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死神の猫  作者: 十三番目
第一生 First Death ちっぽけな少年
13/223

ep.1 人間に満たない人間


 太陽はとっくに姿を沈ませ、空には月が昇りきっている。

 居住地より少し離れたこの場所は物静かで、都心部では届かない星の光を目にすることができた。


 住宅地というにはいささか寂し気だが、近くを流れる川と、ちらほら見える住人たちの明かりが、逆に(おもむき)を感じさせる。


 ふと、夜闇(よやみ)の中に影が浮かび上がった。

 真っ黒なローブに身を包んだ二人組は、目を凝らさなければ夜の中に溶け込んでしまいそうだ。


「ここが回収地点? 人影は見当たらないけど……」


「あのく……上司が指定した座標は、ここで間違いないみたいだ。時間も遅いし、家で休んでる可能性が高い」


 声からして、二人組はまだ若い男女のようだ。

 女の方は辺りを見回し、不思議そうに首を(かし)げている。


「ここって……」


「実践で使った場所から、かなり近い地点みたいだ」


 以前来たことのある場所だったのか、男が頷いたのを見ると、女は「奇遇だね」と話しながら辺りを眺めている。

 男の方はそんな女の姿を優しく見守っていたが、不意に何かに気づいた様子で顔を上げた。


「睦月、対象が移動した。少し早いけど向かった方がいい」


 睦月と呼ばれた女は、差し出された手を取ると、「頼りにしてます、霜月先輩」と悪戯(いたずら)っぽく返事をした。


 睦月と霜月。

 彼らは現れた時と同じように、再びその姿を夜へと溶け込ませていった。




 ◆ ◆ ◇ ◇




 仕事へ向かう少し前。

 睦月は、センスのセの字もない服の羅列を見て悩んでいた。

 悩むことすら悩ましいと言わんばかりの状況に、軽く頭痛までしてきたくらいである。


 睦月の荒れた内面に対して、外見の様子は至って冷静だ。

 とても悩んでるようには見えないだろう。

 今までこの些細(ささい)過ぎる変化に気づけた者は、身内を除けばほぼ居ないに等しかった。


 しかし、どうやら隣の少年にはそれが当てはまらなかったらしい。


「睦月、気に入るのがなければ選ばなくてもいい。元から何を着ても良い決まりだ。万が一文句を言うやつがいたら、きちんと処理しておくから安心して」


 ──いったいどこら辺に安心すれば良いのだろう。


 睦月への配慮(はいりょ)は完璧なのに、その他への配慮が(ちり)ほどもない。

 一瞬頭が混乱するも、霜月が言うならそれで良いのかも……という結論に終わる辺り、睦月も大概のようだった。


「さすがに部屋着は気になるから、今度買いに行こうかな」


「なら、今回の仕事が終わったら、オーダーメイドで作ってみるのは?」


「オーダーメイド?」


 そんなことが出来るのかと驚く睦月に、霜月は目線をどこかへ流すようにした。

 おそらく、目の前に出ている自分専用の画面(モニター)を見ているのだろう。


「この仕事の報酬(ほうしゅう)が貰えたら作りに行こう。知り合いの店がオーダーメイドをしてるから、前もって話しておく」


「知り合い? 死神の?」


 霜月に死神の知り合いが?

 それも上司以外の?

 そんな睦月の心情を読み取った霜月は、どこか困ったような表情を浮かべている。


「まあ……うん。ただの知り合いだけど」


「ぜひそこでお願いしたいかな。いや、もうそこしか考えられないかも」


 珍しく前のめりで話す睦月に、霜月の眉が下がっていく。


「……睦月、もしかして面白がってる?」


「そんなことは……あるかな」


 正直に頷き「ごめんね」と謝る睦月に、霜月は慌てて首を振った。


「睦月が楽しめるならそれで良い。謝る必要はない」


 霜月の言動を見ていると、まるで自分の感情が読み取られているようで、睦月は不思議な気持ちで口を開いた。


「私、あんまり顔にも態度にも出ないから、今まで会った人には人形みたいって言われてたんだけど……。もしかして霜月は、けっこう分かってたりする?」


 睦月からの問いかけに、霜月は少し驚いたようだった。

 しかし、すぐに真剣な様子に変わると、真っ直ぐ睦月の方を見返している。


「それは……今まで会ったやつらに、見る目がなかっただけじゃないのか?」


 死神に嘘がつけない事を除いても、霜月を見る限り到底嘘だとは思えなかっただろう。

 そのくらい、霜月の顔は真剣そのものだった。


「睦月の考えてる事を正確に読む、とかは難しいけど、何となく考えてることくらいは分かってる……と思う」


 睦月の宙色(そらいろ)の瞳が大きく開かれ、中で輝く金の星が一際(ひときわ)色彩を放っている。


 人形みたいと言う表現は、あながち間違いでもないだろう。

 あくまで、()()()()()()()()()()と言うのが条件にはなってしまうが。


 白い肌に夜空のような髪が垂れる。

 サイドの三つ編みに使われた金色のリボンが()けかけているのさえ、睦月の人間離れした容貌(ようぼう)を表しているかのようだった。




 ◆ ◇ ◆ ◇




      これがほんとの一章目


   第一生 First Death ちっぽけな少年


      一生、始まりました。


 

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