決意の場 ー『オルフェリアの希望』より
宮殿と王宮、そして海を一望できる高台に、二つの墓が並んで建てられている。
ラシウス王の墓と──依然として行方の知れない、エディ兄様の墓。
沈みゆく夕陽が海に反射し、赤と藍が溶け合う黄昏の時間。
この場所は、いつ訪れても静かで、どこか心を落ち着かせてくれる。
この景色を好んで訪れる者は、私だけではない。
とくに夕暮れ時になると、必ずここへ来る人がいる。
エレーヌ姉様だ。
「ユディも行く? この時間なら、綺麗な景色が見られるよ」
最初は、姉様に連れられて来ていた。
姉様は名も知らぬ花を二つの墓前に手向け、やがて静かに膝をつく。
深く、深く。
エレーヌ姉様の二人に向かって誓いにも似たその仕草は、まるで一生懸命に神殿で祈りを捧げているかの姿にも似ている。
何を祈っているのか、私は聞いたことがない。
聞いてはいけない──なぜか、そう思ってしまうのだ。
けれど、伝わってくるものはあった。
姉様が、二人に誓っていること。
それが、この国の未来に向けられたものであること。
なぜなら、ラシウス王の最後の願いは、私も知っているからだ。
──この国を護れ。
そのために、今できることを尽くせ。
ラシウス王は、最後まで平和を願っていた。
神の子としての力を極力使わず、器との均衡を崩さぬよう、戦争による犠牲を最小限に抑えようと奔走していた。
二国間の仲裁を懇願された時も、王は深く悩んだ末、力を使うことを決意した。
エディ兄様と共に、戦地へ向かっていった。
それが、最後になるとは──誰も思っていなかった。
戦況が悪化する中、戦地からは何通もの書簡が届いた。母様宛だけでなく、幼かった私宛のものまで。
最初は簡単な言葉で綴られた励まし。次第に、土地の情景や文化の話へと変わっていった。今思えば、それは帝王学の一端だったのかもしれない。
なぜ、まだ幼い私にも書簡があったのか。その意味を、当時の私は理解していなかった。
母様、ラシウス王、そしてシェニィア。
三人だけが知る計画があったことを、私は後になって知った。
だが、その全貌を知る者は、もう誰もいない。
一生会うことのできない場所へ行ってしまった人。問いただすことすら叶わない、行方不明の人。
残されたのは、断片と沈黙だけだった。
計画は破綻しているのか、それともまだ秘密裏に動いている人がいるのか私にはさっぱりわからない。
けれど、ひとつだけ確かなことがある。エレーヌ姉様は、動いている。ミィアス国の存続のために。
だから──。
私も、立ち止まってはいられない。
今の私にできることを探そう。たとえ小さくても、無力でも。
そう決心して、全てを見渡せるこの場所を後にした。
──決意の場。
それは、過去を悼む場所であり、未来を選ぶ場所でもある。
「決意の場」『オルフェリアの希望』より




