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死神の猫  作者: 十三番目
第三傷 Third Guilty 真なる神へ告ぐ
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ep.17 新たな依頼


 病室の中へ入ると、ベッドの上に座っていた威吹と視線が合う。

 挨拶代わりに手を上げた明鷹は、ベッド脇に置いてあった椅子へと腰掛けた。


「調子はどう?」


「あー、自分では良いつもりなんですけど……」


「紬に止められてるってわけね」


 眉を下げる威吹に、明鷹はからりとした笑みを浮かべている。


「紬が言うことには従っておいた方がいいよ。現に威吹、まだ能力が欠けてることに気がついてないでしょ?」


「えっ。もう回復したかと思ってました」


 驚く威吹の肩を叩くと、明鷹は病室の空間をぐるりと見回した。

 病室というより、落ち着いた作りの部屋に見える。


 しかし、さすがは紬の管理する空間だ。

 部屋の隅々にまで神性が満ちていた。

 神官である紬は、神の権能を他よりも多く借りられる存在だ。


 未だ死界の根源は、以前の神が創り出した状態のまま。

 そこから力を借りられる紬の元であれば、威吹の状態もかなり良くなるだろう。


「ま、今は休んでおくといいよ」


「ありがとうございます」


 上司となった明鷹の言葉に、威吹は素直な感謝を口にした。


「そういえばさ。霜月、かなり機嫌よさそうだったよ?」


「マジですか……?」


「大マジ」


 思わず崩れた口調になる威吹だが、明鷹も同じ調子で乗っかっていく。


「威吹が心配だって言ってたから、近くを通ったついでに寄ってきたんだけどね。霜月ってば、周りに花でも飛んでるのかと思うくらいだったよ。しかもさ……睦月ちゃんにちょっかいかけても、睨まれるだけで済んだんだ」


「そっ、それは何と言うか……衝撃的ですね」


「僕が思うに、あれは本妻の余裕ってやつだよ」


 真面目な顔でそんなことを言う明鷹に、威吹は軽く咳き込んだ。

 とんでもない例え方をしている。

 本妻だなんて、万が一にでも霜月が聞いたら……。

 聞いたら……。


「そうかもしれないですね」


「あ、やっぱ威吹もそう思う?」


 威吹は考えることを放棄した。

 楽しそうに話す明鷹の後ろから、壁を通り抜け紬が室内へと入ってくる。


 威吹が声をかけるより早く、病室で騒ぐ明鷹に向けて、紬が笑顔のまま何かを振り上げたのが見えた。




 ◆ ◆ ◇ ◇




 美火の目が、狙いを定めた猫のようになっている。

 じっと上司の方を見ているが、かと言って口を開く気配はない。


 背に垂れた三つ編みを、瞬きもせずただ見つめているだけだ。


「気になるの?」


 強烈な視線を受けながらも、上司はどこ吹く風とばかりにデスクで仕事を続けている。

 これでは(らち)が明かないため、私から美火に声をかけてみた。


「……はい。あの髪、睦月さんが結んだんですか?」


「そうだよ」


 上司が三つ編みをしていることが、そんなに珍しかったのだろうか。

 よく似合っているし、私にとっては満足のいく出来映えだ。


「お上手なんですね」


「普通だと思うけど。そんなに気になるなら、美火も結んでみる?」


 昔から、やれば一通りこなせる(たち)だった。

 記憶力は言うまでもなかったし、苦手なことも特にない。

 勉強も運動も、それ以外の事も。

 全て問題なくこなせていた。


 教えたことを器用にこなす私を見て、父は「僕の娘は天才だ!」なんて叫んでいた。

 唯一の例外は、手作りの料理を食べた父が、泡を吹いて倒れたことくらいだろう。


 美火は私の言葉に目を輝かせている。

 機嫌が直ったようで一安心だ。

 ソファーの後ろに回り、美火の頭から黒いリボンを(ほど)いていく。


 長さはボブだから、ハーフアップとかが良いかもしれない。

 髪を()かし、上の部分だけを手に取る。

 そのまま何度かねじり、仕上げにリボンで留めておいた。


 猫耳のようなリボンも可愛かったが、今回は少し下の方で結んである。


「はい、出来たよ」


「ありがとうございます」


 そわそわした様子の美火は、亜空間から鏡を取り出すと、髪を見て嬉しそうに微笑んでいる。

 亜空間には服の他にも色々と仕舞えることを知ってから、櫛や髪ゴムなども入れておいたのが幸いだった。


 近くで大人しく座っていた霜月に目を向けると、当然のように視線が合う。

 複雑そうな顔をしているかと思いきや、意外と平気そうだ。


 出会った頃に比べて、私の様子を深く(うかが)い過ぎることはなくなった霜月だが、その分他への嫉妬は増していた。


 そんな霜月が、美火に構っている間も穏やかに待っていられるようになるなんて──。

 感動にも近い気持ちで見つめていると、私の考えていることを察した霜月が、恥ずかしそうに視線を逸らしていく。


 霜月は前髪が少し長いため、編み込んで横に流してみるのも良いかもしれない。

 今度、前髪を留めるピンでも買ってこよう。

 なんて脳内で決意していると、上司から声をかけられた。


「睦月、霜月。現世に戻った後、一つ仕事をお願いします」


「分かりました」


 仕事を依頼されるのはこれで二回目だ。

 初仕事はハプニングだらけだったが、今回は何事もなく終われるだろうか。


「人間の大量死が予定されている場所があります。そこに向かい、魂の仕分け及び、選別所への転送を行ってきてください」


 

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