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死神の猫  作者: 十三番目
第三傷 Third Guilty 真なる神へ告ぐ
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ep.21 死神と死神


「あ? テメェ邪魔しやがったな」


 霜月を非難した死神はフードを被っておらず、大柄な身体をしていた。

 粗野(そや)な振る舞いを見せる死神の近くには、他にもローブを(まと)った死神が何人か立っている。


 大柄な死神は機嫌が悪そうに霜月を睨んでいたが、私と視線が合うと訝しげな目つきに変わった。


「この女どこかで……」


「彼女へのプレゼントは、無事に買えましたか?」


 威吹を逆恨みし散々暴れた挙句、警備課から逃走までした死神と、まさか現世(ここ)で会うことになるとは思わなかった。


「……ああ、思い出したぜ。ゴミ野郎の近くで、鈍臭そうな奴が一匹巻き込まれてたっけなぁ」


「あらカウダ。知り合いだったの?」


 見下すように鼻で笑ったカウダだが、目には強い警戒が現れている。

 隣に立っていた死神がカウダに腕を絡ませると、猫撫で声で話しかけるのが聞こえた。


「ラケルタが気にするような奴じゃねぇ」


「ふーん、そう」


 カウダは腕に絡みつく死神をラケルタと呼ぶと、荒いながらも優しさの感じられる態度で応えている。

 初めは興味のなさそうなラケルタだったが、突然こちらを睨むと、値踏みするような目で見てきた。


「その服……オーダーメイドよね」


 黙って見返していると、ラケルタの顔が怒りに歪んでいく。


「ムカつくわねあんた」


「ハッ、どうせあのゴミが贔屓(ひいき)してやったんだろ。気に食わねぇし、この女もついでに消しとくか?」


「いいわねカウダ。でもまずは、あの澄ました顔からぐちゃぐちゃにしてやりたい気分よ」


 強烈な冷気が辺り一面を凍らせていく。

 広がっていく氷は、まるで海中に生まれる死のつららのようで。


 足元にまで到達しそうな氷を見て、カウダたちに初めて焦りの色が浮かんだ。


「止めなさいおまえたち」


「アンブラ様……!」


 一番後ろで状況を見ていた死神が、ゆったりと前に進み出てくる。

 ラケルタの様子を見る限り、この死神がリーダー的存在なのだろう。


 他の死神はもちろん、あのカウダさえも、大人しくアンブラと呼ばれた死神に従っている。


「おまえたちではその死神に敵わない。当初の計画通り、他の死神の対処へ向かいなさい」


「仰せのままに……」


 目線を下げたラケルタが、カウダと共に退がっていく。

 待機していたフードの死神たちを引き連れ、ラケルタとカウダは何処かへ消え去っていった。


「君もこれ以上は止めた方がいい。同族同士で戦闘を行えば、自戒が発動しかねないことは知っているだろう?」


「……同族?」


 今日の天気でも話すかのように、アンブラの声は平然としている。

 反面、呟いた霜月の声には、濃縮された感情が限界まで詰まっていた。


「よくそんな妄言が言えたものだな」


「私は探し物をしに来ただけだ。君たちと争うつもりはないよ。……ただし、邪魔をするというならその限りではないがね」


 (かたわ)らに浮かぶ魂が、小さく振動している。

 アンブラの圧に怯えているのだろう。

 手で包み込み胸元に寄せると、幾分か落ち着いたのを感じた。


「霜月」


 アンブラへ向かっていた剣先のような感情が、瞬く間に雲散(うんさん)していく。

 一瞬で氷を引かせた霜月に、アンブラは興味の込もった目で私の方を見た。


「なるほど、君がそうか」


 穏やかに話しているようで、その実、かなりの激情を隠している。

 自戒の印がある以上、霜月に余計なリスクを負わせたくなかった。


 威吹はカウダの印が()()()()()と話していた。

 もし他の死神も同じなのだとすれば、面倒なことが起こっているのは間違いないだろう。


《要請を確認中》

 緊急時は自戒の拘束を緩められるが、先ほどからモニターには同じ文字が出続けている。


 明らかに対応が遅い。

 同じ死神でありながら、片や印の拘束を受けていないのだ。

 どう考えても、こちらが圧倒的に不利だと言えよう。


 むしろ、これが狙いかと思えてしまうほど、私たちの状況はがんじがらめになっている。

 玉座が奪われてからの死界は、私が考えていたよりもずっと腐敗しているのかもしれない。


 アンブラは、声だけ聞くと壮年の男のように思えた。

 穏やかに話す様子は、カウダたちと比べれば良心的にさえ見えるだろう。


 けれど、井戸の底に行くほど何かが溜まっているように。

 アンブラからは、底知れない(よど)みのような物を感じた。


「とにかく、穏便に行こうじゃないか」


 そう言って手を広げた死神の姿に、胸の印がチリリと痛む錯覚に襲われる。

 現状を打開するための方法を、持っていない訳じゃない。

 しかし、こちらも相応のリスクを背負うことになるだろう。


 それでも──。

 私を守るためなら、霜月はきっと何だってする。

 それが分かっているからこそ、私も手段を選ぶ事は止めにした。


 アンブラの探し物が何なのか。

 今は少しでもこの状況を把握することが優先だ。

 律たちの安否を思いながら、私は胸元の魂を安心させるよう手に力を込めた。




 ◆ ◆ ◆ ◇




「あでっ!」


 突然立ち止まった律の背中に、リブラは顔を打ちつけている。

 鼻を押さえながら離れたリブラは、律の視線の先、進路を(はば)むように立つ死神の方を見た。


「情けない死神ね。私の相手がこんなのだなんて、カウダと交換しておけば良かったかしら」


「リブラ、言われてるわよ」


「ちょっと考え事をしてただけなのになぁ」


 呆れた様子の律に、リブラは心外だと言わんばかりの顔をしている。

 小馬鹿にしてくるラケルタに対し、リブラの口から「性格もブス……」なんて言葉が溢れ落ちていく。


 怒りを露わにするラケルタに向かって、リブラは(あお)るように舌を出してみせた。


 

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