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死神の猫  作者: 十三番目
第三傷 Third Guilty 真なる神へ告ぐ
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ep.22 能力の相性


 地面に走った亀裂(きれつ)に、時雨はその場を飛び退いた。

 隣では燕が危なげなく回避しており、見た目と実力が比例しない様に「やはり死神だな」なんてことを考えてしまう。


 それこそ今更だ。

 時雨も死神になってからそこそこ経つ。

 人間だった頃と比べれば、かなりの時間を過ごしているだろう。


 ──何故、今になってこんなことを思い浮かべてしまうのか。

 時雨には、その心当たりが一つだけあった。


「クソが。ハズレかよ」


 吐き捨てるような口調に、時雨の不快感が募っていく。

 イライラした様子のカウダは、至極つまらなさそうな目で時雨たちの方を睨んでいる。


「いきなり奇襲してきてハズレとか、失礼なやつだな」


「何がハズレなんだろうね?」


 斜め上の疑問にも聞こえるが、燕は本心から不思議がっている。

 きょとりとした顔で首を傾げる燕に、カウダのイラつきが増していくのを感じた。


「ハッ。死神としての出来も悪けりゃ、頭も足りねぇってか」


「……燕、あいつどうすんの?」


「うーん。今回の件に関わってるのは間違いないし、とりあえず拘束かな。あとは律ちゃんに任せる!」


「じゃあそれで」


 カウダへの不快感から、時雨の眉間には皺が寄っている。

 燕の考えを聞いた時雨は、了承の返事と共に、手元に死神之大鎌(デスサイズ)を呼び出した。


「向こうが先に仕掛けてきたんだ。それなりの反撃は許されるよな?」


「たぶんね!」


 その言葉を合図に、時雨と燕は左右に分かれていく。

 地面から突き出た棘を避けながら、木々を足場に軽々と移動していく燕は、飛んでくる土塊(つちくれ)死神之大鎌(デスサイズ)で薙ぎ払っている。


 カウダと一定の距離を保ちながら動く燕に対し、時雨はじわじわと距離を詰めているようだった。

 状況を把握しながら、死神之大鎌(デスサイズ)死神之大喰鎌(デスイーター)に変更するよう印に要請する。


 突如、目の前に突き出た一際大きい棘を、時雨は刃の部分で咄嗟に受け止めた。


「デケェのは口先だけか?」


 反動で吹っ飛んだ身体を、上手くいなし着地する。

 嘲笑(あざわら)うカウダを視界に収めながら、時雨は気遣う燕へ先ほどから覚えていた違和感を口にした。


「申請が通らねぇ」


「やっぱり時雨も? 印は起動状態だし、この状況で申請が通らないなんてあり得ないはずだけど……」


 通常、死神之大鎌(デスサイズ)には仕事をする際に必要な能力が備わっている。

 対して、死神之大喰鎌(デスイーター)は攻撃のみに特化した形態だ。


 第一段階と第二段階があり、一段階目では大鎌(サイズ)の色や形、使える能力が変化する。

 本来であれば、死神之大鎌(デスサイズ)を支給された死神が、個々の判断で解除することが出来るものだった。


 しかし、印が刻まれてからは、申請を通さなければ解除することが不可能になってしまったのだ。

 それでも、現在まで要請が却下されることはなかったため、大きな問題が起こることはなかったのだが──。


「おいどうした。グズグズしてると消しちまうぞ」


「……っ!?」


「時雨!」


 勢いよく突き出た棘が、時雨の顔を抉っていく。

 反射的に仰け反ったことで、幸いにも(まぶた)より上の皮膚を裂いただけで済んだ。


 傷口から溢れ出た赤が、顔の表面を伝い落ちる。

 血液と同じ色をした赤は、地面に落ちる前に変色し、そのまま黒い霧になって消えていった。


「いってぇな」


 近寄って来ようとする燕を手で制し、時雨は静かに呟いている。


 治すのは後回しでいい。

 今は目の前の()を片付けることが、何よりも優先すべき事だと判断したのだ。


「お前、さっきから能力しか使わねぇのな。現世にいる割に、死神之大鎌(デスサイズ)は持ってねぇわけ?」


「……テメェらこそ、そんなもん使いやがって。神を冒涜(ぼうとく)してんのか?」


「そっちこそ、自分が何を言ってるか分かってるの?」


 死神之大鎌(デスサイズ)には、死界を創った神が死神たちを守るために内包した能力が詰まっている。

 本職の死神を目指す者の中には、死神之大鎌(デスサイズ)を手にしたいからという理由で目指す者さえいるくらいだった。


 そんな武器を(いと)う死神がいるなんて、思いもしなかったのだろう。

 揺れる燕の瞳には驚きと悲しみ、そして苦痛が浮かんでいる。


 本当は、燕も何となく分かっていた。

 それでも、受け入れたくなかったのだ。

 燕たちの仕える神は、今も変わってなどいない。


 あの頃のまま、唯一無二の存在なのだから──。


 突然降り出した雨に、カウダは空を見上げた。

 雨の匂いはしなかった。

 木々の隙間から見える空にも、特に雨雲は見当たらない。

 それなら、この雨はいったい何なのか。


 異変に気づいたカウダは、能力で急速に壁を作っていく。

 地面をドームのように被せ雨を遮るが、もはや手遅れだった。


「土なんて簡単に雨が染み込む。残念だったな。お前と俺の能力じゃ、相性が悪すぎるんだよ」


「なっ!? テメェ、何しやがった!」


 カウダの意思に反して、地面が元の形へと戻っていく。

 再び攻撃に転じようとするも、存分に雨を浴びたカウダの身体は、石のように硬まって動かない。


「ほんと……あいつとの相性も最悪だって言うのにな」


 時雨の脳裏に、氷のような雰囲気を纏った死神が浮かぶ。

 思わずため息をついた時雨は、身体を自由に動かせず、怒りで歯ぎしりするカウダの方を見た。


「しばらくそこに座っとけ。燕、りつお……律との連絡はついたのか?」


「一応は。ただ、向こうも交戦中みたい」


「ああ。だからハズレってわけ」


 憎々しげに時雨たちを睨んでいたカウダだったが、会話を聞いた途端、にやりと口の端を吊り上げている。


 

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