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聞いてはいけなかった Ⅱ






 警戒心剥き出しの少年を懐柔させるために、レスディは普段ではあり得ない、客人をもてなすという行為をしようと思いついた。

「 何か飲み物でもいかがですか? 」

「……いらない 」

 年月を追うごとに警戒心が強くなっていく目の前のアストレオス殿下に椅子に座る事をすすめ、飲み物でもと思ったが、ぴしゃりと断られてしまった。視線が心なしか以前よりも鋭く感じる。恐らく、大人気ない事をしすぎたせいだろう。

 レスディは眉を下げ少し困り顔をしつつも、この年頃の子にとっては仕方がないとでも言うように、断られたことなど気にせずにそのまま殿下の目の前の椅子に腰掛けた。


 まるで仲間はずれにされて不貞腐れている様子のアストレオス殿下に、どこまで話せるか、レスディは考える。

 今進めている王宮での研究や彼らのこれからの未来に待ち受けているであろう、エディ殿下の『夢の預言』の出来事。話す内容によっては彼の他のエピソードの条件に干渉してしまい、最悪の場合、エピソードが破綻してしまう恐れもあるため、慎重に開示するモノや言葉を選ぶ必要があった。

「 さて、アストレオス殿下は何を知りたいのでしょうか? 神の力のこと? それともこの施設のことですか?」

「 わかっているくせに…… 」

「 ええ、アストレオス殿下が知りたいのは、アポスフィスムの正確な情報および神の子について、だと予想してはいました。ですが、私も一神官。立場上お答え出来ないこともございますゆえ……。ご容赦くださいませ、ね 」

 アストレオス殿下の顔を見ればすぐにわかってしまう。昨日のアポスフィスム達が集められた部屋のことについて、以前よりもさらなる興味をしめしたようだった。私が彼にかけた呪い(まじない)が解けたのも彼の力が強まって、それを跳ね除けたのだろう。その知りたいという願望の根本的なところは、エレーヌ殿下からきている。その勇敢さと探究心は評価するが、エレーヌ殿下のことになると躍起になる。兄弟の絆は素晴らしいことだが、それは時には弱点となるだろう。


 ぽん。と手を叩いて、レスディはこの緊張感に満ちた空気を和らげる。

「 では──。最初は、初歩の初歩から授業を始めましょうか。王家の学習でも習っているとは思いますが、神の力を持つ者たちにとって、これらは覚えていても損がない、最低限の知識ですからね。 」

 レスディは客人と話すのは基本的には好きだった。淡々と役目をこなすだけの退屈な時間には、ほんの少しの刺激が必要だ。アストレオス殿下と話す時間は面白いと感じているコトのひとつだった。彼らの行く末に興味があるからだ。これから彼のエピソードの達成もだが、エレーヌ殿下との関係の変化も楽しみだった。

「 俺は別に授業を受けに来たわけではないんだけど……。 」

 レスディは肘掛けの上で手を組み、その上に顎を乗せた。彼にとって、アストレオスに施す久しぶりの授業だ。若いモノへ今後について話すのは、レスディであってもやや緊張することであった。神の子へはなおさら。これから、この世界を左右する出来事の片棒を担ぐのだ。いや、王家のあの計画に加担したその時から、彼らの物語に影響を与えるのは私の役割だと、決まっていたのだろう。



 神の力を持つものたちは、力を使用する時、器から力をプシュケーに配給する必要があり、自らの器に値しない力を使用し続けるとプシュケーの酷使に繋がり、文字通り壊れてしまう。

 ここまでは王宮で習ってきたことだろう。

 彼らが神の力を適切にコントロールするには克服が必要であり、更なる強大な力を手に入れるには、ごく稀に発生する、神が持っているコンプレックスを克服する必要がある。

 アポスフィスムは少し例外なところがあり、厄介なのだが──。



「 特にアポスフィスムは力が強大であることから、失うものもまた、大きいんです。 また、先祖返りという名前から想像できる通り、先祖の神の力を持っています。しかしこの力使用回数には、他の神の力を持つもの達と比べると制限があります。 」

「 西の塔のあいつは王家のアポスフィスムだから、先祖返りの上、王家の血を引いていて、古来の神に近い力を持っているから危険視されて封印みたいな処遇なの? 」

「 はい。流石、アストレオス殿下は鋭いですね。彼はアポスフィスムであり、なおかつ力をふるう性質がアンディメーナです。その上、王家の血を引くものであるため、扱いが難しく。現在は西の塔に住まわれています。──尊い力ではありますが、いつそれが呪いへと変わるのかわかりませんから。 」


 先祖返りは、古来の神に力が由来しているため、その力は大体一回しか使用することができない。先祖返りといっても器が人間であるから、耐えられないのだ。そして、ごく稀に注意しておかなければならないこともある。──それが呪いだ。

 

「 だから、西の塔で監視しているってこと? 」

「 はい。管理と公にはしていますが監視の意味合いが強いかと。そもそも、呪いに一番近いのが彼なのです。 力が強いあまり、日常的にも制限を受けてしまう 」

「 器が耐えられなくなるんだよね。それが、呪いになる…… 」

「 器に関しては、成長と共に神の力と融合していきます。神の力は多種多様で由来する神により種類が決まり、持つも者によってレベルが変わります。 」

「 それって、神の逸話によるんだよね。神の逸話通りに進んでいくことがエピソード、だっけ? 」


 アストレオス殿下に聞かせる内容は、()()()()同じ。だが、いつもより少し時期は早めで、その上彼に深掘りされるのは驚いた。今までに見せない行動だったからだ。その変化に内心喜びを感じつつも、慎重に淡々と動揺を隠して説明していく。

「 ええ、神の力は神から与えられた贈り物ですからね。その器である人間は、神と同じ運命を歩まなくてはならない。というのが通説です。それ通りに進まないと、最悪の場合…… 」

「 じゃあ、エディ兄様は力の由来の神のエピソード通りに進まなかったから、ああなってしまったんだ…… 」


 アストレオス殿下は一瞬俯いて、次に何かを思いついたかのように、顔を勢いよくあげた。太陽の光の色をした髪がはためいた。

「 ねえ、 エディ兄様の欠けたエピソードって何? 僕らにも乗り越えなければならない、エピソードが待ち受けてるなら、今から対策できないのかな? 」


 ──ああ、やはりそこに辿り着いてしまったか。


 私たちが、何年も何回も挑戦していること。それは、『エピソードの代替』 とそしてそれに付随する、現在進行形の『神の子に関した実験』だった。

 これらは、今のアストレオス殿下には話せないことだ。彼に動かれたら困る。なぜなら全ての実現において、エレーヌ殿下への負担が大きすぎるからだ。彼女になにかあったら、全ておしまいになる。


 ( だが、もう少しだけ、彼らに踏み込んでもよさそうだ )


「 アストレオス殿下が疑問に思っていることは他にもあるかと思いますが、今はそちらに答えましょうか? 」
















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