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 レオスが叔母様──という人物。私は誰だか見当もつかない。何故、両親ではなく、叔母を呼びに行くのだろう。──を呼びに行くといって、部屋から居なくなってから、どれくらい経っただろうか。ほんの少しだけの時間でも心細く感じてしまう。彼が恋しい。さっき会ったばかりだというのに。レオスとはいつも一緒にいた気がするのだ。


 でも今度は、部屋にひとり残されたこの沈黙は、永遠にひとりぼっちになってしまうのではないかという恐怖感は不思議と浮かんでこなかった。

 寂しいと感じると同時に、実のところ、頭の整理のためにひとりにさせてくれて良かったという安堵感もあった。未だ、頭の中に紫色の靄がかかったように、何も自分の置かれた状況を考える事ができないまま、手の中の自分の髪を見つめる。本当にこのキラキラした色艶のいい、日に照らされ輝いている小麦のような色をした、サラサラしたこれは、私の髪なのだろうか。ためしに、引っ張ってみても痛いので、手櫛でとかしつつ、整えてみる。そしてこれは、本当に出来のよい夢だと、思うことにした。そう暗示をかけないと何かが壊れてしまいそうだ。 


 ( これは自己防衛のために。決して現実逃避をしているわけではない。多分…… )


 ここに来て、人々と会うたびに少しずつ、夢か現かその境界線が揺らいでしまっているような感覚がする。夢が現実を侵食するなんて話は、聞いたことがない。あり得ない。そう、これは夢。昨日読んだ物語──。そう自己暗示をかける。


 (もしかして、なんて考えるのも怖い。だって、夢の番人さんと名乗る人がいるくらいだし、夢のはず……。え、でも、私がエレーヌという名前で、双子の弟がいるというのはどうして納得できているのだろう……? )

 ストンと何故か腑に落ちている気がするのだ。前からこの名前で、この場所で生まれ落ち、そして生きていた気がする。形跡がどこかにある。

 そのひとつが、先ほどのレオス。彼から名前を呼ばれ慣れていたこと。そして、レオスと言う名前、しかも愛称を呼ぶことが、口にとても馴染んでいたからだ。だがしかし、この『エレーヌ』、『レオス』という名は、昨晩読んだ本の登場人物と瓜二つである。そのことがより一層、私を混乱させた。

「 エレーヌ、……エレーヌという名前は『オルフェリアの希望』にでてきた主人公のお姉さんの名前のはずなのに……。彼女は双子の兄弟がいて、それにさっきの子の特徴だって── 」

 口に出して、頭を整理しようとする。私は、小さい頃から感受性豊かで、夢もよくみるから、今は物語に夢がつられてしまっているだけなのかもしれない。潜在意識──無意識のうちに、本で読んだ言葉や登場人物が夢に影響を与えている。──とかそんな言葉があったはず。大丈夫。これはただの夢。


 ──どうも違和感がある。 


 再び、自分の置かれた状況と自分の居場所がどこなのか考えようとすると、突然頭が痛くなる。器が焼かれているかのように熱い。それでいて、プシュケーは極寒の海の中に漬け込まれているかのように寒い。

 

 (ああ、何故か今まで使ったことのない単語たちが身に馴染んでいる )


 突然の器の異変にパニックを起こし、ガクガクと震えていると、突然部屋に人々が入ってきた。

「エレーヌ、アーティ叔母様とエディ兄様を連れてきた、よ……!? エレーヌ? 」

 それはレオスと、どこかで見たことがあるようで、これまた懐かしい人たち。

「 エレーヌ、どうしたの? そんなに震えて、叔母様! はやくエレーヌを診てください。お願いします 」

「エレーヌ、エレーヌ。落ち着いて、私は君を害さないよ。背中にふれるね。まずは私の声に合わせて息をすって──、はいて──」

 二人の新しい声がした。過呼吸の状態で、上手く酸素を肺に補給できないせいで、視界はぼやけてひまう。そのうちの初対面と思われる、優しそうな女性が私の背中を撫でてくれた。その撫でてくれている手からは、人のぬくもりとあたたかさを感じる。何故だか、自然と安心感が湧いてくる。しばらくすると、落ち着いたのか、だいぶ息もしやすくなってきた。


 私の呼吸が正常に戻ったことを確認して、ワインレッドの髪をした、女性──少年たちにはアーティ叔母様と呼ばれていた。──は、私の背中を撫でる手を止めないままに、

「エディとレオスは少し外に出ていてくれるかな? 心配なのはわかるけど……。ほら、泣かないで……。また、呼びにいくから、ね 」と、少年二人をその場から退出させた。彼らは、それに何も言わずに素直に部屋から出ていった。


 すると、女性はどこからか出してきたのかわからない、小さな杯をそっと私に差し出してきた。私の警戒心を解くように一定の距離を保ちつつ、なおかつ視線で自分は味方だと訴えかけている。

「 エレーヌ、私は貴方の叔母のアーティ。貴方の主治医をしているの。これはお薬。飲めるだけでいいから、飲んでみて。杯の中身は、果実を絞って甘く煮詰めたものよ 」

 差し出された杯を両手で受け取る。金色の杯のなかで、とろりとした薔薇色の液体が私を誘うように揺れている。夢の中で何かを食べることや飲むことは、今までになかったけれど、不思議と魅惑的に感じた。杯に吸い寄せられているように、これを飲まなければいけないという意識が生じてくる。危険は感じない。美味しそうと思い、疑いもせず操られているかのように杯に口をつけて、言われた通り飲み干した。甘ったるいのかと思っていたけれど、酸味が効いていてすっきりとして飲みやすい。


「 きれいに飲めたわね。うん、震えもおさまってきた。 ≪混乱≫ を起こさなくてよかった。……あのね、エレーヌ、貴方は今、器とプシュケーが不安定なの。頭の中がごちゃごちゃしているのよ。でもね、だんだんよくなっていくから心配はいらないわ。それに、もしも、怖いことがあったら怖いって言っていいのよ 」

 私が飲み干したところをみて、安堵した表情をみせる彼女は、よく見ると左右の色が異なる眼をしていた。

 先ほどの、割れるような頭痛も、訳がわからない熱さと寒さも和らいでいる。今は熱が下がってきた時のほわほわとした感覚に似ている。むしろ心地よいくらいだ。


 彼女──もといアーティ叔母様。──どこかで見たことがある気がする。そんなこを考えていると不思議なことに、私が中身を飲み干した杯はいつの間にか、下げられたのか、なくなっていた。それに驚きもせず、さも当然とした佇まいをした目の前彼女は、いまだに状況を飲み込めない私に微笑むと、外にいる二人を部屋のなかへ呼び寄せ、こう提案した。

「 エレーヌ、これから貴方の家族や住んでいる場所や身の回りのことを一度お話ししようと思うの。混乱している、頭の中を整理しましょうね。そうしたら、器とプシュケーの安定にも繋がるわ。記憶を少しでも呼び覚ます準備をしましょう。……ここにいる、貴方の二人の兄弟と一緒にね 」















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