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死神の猫  作者: 十三番目
第三傷 Third Guilty 真なる神へ告ぐ
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ep.24 燕の能力


 動かなくなった時雨を見て、カウダは笑みを深めている。


「おい、テメェのお仲間とやらはもう使えねぇみたいだぞ」


「……どうかな。現にまだ、雨は降ってるよ」


 燕の言葉通り、辺りにはまだ雨が降り注いでいた。

 時雨は今も戦っているのだ。

 この雨が何よりの証拠であり、時雨がまだ戦える状態であることを示している。


 だとすれば、燕がすべきことは、この雨が降り止むまでに決着をつけることだろう。


「ハッ。いつまで持つかも分からねぇだろうが。この雨が止んだら、次はテメェの番だからな」


「範囲外にいるのは分かってたけど、これで確実な位置も掴めた」


「ああ?」


「急いで片付けないと」


 木々の向こうに広がる暗闇さえ、死神の目には昼間と変わらず見えている。

 嘲笑うカウダが視界に入っていないかのように、燕はとある方角をじっと見つめていた。


 次の瞬間、燕の姿が消えた。

 カウダの攻撃を避けている時よりもさらに速く、燕の姿は暗闇の先に溶けている。


 止まない雨に打たれながら、カウダは思い通りにならない身体と、今し方目にした光景への苛立ちを募らせていく。

 宝月のように得体の知れない存在は、時に莫大な神力を内に潜め、ただの死神のように振る舞えると聞いたことがある。


 相手に与える威圧感も、畏怖も、恐怖心も。

 まるでちっぽけな人間のように感じるほど、綺麗に隠せてしまうのだと。

 

 初めて対面した時、見るからに神力が()()()()燕たちを、カウダはハズレだと思った。

 だからこそ、少しでも長く楽しむため、カウダの狙いは律たちの方へと向いていたのだ。


 ハズレはいったいどちらだったのか。

 位の高い死神ほど、相手に実力を読ませないように。

 見えるものでしか燕たちを測れなかったカウダでは、現状を打開する方法は無いに等しかった。




 ◆ ◆ ◇ ◇




「見つけた」


 木の枝に立ちカウダの動向を見ていた死神は、突然近くで聞こえた声に戦慄(せんりつ)した。


 カウダからは手を出すなと言われていた。

 しかし、雨の能力によりカウダが劣勢となったため、使い手である時雨を最も(いと)う記憶の中に引き摺り込んだのだ。


 能力を使用するには、安定した精神も重要になってくる。

 内側から崩せれば、面倒な雨を止ませることも、カウダの拘束を解くことも出来るはずだと考えていた。


 何より、直接援護に向かおうにも、雨が降っていては近づけない。

 止んだと同時に戦闘不能になった時雨を回収し、もう片方をカウダに任せて撤退する。


 それがこの死神の計画だった。


「何故ここに……!?」


 視線を向けた先で見えたのは、立ったまま動かない時雨と、その場に座り込むカウダだけ。

 たった一瞬目を離した隙に、背後まで迫られていたらしい。


「くそっ。どうして位置が分かったんだ……!」


「能力を使ったからかな」


 速すぎるスピードに付いていけない死神は、地面に降り立ち燕と向かい合う。

 隠密に優れている自覚があっただけに、こうも簡単に見つかったのが理解できない。


 それに、もし能力を使って位置を把握できるのだとすれば、とっくに自分の存在もバレていたはずだ。


「うーんと、能力を使った相手の位置を探知できるって言えば分かるかな?」


 (いぶか)しげな死神に対し、燕は意味が伝わるよう言葉を噛み砕いている。


「……つまり、俺が能力を使ったことで、位置を把握できたという訳か」


「そうなるね」


 話が通じた嬉しさから笑顔を見せる燕に、死神の背筋がぞくりと粟立(あわだ)っていく。

 こんなにも(いびつ)な笑顔があっていいのだろうか。

 無邪気なように見えて、その実、あまりにも仄暗いのだ。


「そろそろ時雨も戻ってくるだろうし、早く終わらせておかないと」


「……何を言っている。あの死神は既に(とら)われたも同然。俺が能力を解かない限り、現実に戻ってくることはない」


 死神之大鎌(デスサイズ)を構える燕に、死神の足がジリジリと後退していく。

 カウダさえ動けるようになれば。

 死神の脳内は、そんな言葉で埋め尽くされていた。


 けれどそれは、ただの希望的観測にすぎなかった。


「おれの能力は、使った相手の位置を知れるだけじゃないよ。──テリトリーに入った者の能力を、無効化することもできるんだ」


「……っ!?」


 絶望に近い雰囲気を漂わせた死神だが、何とか退路はないかと神経を張り巡らせる。

 燕の言葉通り、先ほどから幾度となく能力を使おうとしていたものの、燕が能力にかかった気配は一切ない。


 それどころか、時雨に向けていた能力が、上手く伝わらなくなっているのを感じた。


「く、くそぉっ!」


 なりふり構わず逃げようとした死神の前方へ回り込むと、死神之大鎌(デスサイズ)の刃を変形させ押さえ込む。

 ビベレの時のように、囲いに特化して変形した刃は、拘束した死神の身体をきつく締め上げていく。


 地に伏せた死神の背を足で踏みつけ、燕は時雨のいる方を振り返った。




 ◆ ◆ ◇ ◇




 捕らえた死神と共に戻った燕を見て、疲労の滲む時雨が手を上げた。


 カウダは死神を見るや否や、「役立たずが……!」と(ののし)っている。

 びくりと震えた死神は、恐れから身体を縮こませていた。


「律ちゃんたちも、もう少しで終わりそうだって」


「なら早く合流しようぜ」


 止んだ雨の中、時雨はカウダを拘束しようと死神之大鎌(デスサイズ)を手にしている。


 いきなり鳴り響いた轟音に、時雨たちは地上を見下ろした。

 亀裂(きれつ)だらけの地面と倒壊した建物。

 そして、その奥に広がる海。


 ──その海が、真っ二つに割れていた。


 大きく二つに分けられた水の壁が、海底の通路を挟むようにそびえ立っている。


「今度は何が起こってんだ……」


「あっちはたしか、睦月ちゃんたちがいる方向だよね?」


 心配そうな燕を、時雨は安心させるように膝で小突いた。



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