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不思議な少年






 早朝に神殿をでてから、今ではすでに太陽が真上に登っていた。日除けの布を被るが、強い風が吹いているから無駄だ。それでも、髪が靡いて視界の邪魔になるよりかはマシだろう。深く被り直した。


 私が外に出ることはあまりない。神から与えられた役目を神殿を本拠地にしてこなしているからだ。あるとしたら、緊急事態に対応するため。もしくは、調査のためや依頼があった時だけだ。


 今回は、昔から馴染みのある村からの依頼だ。神殿から森を抜けて、しばらくすると二つの国の国境沿いに流れる川がある。その川の中流付近に位置する、村の村長から、『ある少年を診てほしい 』との依頼があったのだ。ここの村長は、アポスフィスムや神の力について多少の知識がある。何故なら、数年前にアポスフィスムが誕生した村だからだ。そしてつい先日、村長の使いが私の元へ訪ねてきて依頼を受けたのだ。


 このように直接、アポスフィスムと思われる彼らの元に私が直接向かう場合は、その者が力がコントロールできない場合だ。そのアポスフィスムがどうなっているかというと、大体はどうにか無理矢理押さえつけているか、その者が怪我をして動けないことが多い。

 そして、この村のように、農村部からの緊急依頼は、不思議な少年──不思議な力を持つ少年と言われている──は、アポスフィスムもしくは神の力を持って産まれて、力が突然発現したか、あるいは元々の産まれた場所から追い出され流れ着いた者の二通りある。


 今回のような少しでも理解のある村はこの様な者を殺さずに、診に来て欲しいと依頼がある。力を持つものたちにとってはありがたい住処だ。だが、ミィアス国に保護されていないとなれば、ミィアス国の王はまだ認識できていないのだろう。それとも、アポスフィスムで感知出来ていないのか。

 一般的に、神の力を持つ者は産まれた時から、神の子によってその存在を認識されるのだ。どこにいて、どのような力を持つのか。ミィアス国の近くにいる場合はその存在が認知やれやすい。彼らは、神の子であるミィアス国の王によって保護され、神の力のコントロール方法などを学ぶものだ。

 近年やっと神の力を持つ者への理解と彼らへの教育体制が整ってきた。これも現王のたちの理想の実現のひとつだろう。


 その一方で、アポスフィスムの場合は人数も少なく少々特殊で、その力も後天的、後発性が多い。そのため、王も存在が認識できない場合が多く、ミィアス国ひいては、王宮での難点のひとつであった。 ミィアス国には保護されず、最終的に私の元へと彼らは行き当たることが多い。私にとっては、ミィアス国と同盟を結んでいようが、アポスフィスムを秘密裏に葬っていることを──ただ自分の神からの役目を遂行している──知られたくはないため、彼らがミィアス国の王に認識されないのはありがたい特性でもあるのだが。


 確か今回依頼された者は、少年と言っていた。神の力を持っているその年頃の子らは、よっぽどのことがない限り、ミィアス国の保護下に置かれ、力のコントロール方法を寄宿舎で学んでいる筈だ。とすると、村長から今回依頼された少年はミィアス国王から認識されないほど遠くからその村に流れ着いた少年かアポスフィスムだろう。どちらにしろ、少年というならば、早くに力を発現したとても珍しい個体だ。きっと優秀な人材だろうから、アストレオス殿下についてもらおう。きっといい報告役になる。とレスディは依頼された少年をはやくも自分の手駒にする気でいた。



 この世では不思議な力を持った者が産まれたり、不思議な力が発現されると、その者は、最寄りの神殿に連れて来られることが多い。そうした彼らのその後は、周囲の神職者やミィアス国に周知され、ミィアス国の預かりになることが多い。

 この様に比較的安全にミィアス国に保護される場合は、この者が普通と異なる不思議な力を持っていることに対して、周囲はあまり恐怖心を抱かないのだろう。直ぐに殺されないのは、神の力もしくはアポスフィスムについて少しながらも知識がある人物が周囲にいるからだ。

 しかし、産まれた赤子や外部から突然やってきた人間が自分達が知らない、見たこともない力を発揮したらどうなるだろうか?

 ──もちろん、そこにはいられない。たちまち人々に恐怖心を抱かし、迫害の対象となる。そんな悲しいことが起こらないように神の子たるミィアス国王らは尽力している。


 ( 神殿に連れて来られたアポスフィスムたちにとっては、私に導かれるのは、比較的マシな最期だろう…… )


 つい数十年前までは、アポスフィスムはその母数の少なさと文献や研究が乏しいこともあり、プシュケノアという私に彼らの存在を一任されていた。だが、困ったことにミィアス国の王はアポスフィスムの研究にも着手しはじめた。というのも、王族に突然アポスフィスムが誕生したからだ。通常、彼も他のアポスフィスムと同じく私の預かりになるところ、彼は王族ともあり、王宮内で管理されることになった。その裏側に貴重な研究対象を逃すまい、という思惑が透けて見えているが……。



 そんな事を考えていたら、あっという間に目的の村に着いた。村の入り口にいた門番の村人が私を見ると畑の方へと誰かを呼ぶ素振りをし、呼ばれてきた者から村長の住処へと案内される。私はその間一言も話すことはなかった。村人とは格好が異なるから、異人だと思われているのだろうか。話しかけられることもなく、至る所からの視線が痛いほど降り注がれていた。


「はるばる遠くまでお越しいただきまして、誠にありがとうございます 」

 村長と思われる者が奥からでてきて、頭を下げつつお礼を私に言う。以前ここで出会った村長とは人が変わっていた。もし依頼対象がアポスフィスムで、手をつけられない場合は、やむを得ず、導きをこの村ですることとなるため、周囲から目立たない、隠れられそうな場所を無意識のうちに探していた。


「いえいえ、その、不思議な少年というのは? 」

「 実は、恐らく何処かの国から流れ着いたと思われる少年なのです。川でひどい怪我をして意識を失っている子を、ある村人が運んで来ましてね。意識は戻って会話も出来るのですが、不思議な気配を持っていまして。──なんと言いましょう、ええ、アポスフィスムのようでいて、それとも異なるのですよ。私たちとは根本的に違う何かがあるんですよ。あの子には 」

「 実際に彼に会うことは可能ですか? 」

「 ええ、呼んできます 」


 連れて来られたのは、十歳前後くらいの少年。運ばれて来た者に肩を借りて足を引きずって歩いてきた。確かに、ここら辺の地域では見ない装いをしている。

「 彼ね、怪我の治りも早くて。……見つけた時はもうダメなんじゃないかと思ったほどでしたよ。でも今はこの通り。異国の服装をしていたこともあり、不思議だから実際に診てもらおうと、今回依頼したのです 」

 紹介された彼に目を合わせようにも、避けられてしまう。警戒しているようだ。それに、ここの村長が言った通り、アポスフィスムとも異なる独特な雰囲気を持っている。


 ──やっぱり彼だ。みつけた。

 新しい人物の登場に、これから面白くなりそうだと。レスディは内心ほくそ笑んだ。

 

「 では、彼を神殿で引き取ってもよろしいですか? 」


「 はい……! ありがとうございます 」


 アポスフィスムのことについて──あの時の悲劇をどこかで誰かから聞いたのだろう──過去のことを知っているらしい村長は、話がトントン拍子にまとまり、私の提案を喜んで受け入れた。


















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