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死神の猫  作者: 十三番目
第三傷 Third Guilty 真なる神へ告ぐ
102/223

ep.1 勝者の願い


 テーブルに並べられたカード。

 同じマークかつ、10からAで(そろ)えられたカードに、アパートの面々は唖然(あぜん)としていた。


「二回目も睦月の勝ちか……。ゲームはあと一回残ってるが、これ以上やる必要はなさそうだな」


 続けて勝利したことで、ヴェルダージは既に勝敗が決したことを悟ったらしい。

 こちらを向くと、にんまりした笑みで話しかけてくる。


「いや〜、俺っちも初めて見たぜ。ロイヤルストレートフラッシュを連続で、それも運だけで出すなんてな」


「……まけた」


 驚くヴェルダージの隣では、リブラがテーブルに突っ伏している。

 今にも砂に変わりそうなリブラの頭を、ヴェルダージが優しく叩くのが見えた。


「そんじゃとりあえず、報酬について話すぜ。睦月が勝った場合は、リブラが叶える条件だったな。どんな願いにするか決めたか?」


 顔を上げたリブラが、緊張した様子で見つめてくる。


「保留……とかは駄目かな?」


「保留?」


「うん。お願いしたいことができた時に、頼めたらいいなって」


 聞き返してきたリブラに、今は願いがないことを伝える。

 難しいかと首を傾げリブラの方を見ていると、だんだんと茹蛸(ゆでだこ)のように赤くなったリブラが口を開いた。


「大歓迎です。いつでも何でも頼んでください」


「おいリブラ」


 ヴェルダージの目はシルクハットにより見えていないが、もし見えていたら半目にでもなっていることだろう。


「知らねぇぞ。そんな約束して、後で泣くことになってもよ。ま、もう遅いがな」


 呆れた様子のヴェルダージだったが、ふと真面目な空気を(まと)うと、リブラに向けて何かのカードを向けた。


「これは勝者への一方的な誓約だ。リブラは睦月に、願いを一つ叶える権利を与えること。期限は定めず、願いの大きさは叶えられる限り。誓約は制約としても作用し、誓約者(リブラ)が従わない場合、ゲームの管理者(ヴェルダージ)の権限において強制権を行使できるものとする」


 突然、リブラとカードの間に魔法陣が出現した。

 魔法陣から飛び出た何かは、リブラの元へ一直線に向かうと、そのまま手首に噛み付いている。


 鋭い歯が突き刺さった部分から、リブラの血液が吸い出されていく。

 体内に血液を溜め込むと、それは再び魔法陣の中へと戻っていった。


「ゲームの敗者は、ヴェルダージから問答無用で血を抜かれるのよ。いきなりで驚いたわよね」


「いえ、似たような経験があるので」


「そうなのね……」


 詳しいことは聞かれなかったが、何かを察した律の視線は(あわ)れむようだった。

 

「あいよ睦月。受け取ってくれ」


 ヴェルダージの方から飛んできたカードをキャッチする。

 真っ黒だったカードには赤い魔法陣が浮き上がっており、中心にはリブラの名前が描かれていた。


「リブラに願うことが決まったら、そのカードを使って俺っちを呼んでくれ。もし従わない場合には、強制権を行使することができる」


「賭けの報酬が支払われるまでは、こうしてカードを渡すことが決まりなんです。睦月さんのお願いなら、カードがなくても喜んで聞くんですけどね」


 ポッと頬を染めたリブラから隠すように、霜月が私の前へ移動してくる。

 睨み合う二人の間でため息をついたヴェルダージだったが、私と視線が合ったことでにんまりとした笑みを浮かべた。


「どうせなら有効に使ってくれ。俺っちの強制権はなかなかのもんだぜ。それこそ、盤上をひっくり返すほどにな」


 ヴェルダージは来た時と同じ丁寧なお辞儀をすると、現れた魔法陣の中へ颯爽(さっそう)と帰っていった。

 手に持ったカードを扉の空間に送り、静かに席を立つ。


「私たちは部屋に戻りますね。色々と話したいこともあるので」


 霜月の方を見ると頷かれた。

 相変わらず察しが良くて優秀だ。


「それと、ありがとうございました」


 律が何かを言う前に、今回のことについてお礼を伝える。

 驚きで目を瞬かせた律は、どうやら予想外の言葉に戸惑っているようだった。


「護衛の件はすみません。私が気を抜いたせいで、二人を危険にさらしてしまいました」


「睦月ちゃんのせいじゃないよ! おれがちゃんと守れなかったから……!」


「それを言うなら、俺が油断したせいだろうが」


 反論してくる燕と時雨に、小さく笑みが溢れる。

 本当に、優しすぎる死神たちだ。


「何より、あっという間でしたから」


 霜月の手を取り握ると、ぎゅっと握り返された。


 時間にすればたった数日。

 けれど、私にとっては随分と長い時間になるはずだった。

 そんな隙間(じかん)を埋めてくれたのは、他ならない律たちだったわけで。


 こちらの様子を見ていた律の目が、優しく細められた。


「睦月ちゃんは、もうしばらく現世(こっち)に居るんだったわよね。それならまたご飯でも食べましょう。もちろん、霜月ちゃんも一緒にみんなでね」


 律の言葉に大きく頷いていたリブラは、霜月の名前が出た途端、複雑そうな顔に変わっている。

 それを(しら)けた目つきで見る時雨と、楽しそうに笑う燕が見えた。


「またお邪魔します」


「やーね睦月ちゃん。そこは、ただいまって言えばいいのよ」


 ぱちりとウインクをしてみせた律が、幼い頃に見た父親のそれとよく似ていて。

 何だか無性に、懐かしく感じた。




 ◆ ◇ ◆ ◇




       仏の顔は三度まで


     ならば神の赦しは何度まで?


   第三傷 Third Guilty 真なる神へ告ぐ


 

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