫が湧いたりなんて……」


「虫?」


 もう一度名前を呼ぶと、時雨が小声で何かを呟くのが聞こえた。

 腐るとか虫とか、まるで死体について話しているみたいだ。


 燕が死んだとでも思っているのだろうか。

 もしかすると、時雨が虫を極度に嫌っていた理由と、何か関係があるのかもしれない。


「大丈夫だよ時雨。絶対に、燕は目を覚ますから」


 気持ちが落ち着くよう、背中を優しく撫でる。

 紬も大丈夫だと言ってくれていた。

 だから時雨は、燕の目が覚めるまで、信じて隣に居てあげればいいのだ。


「……睦月さんが言うと、本当にそうだって気がしてくる。変だよな」


 時雨の顔色が、少し良くなっている。


「時雨は元から変だったよ」


「それ……マジで言ってる?」


 複雑そうな表情に変わった時雨は、私の言葉が本心か分からず戸惑っているようだ。


「さあね」


 わざと答えを濁し立ち上がる。


「じゃあ、頼んだよ。時雨」


 今度ははっきりと、視線が合った。




 ◆ ◆ ◇ ◇




「先ほどの死神から、能力の残滓(ざんし)を感じました〜。完全に抜け切っていなかったようですね〜。とは言え、既に解決したようですけど〜」


「残滓って、他の死神のってことだよね」


「ですね〜。精神系の能力には陶酔(とうすい)させるものからトラウマを引き起こすものまで、色々あるんですよ〜」


「トラウマ……」


 時雨が不安定だった原因は、どうやら敵の能力によって引き起こされたものだったらしい。

 過去の傷であれほど打撃を受けるとなれば、傷自体は死神になる前についた可能性が高いだろう。


「燕の目が覚めない理由についてはどう?」


「そうですね〜。自戒は例えるなら、身体の中に直接電気を流すようなものです〜。内側から(むしば)まれたことで、許容値の限界を超えたんでしょう〜」


「でも、それなら霜月は……」


 当然のように絡まる視線。

 振り返った先の霜月は、普段と変わらない様子で立っている。


「死神は神性力が強いほど回復が早いですからね〜。霜月が平気そうに見えるのは〜、まあそういう事です〜」


 新人でありながら、神性力の強い死神。

 霜月を狙う死神が多いのも、何となく察しが付くというものだ。


 印とはいったい何なのか。

 何故、霜月や燕のみに発動したのか。

 いまだ分からないことだらけだ。


 ──けれど、分かったこともある。


「……このままじゃ、大切なものさえ守れない」


「睦月?」


 口から溢れ落ちた言葉に、霜月が反応を示す。


「ねえ霜月。私も、昇格試験を受けられたりするのかな」


 不当な出来事の原因が、腐った上層部にあるというのなら。

 そこに近づくための手段は、私が上に登っていくことだ。


 地位や権力。

 現世にいる時は、そんなものに微塵の興味も湧かなかったというのに。


 不思議だ。

 死界へ訪れる度に、自分の中の何かが少しずつ変わっていくのを感じる。


「受けられる。今の睦月なら必ず」


 死界や天界に下剋上はない。

 あるのは魔界だけだ。

 でも、ここに()()がいないのなら──。


 霜月の言葉には、深い信頼が込められている。

 死界で下剋上を行うなんて知ったら、上司は何と言うのだろうか。


 荒唐無稽(こうとうむけい)な話だと笑うだろうか。

 それとも、宝月として協力してくれるのだろうか。

 どちらにせよ、私のする事は決まっている。


 ──たとえどんな王であろうと、私のものを傷つけた罪は、絶対に赦すことなど出来ないのだから。


 

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