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死神の猫  作者: 十三番目
第三傷 Third Guilty 真なる神へ告ぐ
107/223

ep.6 生まれた願望


 何というか……餌付け?


 茶菓子を食べる三日月から、嬉しそうな空気が(あふ)れている。

 試しに自分でも食べてみたが、なるほど。

 確かに絶品だった。


「綺麗な刀だね」


 月明かりに照らされ、縁側に横たわる刀。

 (さや)により刀身は隠れているが、強い存在感を放つ刀に自然と目が吸い寄せられる。


「これは俺の死神之大鎌(デスサイズ)です」


 この刀が死神之大鎌(デスサイズ)──?

 どこからどう見ても、刀の形をしている。

 三日月は刀を持ち上げると、私の膝の上に置いてくれた。


「位の高い死神は、それぞれ専用の武器を持っています。俺の死神之大鎌(デスサイズ)は刀の形をしていますが、他の死神であればまた別の形を取っているはずです」


 そう言えば、初めて死神之大鎌(デスサイズ)を呼び出した日に、霜月も同じようなことを話していた。


死神之大鎌(デスサイズ)は元々、持ち主に合わせて形を変える武器です。その死神の性質や能力、理想の形態を把握し変化しています」


「つまりこの刀は、三日月にとって最適な形に変わった結果ってことなんだね」


「おっしゃる通りです」


 鞘の部分に触れてみると、まるで返事をするかのように刀が小さく振動した。


 何だか不思議だ。

 死神と言えば大鎌のイメージがあったため、刀の形をした死神之大鎌(デスサイズ)が物珍しく見える。


 三日月に刀を返すと、受け取った三日月の手の中で、刀は音もなく消えていった。


「あ、でも、現世に行く死神が支給される死神之大鎌(デスサイズ)は、みんな同じ形をしてるよね。やっぱり死神だから鎌の形にしたとか?」


「現世では死神に対する固定のイメージがあるようですが、あれらは単なる噂や想像に過ぎません。死神の武器が死神之大鎌(デスサイズ)と呼ばれるようになった理由も、支給される武器が大鎌の形をしている訳も、主の武器が大鎌(サイズ)だったことによるものです」


 三日月の主と言えば、本来の死神王のことだ。

 たとえば、死神と言われてすぐに思いつくのは、大きな鎌と黒いローブ。

 死期の近い人の元にやって来る、という事くらいだろう。


 けれどそれは、あくまで噂でしかない。

 現世の人々が想像する死神と、実際の死神が大きく異なっていたとして、何らおかしなことではないのだ。


「ただ、支給されるローブを除き、服の形にこれといった決まりはありません。俺が着ているこの羽織も、ローブの代わりに使うことが可能です」


「位が上だと、自由なことも増えるんだね」


「そうですね。神の権能を借りなくても、自らの力で全てを(まかな)えますから。それが出来ることも、位を上げるための条件になっているんですよ」


 そう言えば、上司も現世に来た際、ローブは着ていなかった。

 上司と三日月の服は全く違うものだが、唯一共通点を挙げるとするなら、暗色が多いということだろうか。


 三日月の和服は深い色合いが目立つが、それがこの上なく似合うのだから、圧倒的な美貌とは恐ろしいものである。


「どうやったら位を上げられるの?」


「上に行きたいのですか?」


「うん」


 口から滑り落ちた言葉が、心にすとんと落ちてくる。

 ふわふわと舞う蛍の光を眺めながら、自分自身の中に生まれた願望が沁み込んでいくのを感じていた。


「では、愚神(やつ)を引きずり降ろす必要がありますね」


 立ち上がった三日月が、こちらに向けて手を差し出してくる。


「どうぞ中へ。ご案内します」


 縁側に引き上げてくれる三日月に、慌てて靴を亜空間へとしまった。


「引きずり降ろすって……?」


「今の死界で貴女が力を手にするには、あの愚神をどうにかしなければなりません」



 

 ◆ ◇ ◆ ◇




 【 おまけ 】



『考えることをやめた睦月と、特に考えていない三日月』



「現世に行く死神には、ローブが必須なんだよね」


「はい。仕事着の代わりになりますから」


「それって、死神だけの決まりなの?」


「悪魔は自由奔放(じゆうほんぽう)なので話すまでもありませんが、天使には決まった仕事着がありますよ」


「そうなんだ。どんなやつ?」


「羽です」


「え?」


「羽です」


「……天使の羽って、仕事着だったんだ。背中から生えてると思ってた」


「着脱式ですよ」


「……」


「……」


「この茶菓子、美味しいね」


「はい。とても美味しいです」


 

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