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死神の猫  作者: 十三番目
序章 始まりの死動
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ep.10 死神之大鎌


 死を司る死神にとって、死神之大鎌(デスサイズ)は必需品と言えるほど身近なものだ。

 これを扱えなければ、そもそも仕事に出させてもらえないらしい。


 私、今日初めて触るんですけど。


 まあそれはともかく、現状を考えると最低限の習得は必須な上、時間も限られている。

 霜月が実践を選んだのは、理に(かな)った判断だと言えるだろう。


「まずは鎌を出してみて。さっきのやり方で、印を通して申請してみてほしい」


「わかった」


 死神たちの中には死神之大鎌(デスサイズ)大鎌(サイズ)と短縮して呼ぶ者も多いらしいが、霜月にいたっては(かま)と呼んでいる。


 格好良さ半減どころか、そこら辺にでも落ちていそうな呼び方だ。


 ──死神之大鎌(デスサイズ)を要求します。


 先ほどのように、視界にモニターが現れる。

 画面の中央には「確認中」の文字が浮かんでいたが、一瞬で消えると音声が響いた。


《死神之大鎌の要求を確認しました。権限内のため、自動承認に切り替わります》


 目の前に黒い霧が出現し、上下に向かって伸びていく。

 霧は瞬く間に鎌の形を取り、その場で動きを止めた。


 霧に触れてみると、触れた先から霧が晴れるようにして大鎌の全貌(ぜんぼう)が現れた。


 黒々とした取っ手部分と、大鎌に相応しいサイズの(やいば)

 三日月のように()った銀の刃は、上部が黒く染まっている。


 てっぺんは(やり)の穂のように尖っており、全体的に見てもすごく物騒(ぶっそう)な形をしている。


「うん、完璧」


 私を見て微笑むと、霜月は自分の鎌を消しこちらに近寄ってきた。


「こんなに大きいのに、全然重くないんだね」


「死神の鎌は、持ち主の死神が持つと重く感じない仕様になってる」


「へえ……」


 重くないどころか、手に馴染むような感じまでしてくる。

 不思議な感覚だ。


「これを持ち主以外が持つとどうなるの?」


 私の質問に、霜月は少し難しそうな顔をしながら口を開いた。


「もし誰かの手に渡ったとして、それが同じ死神なら持つこと自体は可能だ。ただ、鎌が持ち主から離れることは余程ない上、もし故意に手を出す者が居たとしても、禁止事項に触れて自戒の印が作動することになる」


 自戒の印……。

 嘘をつくことも含め、禁止事項に触れると作動する仕組みらしい。

 私も仕事中は気をつける必要があるだろう。


「仕事をする死神なら、全員が鎌を持っているんだよね? わざわざ禁止事項に触れてまで、手を出す死神なんているの?」


「位の高い死神は、自分専用の武器を持ってるんだ。上に行けば行くほど、その希少価値も能力も桁違いに高くなっていく。それで、たまに()くんだ。身の(たけ)に合わない物に手を出す、愚かなやつらが……」


 霜月の顔に影が落ちた。

 ざわりとした空気を感じ、思わず一歩退いて距離を取る。


 警戒から鎌を握る手に自然と力が込もっていくが、何故か怖いとだけは感じなかった。


「霜月」


 そっと名前を口にする。


 周りの空気が一瞬で雲散(うんさん)する感覚。

 私を見た霜月の表情は、さっきまでと同じで柔らかい。

 ただ、私との距離が離れていることに気づくと、霜月はみるみる顔色を無くしていく。


 霜月って、すぐに顔色が悪くなるけど大丈夫なのだろうか。


 心配になって、こちらから距離を詰めてみた。

 ビクリと震えた霜月の綺麗なおでこに手を伸ばし、そのまま指で(はじ)いてみる。


 霜月は驚いたように何度も(まばた)きを繰り返していて、その顔が何だかとても可愛く思えた。


 あの子がいなくなってからの私は、笑うことも、話すことも減っていくばかりだった。

 表に出にくいのも、あまり多くを話さないのも元からで、そんな些細(ささい)な変化を気にするような人も傍にはいない。


 私が大切にしたいと思える存在は、もう誰も残ってなどいなかったのに──。


 安心した様子で微笑む霜月の瞳が、きらきらと金色に輝いている。


 霜月が冬の夜空で輝く月なら、あの子はまるで中秋の名月のようだった。

 似ているようで、どこか違う金の瞳。


 あの子の代わりにしたいわけじゃない。

 そもそも、代わりなんてどこにもいないのは分かっている。

 だけど、会ったばかりの霜月がこんなにも心を揺さぶるのはどうしてなのか。


 何かが変わるきっかけは、思わぬところで出会うのかもしれない。


 心のどこかで、そんな予感を感じていた。




 ◆ ◇ ◇ ◇




「お助け願います、霜月先生」


 あれからしばらくの間、私は霜月に大鎌(サイズ)の使い方を一通り習っていた。

 順調に進んでいたのだが、問題は今しがた届いたメッセージにある。


「何かあった?」


 唐突な先生呼びに不思議そうな顔をしながらも、私からのヘルプ要請にすぐさま近寄ってくる霜月。


 頼りになります。


「印を通して連絡が来てるみたい。受理したってメッセージが出てたから」


「印が起動している間は、死神として仕事をしている時間と取られてるんだ。だから仕事に関する連絡なんかも、随時受理されたりしてる」


 印にはタイムカード的な役割も有るのだろうか。

 聞けば聞くほど、印の謎が深まっていく。


「連絡を閲覧(えつらん)、送り先の名前を指定で見られるようになってる。やってみて」


「わかった」


 ──連絡を閲覧。


 目の前に画面が表示される。

 どうやら確認が必要ないものに関しては、即座に反映される仕組みらしい。


 メッセージの差出人は……。


「上司からだ」


 

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― 新着の感想 ―
[良い点] なるほど、服装や武器のイメージは昔からの死神感ですね。 これはこれで良い感じです(*´ω`*) そして、何気にハイテク機能満載w [気になる点] 上司からメール……この時点で怪しさ満点……
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