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死神の猫  作者: 十三番目
第三傷 Third Guilty 真なる神へ告ぐ
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ep.14 あの時の真実


「で、いつ帰るんですか」


「えー、美火ちゃんってば冷たーい」


 いかにも悲しげな表情とは裏腹に、明鷹の声は軽々しい。

 目を鋭くさせる美火を見て、明鷹は仕方がなさそうに立ち上がった。


「分かったよ。目的は済んだし、そろそろお(いとま)するとしようかな」


 高くなった目線と、そこから見下ろされる視線。

 こちらを観察するような意図を感じ、顔を上げた。

 明鷹は目が合うと、何やら意味深な笑みを浮かべてくる。


「睦月ちゃんさ、雰囲気変わったよね」


「それ、威吹くんにも言われました」


「威吹に?」


 返された声はやけに楽しそうだ。


「良い感じに育ってるようで安心したよ。少し早いけど、昇格試験を受けさせてもいいのかな」


「昇格試験?」


「あれ? 睦月ちゃん知らない感じ?」


 不思議そうな様子の明鷹に、訳がわからず首を傾げる。

 互いによく分かっていないまま見つめ合っていたが、先に口を開いた明鷹が、ちらりと霜月の方に視線を向けた。


「最近だと、霜月が受けに来てたはずだけど……」


「ああ、それで死界に戻ってたんですね」


「もしかして、何も聞いてなかったの?」


「死界でやる事があるっていうのは聞いてましたよ」


 明鷹は呆れたと言わんばかりに頭を押さえると、そのまま小さく(うな)っている。


「ここの死神は、どうしてこうも言葉が足りないのばっかりなのかな。そりゃ言えないこともあるだろうけどさ、パートナーならこの件については話しておくべきでしょうが」


 霜月は自分より私を優先する思考の持ち主だ。

 客観的に見れば話しておくべきことでも、霜月からすればそうではなかったのだろう。


 とは言え、明鷹の言葉に対し思うところもあったようで。

 隣から不安そうな視線を受けたので、何度か頭を撫でておいた。


 一応付け加えておくと、霜月が気にしているのは話の内容でも明鷹の考えでもなく、その話を聞いて私がどう思ったかだ。

 明鷹の声に半分諦めが混じっているのも、そうした現状を理解しているからなのだろう。


「昇格したらどうなるんですか?」


「主なものだと、位に応じた権限の解放かな。出来ることが増える分、使える能力の幅も大きくなるんだ」


 以前から、霜月が新人らしくないことには気づいていた。

 位を上げられるなら、それに越したことはないはずだ。

 それに、霜月なら間違いなく試験には合格しているだろう。


「利点が大きいですね」


「基本的にはそうかもね。だけど、位の差が開けば、上が睦月ちゃんたちのパートナー契約を解消させようとするかもしれない」


 不意に走る感覚に、またかと内心でため息をついた。

 私と霜月を引き離そうとする誰かの意思を感じるたび、胸にじりりとした不快感が走っていく。


 リーネアの時も、今この瞬間も。

 これまで経験したことのない感情に、心ではさざ波が立っているのだ。


特別警備課(僕たち)が優秀な人材を欲しているように、上もまた手元に引き込む機会を狙っている。霜月ほどの死神なら、引く手は数多だからね。もし常闇の部下じゃなかったら、今頃は……」


「霜月は私のパートナーです。誰にも渡したりしません」


 かち合った視線の先、明鷹の瞳に興味の色が浮かんでいく。


「やっぱいいね、睦月ちゃん。変わったのは雰囲気だけじゃないみたいだ」


 獲物を狙う鷹のように、明鷹の関心は一つに絞られている。

 何が琴線(きんせん)に触れたのかは分からない。

 けれど、少なくとも明鷹の感情を刺激したのは確かなようだった。


「ほんと、常闇んとこの部下じゃなかったら……ってあつぅ!」


 明鷹がこちらを見ている背後で、鋭い目をした美火が炎を出現させたのが見えた。

 美火はその炎を、そのまま明鷹の背中へとぶつけている。


「ちょっ、美火ちゃん!?」


「いつまでそこに立ってるつもりですか。あと、睦月さんはあげません」


 帰りがけだったこともあり、明鷹はドアの近くに立っていた。

 背後から結構な炎を当てられていたが、背中は無事だろうか。


 美火の方を振り向いた拍子に、明鷹の背中がはっきりと目に入ってくる。

 警備課よりもシックに見える制服には、少しの焦げも見当たらない。


 肩からかけられたローブは、ローブというより軍服に近い作りをしている。

 (ひるがえ)った部分がゆらゆらと揺れていて、それがやけに不自然な動きをしているなと思った時だった。


「物騒な女は嫌われるわよ、美火」


 肩から軍服が離れ、()がれ落ちるように形を変えていく。

 長い髪が(なび)き、ヒラヒラとしたワンピースが空に舞った。


 現れた少女は明鷹の首に腕を回しながら、優美にその場で浮かんでいる。


「助かったよシルフィー」


「明鷹ったら、都合が良いんだから。次は庇わないわよ」


「ええー。そんなこと言わずにさぁ」


 まったくもうとでも言いたげに明鷹を見たシルフィーは、美火の方を向くと眉を吊り上げた。


「いくら明鷹がうざくても、手段は選んでちょうだい。物理的な攻撃を防ぐのは私の担当なの。どうしてもしたいなら、精神的な攻撃をお勧めするわよ」


「ちょ、シルフィー?」


「次からはそうします」


「次とかなくていいからね!?」


 どちらの味方か分からない態度を取っていたシルフィーだったが、私と目が合った途端ハッとした表情に変わる。

 そのまま目の前まで飛んでくると、やけに嬉しそうな様子で話しかけてきた。


「貴女、会いたかったわよ!」


 飛びかかるほどの勢いに驚いていると、霜月がシルフィーとの距離を離すように手を引いてきた。

 明鷹も、興奮気味のシルフィーを落ち着かせようと声をかけている。


「こらこら。いきなりだと睦月ちゃんもびっくりするでしょ?」


「だって……やっと話せたのよ?」


 不満げに唇を尖らせるシルフィーだったが、明鷹の言葉に大人しく引き下がっていく。

 少し距離が空いたところで、シルフィーは再び口を開いた。


擬態(ぎたい)している私を見破るなんて、貴女すごく目がいいのね。高位の死神でもなかなかないことよ。一目見て私の正体に気づいたのは、貴女を除けば宝月くらいだもの」


「シルフィー」


「何よ。死界(ここ)でこの言葉を禁止するなんて、ほんと不便な世界になったものね」


 月という言葉に、部屋の空気がぴりつくのが分かった。

 上司の空間とは言え、やはり言葉は控えた方がいいようだ。

 ふんと鼻を鳴らしたシルフィーは、髪を手で払うと「分かったわよ」と呟いた。


「睦月ちゃんさ、初めて会った時のこと覚えてる?」


「覚えてますよ」


 どんなに昔であろうと、私の記憶は薄れる事がない。

 明鷹と初めて会った時のことも、鮮明に記録されている。


「あの時、睦月ちゃんは僕のローブを見て特注品かって聞いたよね」


「たしかに聞きましたね」


 今回ほどはっきりした形状ではなかったものの、明らかに周りと違うローブを着ていたのだ。

 目立つに決まっている。


「シルフィーの擬態は、同じ死神にも有効でね。そう簡単に見破られたりはしないんだ。あそこにいた他の死神には、僕のローブも睦月ちゃんたちと同じような物に見えていたはずだよ」


 

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