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死神の猫  作者: 十三番目
第三傷 Third Guilty 真なる神へ告ぐ
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ep.12 本命と漏洩課


 本家(かぐら)で会った西宮の娘も、大概こんな感じだった。

 陽向(ひなた)には依子(よりこ)と呼ばれていたが、どう考えても()()()()()ではないだろう。


 今度会ったら、結婚相手にはお勧めしないと伝えておかなければ。

 まあ、相手に向ける感情に関して言えば、依子(あっち)は動機が不純だが、こっちは多分……純粋だ。


 やり方が違えば、今よりマシな結果も得られたかもしれない。

 どのみち、もう手遅れだけど。


「あなたも少しは落ち着いた?」


「……っ」


 よしよし偉いぞーとばかりに霜月の頭を撫でていたが、その姿さえ少女の(かん)に障ったらしい。

 さっきより悪化している気がする。


 癇癪(かんしゃく)持ちはいきなり爆発するから面倒なのだと。

 祖母が存命だった頃、よくぼやいていたのを思い出した。


「あー、ごめん。やっぱ止めとけばよかったわ」


「このまま首が飛んじゃうのかな〜」


「逝く時はみんな一緒だよ……」


「俺まで道連れにしようとすんな」


 情報漏洩課の職員たちが(ささや)き合っている。

 そういえば、死局を首になった死神はどうなるのだろうか。


「……納得いかないです。死神になったばかりのくせに、霜月くんのパートナーだなんて……! 所属先が異端(いたん)なら、立場まで異例になれるんですね!」


 異端、ね。

 なるほど。

 この少女はどうやら、()()()()のようだ。


 霜月は耳障りだと言わんばかりの顔をしていたが、私と目が合ったことで幾分か表情が緩んでいく。


「誰か止めろー。あいつを止めてくれー」


「もう手遅れですって。諦めましょ〜」


「赤信号……みんなで渡れば怖くない」


「俺は青で渡るからな」


 失う物がなくなると無双状態になるのは、人も死神も同じだったらしい。

 同僚というだけで連帯責任は可哀想なので、後で口添えでもしてあげようと思う。


「それで、どうしたの?」


「……え?」


「仕事に私情を持ち込むのは勝手だけど、やり方が間違ってるよ。どれだけ私にぶつけようと、状況は何も変わらないはずだよね」


 返す言葉が見つからず、少女の顔が悔しそうに歪む。


「あなた名前は?」


「……リーネア」


「じゃあリーネア。率直に聞くけど、リーネアは霜月とどうなりたいの?」


「……は、え? ……はい!?」


 焦りや恥ずかしさで顔が真っ赤になっていく。

 ごちゃ混ぜになった感情のままどもっていたリーネアは、混乱から言葉が出ないようだった。


「これが本妻の余裕か……」


「超強い〜」


 情報管理課の面々は、完全に野次馬と化している。

 職員(かれら)の中では、私と霜月の関係が随分と飛躍(ひやく)しているみたいだ。


「どっ、どうって……なんで貴女にそんなこと……!」


「私の立場が気に入らないだけなら、こうして直接話しかけてくることもなかったはずだから。位のある死神ではなく、わざわざ出来損ないの死神とやらに話しかけてきたのは、霜月への私情が強かったからでしょう?」


「それは……」


 言い(よど)む姿を眺めていると、拳を握ったリーネアがこちらを(にら)んできた。


「少なくとも、貴女は霜月くんのパートナーに相応しくありません! 本当なら、私がなってるはずだったのに……。大した力もない貴女より、私の方がずっと力になれ──」


 はらりと舞った髪が、地面に落ちていく。

 おさげにしていた髪の一部がスッパリと切り取られ、左右で長さが異なってしまっている。

 リーネアはまだ、何が起きたか分かっていないようだった。


「ごめん睦月。手が滑った」


「手が滑ったなら……しょうがないね」


 騒ぎも大きくなってきていたし、これで少しは冷静になってくれると助かるのだが。

 現世では髪は女の命とも言われているが、死界(ここ)では長さも修復可能だと紬が話していた。


 その場から動かないリーネアの目を、しっかりと見返す。


「たしかに、仕事ではリーネアの方が力になれるのかもしれない」


 何かを言いかけた霜月を止め、リーネアに向かってはっきりと続ける。


「でも、もし本当に霜月のことが好きなら、今後は手を引いてほしい。私の方が絶対、霜月を幸せにできるから」


 正確には、私といた方が霜月は幸せだと思うよ。

 みたいなことが言いたかったのだが、このくらいなら誤差の範囲だろう。


 漏洩課からは、「キャー!」とはしゃぐような声が聞こえてくる。

 野次馬というより、もはや観客気分のようだ。


「仮にも死神とあろう者が、何たる醜態(しゅうたい)でしょうね」


 突如、凛とした声が響き渡った。


 壮年の見た目をした女性は、後ろで纏められた団子の髪と、片側だけの眼鏡をかけていた。

 いきなり現れたのを見る限り、直接転移してきたらしい。

 位が高い死神なのは間違いないだろう。


「最近の行動は目に余ります。どうやら貴女は、上手く見極めが出来ないようだわ」


「そんな課長……! 私はただ……っ」


「言い訳は結構です。上からの命令で貴女を受け入れましたが、情報管理課(ここ)に貴女のような存在は必要ありません」


 形容しがたい表情で震えるリーネアだったが、課長に睨まれ唇を引き結んでいる。

 静まり返る空間の中、ドアの開かれる音がした。


「ちょっとちょっと! あたしが()もってる間に、どうしてこんな事態になってるわけ!?」


 中から出てきたミントが、慌てた様子で駆け寄ってくる。


「あれ、課長? 珍しいこともあったもんですね」


「あらミント。お勤めご苦労様」


 私の肩を掴み心配していたミントは、課長の姿を見るなり目をきょとりとさせた。


「さて。ひとまずここは引き受けるから、ミントはその子たちを連れて行ってちょうだい」


「はーい」


 素直に返事をすると、ミントは私の背中を押してくる。

 振り返った先で、一瞬だけ課長と呼ばれた死神と目が合った気がした。




 ◆ ◆ ◆ ◇




「あの死神は、常闇が直接連れてきた子でしたね」


「はい。新入りに当たりますが、とても大切にされているようです」


 一段落した状況に、情報管理課の面々は息を()いている。

 落ち着いた空気が流れ始める中、ここの課長であるレーテは、補佐にきた部下と話をしていた。


「新入りね。その情報、本当に正しいのかしら」


「勿論です。死局のデータベースでも照合しましたが、あの死神についておかしな点は見つかりませんでした。何故そんなことを?」


 一瞬だけ合った視線。

 神秘的な瞳には、吸い込まれそうな魅力と、感情を読み取らせない何かがあった。

 部下からの問いかけに、レーテは小さく笑みを浮かべる。


「私はあの目を……前から知っている気がするのよ」


 

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