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死神の猫  作者: 十三番目
第三傷 Third Guilty 真なる神へ告ぐ
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ep.15 夜の帷


「あの時は外だったでしょ? それに前は威吹がいたから、姿を見せるのは止めておいたの」


 シルフィーは、「まだ気づいてないから内緒よ」と言いながら唇に指を当てている。

 威吹が自分で気づくまで、姿を現すつもりはないらしい。


「いつ話せるのかしらって思ってたら、タイミングを逃してしまって。正直言うと、美火が攻撃してくれなかったら、今回も話せなかったかもしれないわ」


「シルフィーってばシャイだからさ」


「うるさいわよ明鷹」


 美火の攻撃は、案外ファインプレーだったようだ。

 何食わぬ顔で隣に移動してきた美火だが、目だけはまだ警戒した様子で明鷹の方を見ている。


「普段はシルフィーの能力に加えて、僕の力も上乗せしてるんだ。だから、もしも気づけるとしたら、それは僕より実力が上の死神。または、かなり珍しい能力を持っている……くらいしか思いつかないんだよねぇ」


 含みのある笑顔には、強い興味が混じっている。


「ま、僕もそれなりの地位にいるからさ。睦月ちゃんみたいなのは、極めてレアなケースって言えばいいのかな。シルフィーが興味を持つのも、当然と言えば当然なんだよね」


「私たち精霊は、自分たちを認知できる存在が大好きなの。特に、目がいい子なんて最高に好みだわ。もし現世のどこかで精霊に会おうものなら、取り憑かれていたレベルよ」


 きらりと目を光らせたシルフィーは、どうやら精霊だったらしい。

 死神ではないと思っていたが、死界(ここ)で精霊に会うのは初めてだ。


 話を聞きながら、同時にデータベースへとアクセスする。


 ──精霊について検索。


 【精霊】

 妖精と似て非なるもの。

 明確な形を持たず、内包する力は妖精よりも強い。

 契約を交わさない限り定まった姿を持つことはないが、依代(よりしろ)を使い顕現することは可能である。


「ただでさえ交流したくても出来ないんだもの。おまけに、今の死界は規制ばっかりで窮屈(きゅうくつ)だわ。せっかく好みの子に出会えても、自由に動き回ることさえ難しいなんて酷い仕打ちよね」


「なら、たまに遊……見回りに来るのはどうかな?」


「あら。いいわねそれ。賛成よ明鷹! 私、またこの子に会いたいわ!」


 漏れかけた本音を修正し、それっぽい話をする明鷹に、はしゃぐシルフィーが大きく賛同している。


「ねえ、睦月って呼んでもいいかしら?」


「どうぞ」


 嬉しそうに目を輝かせたシルフィーは、「私のこともシルフィーって呼んで」と言いながら手を握ってくる。


「睦月が死神で良かったわ。もし人間だったら、連れていってしまってたもの」


「連れてく?」


「ふふ」


 軽やかな笑い声を立てたシルフィーは、私の両隣から突き刺さる視線に笑みを深めると、明鷹の方にふわりと戻っていく。


「心配しなくても、三界の存在に手を出したりはしないわ。私たち、無謀なことはしない主義なの」


 私たち、ね。

 以前、明鷹も上司に向けてそんな事を言っていた。

 (うわさ)をすればではないが、その上司からちょうど連絡が届いている。


「上司から呼ばれたので外します。霜月と美火はここで待ってて。明鷹さんとシルフィーはまた」


「立ち話させちゃってごめんね」

 

「また会いに来るわ睦月」


 ひらひらと手を振る明鷹と、残念そうな様子のシルフィー。

 複雑そうな雰囲気の霜月と美火に見送られ、私は一足先に部屋を後にした。




 ◆ ◆ ◇ ◇




 思えば、死局の中にも色々な空間が繋がっている。

 要所要所に転移する場所が設けられているため、外観よりも内側の方が圧倒的に大きいのだ。


 もし人間がここに来たら、一生迷ってしまうかもしれない。

 そんな事を考えながら進んでいると、見たことのない空間に到着した。


 上司からの連絡では、ここに来るよう指示されている。

 もしかして、ここも上司の所有する空間(エリア)なのだろうか。


 中に入ると、全体的に薄暗い廊下が続いていた。

 死神の目に光源は必要ないため、見えにくいなどの問題は一切ない。


 道なりに進んでいくと、廊下を抜けた先に両開きの扉があった。

 重そうな扉に手をかけると、思いの(ほか)簡単に開いていく。


「すごい量の本……」


 螺旋階段のように高く伸びた本棚と、数えきれないほどの書物。

 ぎっしり並べられた本は、床から天井まで続いている。


「他の世界の本も置かれていますからね」


「……それって、天界や魔界の本もあるんですか?」


「ありますよ。空間を分けているので、ここには置かれていませんが」


 背後から現れた気配は、そのまますぐ後ろまで移動してくる。

 目の前の本棚から一冊の本を抜き取ると、上司はそれを手渡してきた。


「これは朧月が集めた物です。本というより、記録書に近いかもしれませんね」


「読んでもいいんですか?」


「構いませんよ」


 その場でページをめくり出す私に、上司は奥の椅子を使うよう伝えてくる。

 移動しようと顔を上げた瞬間、目の前の光景に私は思わず手を止めていた。


「……髪、下ろしてるんですね」


 腰まである長い髪は、闇よりも濃い純黒で。

 深い黒が肩から滑り落ちる様は、まるで夜が(とばり)を下ろすかのようだった。


 

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