違和感
すやすやと眠り続けているユディ。私がユディの部屋へと行くときにはいつも眠っている。
アーティ叔母様は赤ちゃんは眠ることが仕事だからねと、苦笑いして言うけれど、本当は早くユディのキラキラした笑顔が見たい。
「そんなに好きなら、起きている時に来たらいいのに。いつもこの同じ時間帯は寝ちゃっているのよ」
「ううん、まだいいの」
「どうして? ユディだってエレーヌに会いたいはずよ」
レオスとはあれから以前の様にゆっくり会うことはできず、エディ兄様とは近づくことさえ叶わない。
(可愛い寝顔……)
唯一の癒しがユディだった。
私だって、早くその可愛いお口で名前を呼んでほしいという一心で通い続けている。
が、どうしてもこの時間帯しか空いていないのと、もう一つ理由があった。
この子を見るたび胸の中がモヤモヤしてしまうような、この子に対して罪悪感が湧いてきてしまったのだ。
会いたいという気持ち──。
ユディに姉として認識されてこの子との物語が始まってしまうという少しの恐怖心──。
これが、いつもユディがお昼寝している時間帯にしか私がこの場所へと来れない理由だった。
アーティ叔母様だってわからないだろう。
(それに、やっぱりアーティ叔母様なんか変わった?)
そう、アーティ叔母様も雰囲気が少し変わったように思えて仕方ないのだ。
なにか、アーティ叔母様を構成していた一部分が抜け落ちてしまったような……?
最初は研究とユディの世話で忙しくて余裕がないのだと思っていたが、何かが違う。
疲れからくる虚脱感とは異なり、性格とかの問題。
最初はユディをここに迎え、母親として育てる責任者であることから、ピリついた空気のせいだと思っていたのだが、それとは違う、違和感。
ユディの存在を知るものはまだ宮殿の一部であり、私はこの子をアーティ叔母様はどの様に育てていこうとしているのかまだ本質的な部分は知ることができていない。
後継者として一番適切なのがユディの力だとラシウス王が判断したから引き取ったのかもしれない。 だけど、それだけだと性別を偽る理由が納得できないのだ。
(誰かにこの違和感の正体について意見を聞いてみるのもいいかもしれない)
「アーティ叔母様、レオスって最近どこにいるか知ってる?」
「あら、最近二人でいることが減ったように思えてたけど、喧嘩でもしたの? たまにはここにきてユディのことを見たりもするけど……この時間帯なら回廊のほうじゃないかしら?」
「まあね……」
つくり笑いで誤魔化した。
喧嘩なんてしてないけれど、どこかギクシャクしていたのは確かで、私から距離を置いていたのも事実。
そうだ、忘れていた。この時間帯ならレオスは回廊に囲まれた中庭にいるはずだ。こんな事も忘れていたなんて。
(レオスは中庭にいるのが好きだったのに、それさえ忘れちゃうなんて…….。何か問題を抱えてしまうとひとつに集中してしまう、自分がちょっとだけいやになる)
「最近時間があわなくて会ってないだけ、心配ご無用! 教えてくれてありがとう。アーティ叔母様」
「二人が一緒にいないの少し気になっていたのよ。シェニィア聞いたら興味ある帝王学に違いがあるんですって? 二人とも無理はしないでね」
心配した表情をしたアーティ叔母様。
こんな根本的なところは変わらないから、杞憂だといいけれど、早速レオスに会いに行くことにした。
レオスは観察力に長けているから、何かに気がついているはず。
「はい! ありがとうアーティ叔母様。また来ますね」
早速中庭に向かった。
(いたいた!)
木の影に木漏れ日と一緒にキラキラと輝く私と同じ髪の色をしたレオスは何やら本を読んでいるらしい。
最初は邪魔しちゃ悪いかなと思って遠くからとりあえずのぞいていたけれどそれも失敗。気づかれてしまった。
「エレーヌどうしたの? そんなところでコソコソして、らしくないだろ」
急に声をかけられてしまったものだからしどろもどろになってしまう。
「あ、え、ちょっと聞きたいことがあってね……。それで来てみたんだけど、読書してるし忙しいかなって思って声かけられずにいたの」
「で、なに、そんなところに立ってないでこっちおいでよ」
そう言ってレオスが座っていた石でできた椅子の半分を譲られる。一気に距離が近くなった上に、なにもかもお見通しの様だからとりあえず率直に話してみることにした。
「率直に言うね。レオスはさ、アーティ叔母様がなんか変わったって思わない? 」
「……気づいてた? 気がつくよね流石に」
「え? ちょっと意味がわからない」
レオスの口ぶりから聞くとわざと雰囲気を変えている様に聞こえてしょうがない。
「意図的だと最初は思っていたけど、やっぱり違うよね。エレーヌにもわかるなんて、隠しきれてない何かがあるよ。きっと。」
「アーティ叔母様にいきてみる?」
「答えるわけがないよ。多分、これは、アーティ叔母様、シェニィア、父様の三人にしか理由がわからない。きっと秘密裏に動いている計画の一つだよ。ユディのことだってそうだ。」
レオスはやはりあの三人によるものだと推測していた。
なにかヒントになるもの、今後にとって大切なことだから聞き出せないかなと思っていたら、レオスが思いもよらないことを言ってきた。
「あいつ──夢の番人さんというやらに聞いてみたら? お気に入りなんでしょ?」
「へ? 反対すると思ってたのに」
レオスが私とオルフェさんを会わせるのに賛成なんて思いもしなかった。レオスは渋々といったように話を続けた。
「大人の隠し事なんて、知っていそうなのはあいつしかいないじゃないか」
でも、最後の日、オルフェさんは言っていた。もう会えないかもしれないと。
だから、今度は私が西の塔へ直接行ってみるのもいいかもしれない。
この物語の重要部分を握っているのは彼しかいない。それは私もレオスも思っていることは一緒だった。




