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死神の猫  作者: 十三番目
第三傷 Third Guilty 真なる神へ告ぐ
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ep.26 能力の使い道


 飛び散る閃光を見ながらも、律がその場から動く気配はない。


 舐められていると感じたのだろう。

 どんどん強まっていく雷は、ラケルタの機嫌を表しているようだった。


「そのまま黒焦げにでもなるつもり?」

 

「まさか」


 落ち着いた様子の律に、ラケルタの怒りは募っていくばかりだ。


 突如、一際大きく弾けた閃光が律に向かって飛ばされた。

 律の側にある木を焼いた(いかずち)は、辺りに焦げた臭いを漂わせていく。


「あんた、今なにしたの」


 確かに狙って打ったはずだった。

 しかし、攻撃が律に当たることはなく、逸れた雷は木の幹を大きく抉っている。


「そうねぇ。跳ね返したとでも言えばいいかしら」


「跳ね返した……ですって?」


 自分の攻撃を跳ね返された。

 その事実は、ラケルタのプライドに油を注いだ。

 ばちばちと走った雷が、ラケルタの周囲で暴れ回る。


「適当に跳ね返すしか脳がないのね。辺りを焦土にでもするつもり?」


「適当だと思いたいなら好きにすればいいわ。でも、時間がないからそろそろ終わらせましょうか」


 余裕さえ見せる律に向けて、ラケルタは幾つもの雷を走らせると、一斉に攻撃した。

 しかし、ほとんどの雷は何故か律の身体に当たる直前で消えてしまう。


 動揺するラケルタの真横に、跳ね返ってきた雷が直撃した。

 すぐ側を通った雷は木に直撃し、辺りに幹の折れる音が響き渡る。


「どれだけ攻撃しようと無駄よ。あたしの能力は吸収と反射。周りにバリアを張ることで、受けた攻撃を吸収、または反射することができるの」


「そんな反則みたいな能力、何であんた如きが!」


「あら、この能力にも苦手なことはあるのよ。まあ……あなたが知ることはないでしょうけど」


 羨望(せんぼう)にも近い言葉を叫ばれ、律はくすりと笑みを漏らした。

 哀れみと侮蔑(ぶべつ)の混じった笑みは、ラケルタの神経を逆撫でしていく。


「あなたの能力は威力こそあれど、それだけ。順当に位を上げていれば、出来ることも増えていたでしょうに」


「知ったような口を……!」


 どれだけ稲妻の嵐を叩きつけようと、律には傷一つ負わせられない。

 消耗していくのが自分だけだと悟ってしまった以上、ここは撤退して立て直すのが正解──のはずだった。


 いつのまにか、連れてきていた死神の攻撃も途切れている。

 使えない死神に舌打ちしたラケルタは、強烈な気配を感じたことで視線を上げた。


「あたしの能力は反射と吸収って言ったわよね。さっきからずっと、あたしはあなたの攻撃をほとんど跳ね返さなかった。この言葉の意味が分かるかしら」


「……わざと吸収してたとでも言いたいわけ」


「ええ、その通りよ」


 まるで、雷が集束したかのようだった。

 目の前の敵は今まさに、この戦いに決着をつけようとしている。


「だからって何の──」


「吸収したものがどうなるか教えてあげる。こうして、蓄積しておけるのよ」


 莫大なエネルギーの塊だ。

 最小限の攻撃だけを跳ね返し、わざとラケルタの怒りに火をつけた。


 稲妻の嵐の中にいながら、律が大した反撃もしなかった理由はこれを狙っていたからなのだと。

 ラケルタが気づいた時には、既に何もかもが手遅れだった。




 ◆ ◆ ◇ ◇




 焼けた臭いが漂う中、律は沈黙したラケルタを静かに眺めていた。


 所々が焦げた髪と、修復が間に合わずぼろぼろのローブ。

 当のラケルタは木にもたれかかったまま、(うつむ)きぴくりとも動いていない。


「律〜、終わったー?」


 木の陰から、リブラが死神を引き摺りながら現れた。

 律が負けることなど微塵(みじん)も考えていなかったのだろう。

 リブラの声は、普段と変わらず軽快なものだった。


「こいつらのリーダー格は、睦月さんのところに居るみたいだよ。燕と時雨の方に居るのは、出雲(ここ)の地面を割った張本人と、精神系統の能力持ちだってさ」


「燕と時雨なら心配ないわ。さっき片付いたって連絡が入ってたもの」


「ふーん」


 軽い返事で流しながらも、リブラの声には(わず)かな安堵が混じっている。


「それよりも、今は睦月ちゃんと霜月ちゃんの状況が気になるわね。早く合流して、無事を確かめに行かないと」


「賛成ー。僕も睦月さんの安否が心配だったんだ。じゃあ、そこの死神も回収していかないとだね」


 そう話したリブラが、ラケルタへと視線を向けた瞬間だった。

 大きく揺れた大地と、二つに裂かれた海。

 地上に連なる海には、一本の道が出来上がっていた。


「あの場所ってまさか……」


「急ぎましょう」


 リブラから緩い雰囲気が消え失せていく。

 拘束したラケルタを担ぐと、律は燕たちのいる方へと足を向けた。




 ◆ ◆ ◆ ◇




 今いる場所は、陸地から続く海がよく見える。

 どうやら、アンブラの探し物は地上になかったらしい。

 残る先を見つめたアンブラが、海に向かって近づいていく。


「ミントと連絡はついた?」


「いや、死界との連絡はどれもつかない。おそらく……妨害されてる」


 ミントどころか、上司を含む誰一人と連絡がつかない。

 しかし、現世にいる死神同士はまだ連絡が繋がっている状態だ。


 だとすれば、大方の問題は死界(むこう)にあるということになる。


「どうしたの?」


 アンブラが海に近づくにつれて、魂が再び震えだした。

 怯えで震えているのではない。

 今の魂は、何かを伝えようと震えている。


 どうしてこの魂が残っていたのか分かった。

 生前は巫女だったと話す(彼女)は、(まつ)っていた神から神託を受けたのだと言う。


 アンブラが探しにきた物と、彼女に神託を与えた神には何か繋がりがあるのだろうか。

 それとも──。


「一足遅かったようだ。空間ごと場所を移されるというのは困ったものだね」


 海から感じていた痕跡。

 まだ微かに残るこの気配は、上司や朧月、三日月から感じたものとよく似ている。


「だが、手ぶらで帰るというのもつまらない」


 突然、地面がぐらりと揺れた。

 巨大な波が起こり、そのまま海が真っ二つに割れる。


 (そび)え立つ水の壁の中、現れた一本の道は海の奥に向かって続いていた。


 

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