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西の塔へ




「西の塔へ行って、本人から直接聞いてみたら? 」


 そんな言葉、レオスの口から出てくるとは思わなかった。


 いつも西の塔に近づいたり、会ったりすることを嫌うレオスが、西の塔の住人に会うのを提案してきたときは驚いてしまった。


 レオスも、大人たちの企みに疑念を抱いているのか、それともユディについてなにか知りたいのか。

 

 協力的なその姿勢の理由を本人は何も言ってはくれなかった。


 いつも、わかり合えたはずなのに、一体どうして。


 私は今回ばかりは、彼の言動の意味を掴めずにいた。思っていることは同じなようでいて少し何か違う。本心を語ろうとしない半身に少しの不安を感じた。


「じゃあ、あいつに会いに行くってことは決まりね」


 若干取り残されているようでいて、思わず、席を立とうとしているレオスに縋ってしまった。


「ちょっと待って、レオスも一緒に行くんでしょう? ここまで来たらお願い」


 私の我儘には甘い彼は、渋々だがお願いを聞いてくれるだろう。そんな確信があった。


「……うん。わかったよ。じゃあまた明日ね。でも、ひとりでは行かないこと。約束だから」


 だなんて、結局のところはひとりで行かせるつもりもなかったのだろう。そうして本を閉じてレオスはまた何処かへと行ってしまった。



 西の塔の住人、オルフェさんとはかれこれ一年は会っていない。


 最後があれだったから余計に会いにくい。しかも、周りに秘密にしていて会っていたから、今頃日中に堂々と会えるとは思えない。


 何か理由がある。


 それはもうわかっていた。


 レオスは簡単に言うけれど、まずノータナーが許してくれないだろう。


 あの夜のことは彼のトラウマになってしまっているだろうし、裏切れない。


 だけど背に腹はかえられぬ。ゆくゆくはノータナーを守ることにもつながるのだから。声に出さずに、ノータナーに謝ってから、明日の計画をまた頭の中で反芻した。 


(ノータナーには、レオスと森の散策に行くって言っておいて、オルフェさんに会えたら、聞きたいことを聞けるだけきこう……!)


 しかし、ここで私の思考を遮るものが、心配事が生じる。


「西の塔の彼は深い眠りについた。」

とシェニィアから言われていた事を思い出したのだ。


 だから西の塔まで行けたとしてももしかしたら、オルフェさんには会えるかどうかもわからない。


 深い眠りがアポフィスムの何かと関わりがある場合、これも解決しておく必要があることには変わりない。


 オルフェさんがこの世界の鍵を握っているのは明白だ。なんらかの方法でアポフィスムの力を抑え込んでいるのだろうか。


 でも、誰かの思惑で、眠らされているとしたら──?


 不安で今から手足ががくがくと震えてきた。こんな時に、エディ兄様はどう私を勇気づけてくれていたのか。それを少し考えるだけで、ちょっとだけ元気が湧いてくる様な気がした。自分で自分を鼓舞する。


 皆んなのため。そしてこの世界のため。オルフェさんには、話してもらうことが沢山ある。


 複雑に絡まった一本の糸。一人だけでも謎がこんなにもある。


 果たしてそれをとくことができるのか、不安でしかたがない。


 けれど、エディ兄様のこと。

 ユディのこと。

 オルフェさんのこと。

 この王宮で起こっていること。


 そして、私自身のエピソードとコンプレックスのこと、やることなすべきことは山積み。


 レオスとカインは多分今は大丈夫な時期、ノータナーも距離を縮めていければなんとかなる。


 負の感情に飲み込まれてしまわない様に、理性的に一つ一つこなしていこう。そうしたら、案外エピソードの発現にもつながるかもしれない。



 次の日、薔薇園を抜けて西の塔へと太陽が真上に来ている時間帯に堂々と赴いた。レオスを連れて。ノータナーにはバレていない。


「ねえ、くっつきすぎ。怖いの?」


「う、ううん、不安なだけ」


 西の塔をまじまじと見上げるのは初めてで、その高さに圧倒される。本当に人が住んでいるのか──まあ、監視のために造られたとなると納得だけれども──重厚な建物に生い茂ったツタが全体的に絡みついていて、少しだけ不気味な雰囲気だ。


 でも、塔のドアは不用心にも、鍵はかけられていなくて。本当に管理されているのか? と思ってしまうほど。レオスもこれは思ったようで、声に出ていた。 


「うわ、ほんとに管理されてないでしょ。」


とレオスが不快感丸出しで言うから少し笑ってしまった。


「笑ってる暇あったら、ほら歩いて」


「でも、薄暗いから慎重にいかないと」 


 笑っているのがバレてしまったけれど、塔の中へ入ると螺旋階段が見えないところまで続いていて、おまけに窓もないから、太陽の光も何にも入らない。

 

 本当にここにオルフェさんは監視されているのだろうか。こんな暗く居るだけで心細くなってしまう様な悪い環境下で。私なら、一人でこの場所で過ごすのは出来ないだろう。


「そんなに不安なら手掴まってていいから。行こう」


 レオスに手を握ってもらって、一段一段と壁を伝って登っていく。恐らく最上階がオルフェさんの居場所。


 十分もしなかっただろうか、そのくらい長く感じた階段が終わり、ある一つのドアの前へとたどり着いた。


──このドアを開けた先に見えるのは誰?








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