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死神の猫  作者: 十三番目
第三傷 Third Guilty 真なる神へ告ぐ
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ep.25 ゲームの参加者


「おーい! 降りておいでよー」


 高く茂った木々に向かって、リブラは軽快な声を上げた。


 飛んでくる矢を処理しながら、もう一方が隠れている位置を推測していたようだ。

 この近くにいるのは間違いない。

 リブラの声には、そんな確信が込められていた。


「バレないよう四方から打ったつもりだったが……流石だな」


「あれ? 君はあっちの死神みたいに、僕たちを(あなど)ったりしないんだね」


 上から降ってきた死神は、ローブを深く被っている。

 不思議そうな表情を浮かべるリブラに、死神は呆れの混じった息を吐いた。


現世(ここ)に派遣されている時点で、実力があるのは間違いないだろう。本職の中でも、特殊な仕事を任される死神には変わったやつが多いと聞く。だが、その分強さは折り紙付きだ」


「あはは。自分が変わってるとか、考えたこともなかったや」


 おかしそうに笑うリブラを見て、死神の緊張が高まっていく。

 対してリブラは、この状況を楽しんでいるのかと聞きたくなるほど、いつも通りの雰囲気を漂わせていた。


「本当はもう少し遊んでたいんだけどさ、律から急ぐように言われてるんだよね」


 死神を囲うように、矢が現れ始める。

 そんな死神をよそに、リブラは指先を空で動かすと、「ヴェルダージ」と唱えた。


「よおリブラ! あのべっぴんさんとは上手くいってるか?」


「まあ……そこそこかな」


「こりゃ先は長そうだな」


 浮かび上がった魔法陣から、シルクハットを被った小人が出てきた。

 にんまり笑ったヴェルダージは、ギザギザの歯を(のぞ)かせながら、リブラに向かって声をかけている。


「ヴェルダージ、僕とゲームをしよう」


「いいぜ。俺っちに何を望むんだ?」


「そこに居る死神の拘束と、一緒に来た仲間の能力について」


「なっ!?」


 動揺する死神を気にも留めず、リブラとヴェルダージは淡々と話を進めていく。


「相手の拘束と、情報を聞き出すための強制権か。拘束の方はほとんど0に近いが、強制権は高く付くぜ。そうだな……。俺っちが勝った場合、ゲーム中に与えられた攻撃を全て受けること。これでどうだ?」


「決まりだね」


 リブラとヴェルダージを取り囲むように、黒い矢がぎっしりと集まっている。

 先端はリブラの方に向けられ、今にも突き刺さってきそうな鋭さだ。


 放ったはずの矢が途中で止まっている状況に、死神は混乱しているようだった。


「相手を盤上に引き込めば、代償のリスクはかなり下がるぜ。本当に良いのか?」


「今回はちょっと急ぎなんだよねー。大丈夫。睦月さんの運が規格外すぎただけで、僕も元々運は良い方だからさ」


 目の前の死神を、無理矢理ゲームに参加させることはできる。

 しかし、死神が拒否を示したり、一手一手を悩む度に、ゲームの時間は延長されていくのだ。


「それじゃ、始めてくれる? 難易度が同じなら、なるべく短時間で済むゲームでお願い」


「短時間ねぇ。ならこれが良さそうだ」


 ヴェルダージの手に、一枚のコインが現れた。

 大きさはヴェルダージに合わせてあるのか、かなり小ぶりなサイズだ。


「表か裏か決めてくれ。確率は二分の一。しかも、最初から最後まで運頼りのゲームだ。予想通りであればリブラの勝ち。そいつの拘束と情報の聞き出しを行おう。だが、もし外せば──」


「分かってるよ」


 これだけの数の矢を一気に浴びれば、戦線離脱どころか、死界に送り返されるかもしれない。

 死神は神力が高いほど治癒も速いが、身体中の損傷を瞬時に治せるのは高位以上の死神くらいだろう。


「表か裏。どっちにする?」


「お前……仲間の状況は知っているはずだろう? もし負ければ、仲間まで危険にさらすことになるんだぞ……!?」


「だからこそ、楽しいんじゃないか」


 笑顔だった。

 ギャンブルという遊びに染まり切ったリブラに、死神の言葉はかすりもしない。

 絶句した死神は、呆然と立ち尽くすしかなかった。


「裏にするよ」


「裏だな。そんじゃ、投げるぜ」


 ヴェルダージの手から浮かび上がったコインは、そのまま手の甲へと吸い込まれていく。

 見えないようもう片方の手で上から押さえると、ヴェルダージは視線をリブラに向けた。


「あー、良いねこの感じ。ゾクゾクする」


 うっとりした表情のリブラから視線を戻し、押さえていた手をゆっくり退ける。


「裏だな」


「僕の勝ちだね」


 コインは裏を示していた。

 喜ぶリブラをよそに、死神の身体を幾つかのリングが拘束していく。

 拘束を終えたヴェルダージは、死神の元へ颯爽と足を進めた。


「おめっとさん。これでゲームは終了だ」


 向かう途中で、ヴェルダージの手が高く上げられる。

 パチリと鳴った指はゲーム終了の合図だ。

 一斉に降ってきた矢の塊を、リブラは死神之大鎌(デスサイズ)で払い除けていった。


 ばらばらに散った矢は、そのまま形を失くしていく。

 死神の前でにんまりとした笑みを浮かべるヴェルダージを見ながら、リブラは大きく伸びをしていた。


「とりあえず、分かった事を伝えるぜ。仲間の数は全部で五人だ。一人はこいつで、能力は出現させた武器を自在に操れるもんらしい。もう一人は精神系統の能力者で、相手に幻覚を視せられるみたいだな」


 つまり、燕や時雨の元にいるのは、幻覚使いの死神ということになる。

 リブラの眉が少しだけ(ひそ)められた。


「残る三人だが、こいつはあまり知らないようだぞ。律の相手が雷。燕たちの相手が地面を操る能力だってことは分かったが、それ以上は無理だ。知識がなければ聞きようもないからな。特にリーダー格の死神については、何の情報も得られなかった」


「リーダー格の死神……。そいつは今どこにいるわけ?」


「報酬にはないが、まあこのくらいは良いだろう。睦月たちの所みたいだぜ」


 沈黙の後、リブラは大きくため息をついた。

 拘束した死神の首元を掴むと、律がいる方向に引きずっていく。

 脱力した死神はされるがままだ。


「そんじゃ、あとは頑張れよ」


 にんまりと笑みを浮かべながら、ヴェルダージは魔法陣の中へ帰っていった。

 弾ける音と、焦げた木の臭い。


 死神を引きずりながら、リブラはアパートの面々と睦月の無事に思いを馳せていた。




 ◆ ◇ ◆ ◇




【 お知らせ 】


 サポーターさんのお一方が閻魔推しと知り、(カクヨムの)限定ノートに書き下ろしを追加しておきました。


 物語だけでなく、キャラクターを好きになってもらえるのはとても嬉しいです。

 もし推しが出来た際には、ぜひ作者にも教えてあげてください。


 

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