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オレの役割


 


 今日は最後の禊を済ませたら、帰路につく。いよいよその時がきた。

 

 ここに来る時とは違って、カインも一緒だ。


 あれから、レスディさんからの推薦もあったらしく、カインは従者としての役割が与えられ、王宮へとともに来てくれることになった。もちろん、カインも了承済みだ。



「まだまだ、記憶は思い出していないものもあるけれど、一緒にいたらなんか思い出せる気がするんだ! 」

 

 なんてカインは軽口をたたいていた。


「従者としての立場や姿勢を学び、鍛える必要がありますね」


 とレスディさんは言っていた。



 カインが一緒に来てくれる事が決まってから、私たちと一緒に帰るまでの間、礼儀などレスディさんから教わっていたため、忙しくて会えなかった。


 そして再び会ったとき敬語で話しかけられた時は驚いた。


「お久しぶりです。エレーヌ殿下」


「……カインの敬語には慣れないモノがあるから、公の場だけにしてくれないかな? 」


「あはは、そうですよね! ……オレもなんだか、いきなり敬語を使うとなると少し恥ずかしいし……」


 頬を少し赤く染めたカインを見るのは新鮮だった。恥ずかしがるように耳の装飾品を撫でる。その姿はどこか初々しかった。


 




「ふう……。これで支度はばっちりだ。まあ元々荷物も少ないし。エレーヌたちは準備はおわったかな?」

 

 そんなこんなで、ついに時がきた。いつもに増して緊張している。色々な意味で。


 エレーヌ、レオス、ノータナーさんたち皆にとっては帰路、オレにとっては初めて行く王宮への道すがら、レスディに言われたことの意味を考えていた。


「貴方は特別なのですよ。皆と異なるエピソードを持っています。コンプレックスも気がついていないだけ」


 レスディが言うエピソードやコンプレックスについては大体のことは習った。

 でも、実際のところ自分がコンプレックスをもう克服している段階にまできているだなんて思いもしなかった。



 確かコレについて深い話をしたのは、王宮へ向かう数日前だ。


「ああ、ここにいましたか。殿下についてはなしておきたいことがあるのです」


 夜、回廊を歩いている時に出会ったレスディに、世間話をするような軽い口調で突然告げられたのだ。


 その夜は満月で、回廊の柱と柱からは覗かせた月の光が空間全体を眩しいくらい照らしていたからよく覚えている。


 月がエレーヌを思わせる──。


 オレが思うに、エレーヌは月のような印象を受ける時があるからだ。


 洗練された雰囲気、

 月のような清らかなプシュケー、

 そして何よりも夜空に煌めく月と星々が似合っていた。


 エレーヌが月ならば、双子であるレオスは太陽だろう。


 少し素直ではないところもあるけれど、レオスは太陽の輝きが似合っている。

 

 どこにだって行っても勇気づけ照らしてくれるような頼もしさ。

 太陽を閉じ込めたような瞳はまだ幼いながらも、観察力とモノの本質を見抜くことができる洞察力を備えている。

 とまだ会って短い間ながらに思ったことだった。



 レスディがその夜にオレに話したこと。この二人には複雑なエピソードがあり、コンプレックスもある。と。


「貴方には期待しているのですよ。ここまで話したのですから、お願いしますよ」

 

「え、は、はい━━」


 もしかしたら、従者として仕えることと同時にこの二人のエピソードの発現条件を満たしていくために、オレが選ばれたのだろうかと推測するほどだ。


 オレが二人のコンプレックスを発現させる良い起爆剤になるのか、記憶喪失である己がそこまで期待通りに動けるのか、案外難しい立場に起用されてしまったと思いつつも、なにか思惑があるにしてもエレーヌたちの側に居ることができて嬉しいのが本心だ。



 また、その話の中でこの二人には兄がいるとも教わった。

 

 彼はエピソードの条件が揃わず、呪いになる危険性が高いため、治療をしていたらしいが、呪いとはならないまでも暴走を起こしてしまったため、二人はここに来たという。



 エピソードが破綻してしまうとどうなるのか……レスディ曰く

「プシュケーがもともと不安定な場合、比例して器も脆く、その場合には、エピソードの書き換えが起こってしまいます。……もちろん悪い方で。運良く、神の力を手に入れたとしても、残酷かもしれませんが、記憶も自我も失う場合があり大変危険な状態になってしまうのですよ」


 エピソードの条件が揃わないだけでそんな大事になるなんて思いもしなかった、オレは少し戸惑ってしまった。


 エレーヌやレオスのエピソードが発現しなかったらそんな事になる危険性があるなんて、と。


 だから、オレはエレーヌとレオスを従者として守るため、それだけでなく二人のエピソードが完成し克服できるまで、見守ろうと思った。


 歳が近いからよき友人としての役割も果たすことができそうだ。そう、なんて簡単なことを呑気に思っていた。


──自分のエピソードやコンプレックスがなんなのかさえわからないのに。


 最後の日の夜、レスディが調べていたオレについての知り得る情報についても、知りたくて我慢できなくなったオレは直接レスディに聞いてしまった。


「プシュケーは不安定でありながら、コンプレックスを克服しているあなたは異国の神に由来する'何か'をもっています。」


(ああ、レスディはオレに何かを伝えたいんだ)


「レスディはオレのどこまでを知っているの? オレの抜け落ちた記憶さえ、まるで持っているかのようだね」


 オレがレスディの話に食いついてきたことをいいことに、それは、どんどん真相に迫っていくような口調だった。


「コンプレックスの克服には犠牲が必要なんですよ。例えば、あなたで言うと記憶とか……。その失った記憶の大部分が家族に対することだと言うことにはあなたも気がついているのでは? 」


 確かに、言われてみればそうだった。身の回りのことは一人で出来るし、エレーヌに似た装飾品を作るにも手先が覚えていた。

 

 あと、何が足りないのか考えていると、すっぽりと穴が空いているところがある。──それは家族についてだった。


「レスディは知っているの? 」


「今は考えない方がいいかと思いますよ」


 堂々巡りだ。はぐらかされてしまった。レスディはオレ自らその真相に辿り着くのを望んでいる。では、オレもそうすることにした。


「じゃあ、答え合わせはまた今度ってことだね 」


「あなたにとってそれが受け入れられるものであればいいのですがね……。」


 そう言って月明かりのもとレスディが去っていく、まるでレスディの手の上で踊らされているようで気に食わない。


 だから、オレにはオレの役割を全うする決意を固め、コンプレックスで失われた記憶を取り戻す時に、絶望しないために準備をすることにした。





「西の塔の住人に会えればいいのだけれど」


 ぽつりとたまに、何かの暗号のようにエレーヌが繰り返し話す、西の塔の住人とやらが、その人がエレーヌたちが知らない真実を知っているらしい。 


 だが、簡単には会えないらしく、エレーヌ曰く9つのおまじないをしないといけないらしい。そのおまじないは、西の塔の住人とエレーヌだけの秘密の合図であるという。


 それだけエレーヌは「秘密だよ」と教えてくれた以外には、あとは頑なに教えてくれないから、西の塔の住人についても調べる必要が出てきた。


 レスディとのじっくり話せる最後の会話にて、その人物について聞いてみたが、「彼は深い眠りについている」の一言だけで、詳しくは教えてくれなかった。

 

 わかっていることは、性別は男。

 エレーヌのエピソードやコンプレックス、秘密のキーパーソン。 

 だがオレがそう簡単に会える人物ではないらしい。


──でも、役割を果たす必要がある。エレーヌのためにも、オレのためにも。







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