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死神の猫  作者: 十三番目
第三傷 Third Guilty 真なる神へ告ぐ
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ep.9 不穏な連絡


 月の一つが満月。

 だとすれば、満月という言葉は死界において、宝月を意味する敬称ということになる。


「霜月は、宝月について何か知ってたりする?」


「上司が()()ってことと、今は上司を除いて死界には存在しないってことくらいだ。宝月は謎が多い。月の敬称を除けば、ほとんどの死神は宝月についての情報を持っていないと思う」


 死界に、新月(上司)以外の月はいない。

 現在の王によって特定の言葉が封じられてからは、さらに知る者も少なくなったはずだ。


 閻魔(えんま)は以前、上司の役目を待つことだと話していた。

 今なら、その意味が少し理解できたような気がする。


「分かった。気をつけるね」


 本来の死神王。

 そして、その側近である宝月。

 月が禁句になった死界において、この二つはこれ以上ないほど危険な言葉なのだろう。


 今の王は、いったいどんな神なのか。

 湧いてきた興味を抑え込むように(ふた)をする。

 どんな神であれ、私の大切な存在と敵対するのなら、それは私にとっても敵ということだから。


 ずっと一緒にいたい。

 願いや夢とは、簡単に叶わないものだ。

 そうでなければ、夢を見たりなどしない。


 誰かの願いを叶えるためには、何かの犠牲がいる。

 私にとってそれが、──神を玉座から引きずり降ろすことだと言うのなら。


 触れた手がほのかに熱を帯び、徐々に伝わっていくのを感じる。

 磁石のように引き寄せ合った身体に、体温はないはずだった。


「熱くない?」


「温かい」


 霜月には私の体温が熱く感じるのではと思ったが、霜月は私の手を持ち上げると、そのまま頬にぴたりと当てている。

 いつからだろう。

 冷んやりとした手が、心地いいに変わったのは。


 いつからだろう。

 私が死神(かれら)の手を、冷たいと感じなくなったのは──。


 ソファーに座り、ただ寄り添っているだけの時間が、とても愛おしいものに思えてくる。

 手のひらから伝わる温度に、私の体温が混じってしまえばいい。


 さっきのお返しも込めて、霜月の頬を優しく撫でておいた。




 ◆ ◇ ◇ ◇




 連絡を受信した気配に目を開ける。

 視界にモニターを出し、書かれた内容を読み進めていく。

 ミントから送られてきたメッセージには、以下のことが書いてあった。


 威吹(いぶき)の店が何者かの襲撃を受け、半壊状態となったこと。

 従業員は無事だったが、店主である威吹が重傷を負ったこと。

 現在は(つむぎ)の元で治療を受けていること。


「霜月」


 隣で確認していた霜月へ声をかける。


「今すぐ死界に戻ろう」


「……分かった」


 霜月は悩むように眉を寄せたが、私の意志が固いことを悟ったのだろう。

 亜空間から取り出した服を身に(まと)い、印にローブを要求する。


 フードを被り、差し出された霜月の手を取った。

 安心させるよう握ってきた霜月の手を、同じだけの力で握り返しておいた。




 ◆ ◆ ◆ ◇




 死局の入り口に着くと、両側に立っていた警備課の死神たちは、こちらを見るなり道を開けてくれた。

 ローブは通行証代わりだ。

 前もって着ていたことで、難なく中に入ることができた。


「威吹くん、大丈夫かな」


「紬がついてるなら心配ない。それにあいつは……結構しぶとい」


 霜月なりの信頼なのだろう。

 微笑ましい気持ちで見つめていると、目が合った霜月は少し困った顔で眉を下げている。

 なんだかんだ言って、威吹との仲は良好らしい。


 治療系統の死神が集まる空間(エリア)の入り口は、他の場所よりも大きかった。

 おそらく、運び込まれる諸々(もろもろ)を考慮した上でそうなっているのだろう。


 以前は紬の家で治療を受けたため、勤務先まで訪れるのは初めてのことだ。

 近いうちに会いに行こうと話していたが、色々あって遅くなってしまった。


 清潔感のある空間だ。

 病院と教会を混ぜたような造りが独特だが、上手く融合し合っている。


 中では死神たちがテキパキと動きまわっており、前に私が入っていたカプセルのような物も見受けられた。

 一番手前にいた死神が、こちらに気づき用件を聞いてくる。


(つむぎ)に会いにきた」


「あっ、はい! えっと……奥の方に!」


 かなり緊張した様子で答えた死神は、霜月と私を交互に見て「……はわ」と呟いている。


「行こう睦月」


 霜月に手を引かれ、奥の部屋へと向かう。

 後ろの方から、「みんな聞いて! 推しに推しがいた!」なんて声が聞こえてきたが、よく分からなかったので流しておいた。


 

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