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加担者






 プシュケノアの本来の役目を語ったのが、片方だけでよかったのか、レスディは自室に戻り考えていた。それも海に日が沈み、星々が空を彩るくらいの時間まで。

 ( 私のエスティアが近くにいるからか世界がとても美しく見える…… )

 夜の冷たい海風ですら、心なしかいつもの寂しさを連れてくるのではなく、孤独も消えてなくなり、むしろ穏やかな気分へと変えてくれる。庭に咲いている花々も月の光に照らされて、より一層綺麗に咲いているように見えるのも気のせいだろうか。まだ外を眺めていたい気持ちを抑え、開けっぱなしだった窓を閉め、今日の報告書の執筆にとりかかった。


 全ては私のエスティアのため。彼女の誕生の少し前から、これらはある程度、想定されていた事だった。ある程度、彼らの事情を話したとして、プシュケノアとしての役割にしかすぎない。だから、王家との密約に今回の出来事は違反ではないはずだ。




 世の中には明るい事と暗い事二つがある。対の内、片方が暗い出来事を知ったとて、プシュケーにはさほど問題ないだろう。両者の弱いところを補いつつプシュケーのバランスを保っているあの二人には──。


 月は太陽の光がなければ輝けない。だから月には太陽が必要とされた。だが、光に照らされない部分には影ができてしまう。影、それは私たちで言うと、プシュケーを蝕むもの。

 月が太陽を必要とする一方で、太陽は安息の地を求めた。己の光で、全てを焼き尽くしてしまいそうになるからだ。太陽には安らぎと静寂を必要とした。そして、太陽にとって、光をまとい、夜空に輝く月は、自らを浄め平穏を取り戻してくれる唯一の存在だった。


 ──太陽と月は互いを補っている。


 隠と陽、月と太陽、闇と光


 決して交わることのない真逆の存在。だがそれは互いを補い、支え合うからこそ成り立つ存在だと知られている。だからこそ、この世界でも、必然的に巡り合わされた。あの二人が二人でいる理由は運命ではなかったのだ。最初から。





 レスディという名を授かってから、ミィアス国との付き合いはとても長いが、その長い歴史を辿ってみても、現国王から直々に相談と訪問を受けたのは、今から十年ほど前のことだった。


「 神の唯一の末裔である陛下に拝謁いたします。私は、この地の守護者尚且つプシュケノアとしての役割を神より承っておりますレスディと申します。 」

 レスディがこの地から離れられないことを知る者は少ないのだが、ここまで一国の王が自ら進んで訪問するとは、さすがはミィアス国と、この当時つい上から目線で評してしまった。


 レスディがプシュケノアだからと救いを求めやってくる者たちは多い。最初の頃は、下手にでているようだが、期待した返答を得られないと知るや否や横暴な態度をとる者もいる。

 プシュケノアの役割を神から授けられた者は、知っているだけでも私しかいない。各地からやってくるアポスフィスムに対応する事に手一杯であると共に、十年前のあの時は権力を持つ者に自然と警戒心を抱いていたのだろう。そんなレスディの滲み出る疑念も知ってか知らずか、ミィアス国の王は平然とこう返答した。

「 プシュケノア……。 本当にこの広い神殿で一人きりなんだね。 」

 一国の王からの自信の力への哀れみとも渇望とも異なる、権威を振りかざそうともしない、藁にもすがるような想いを持つ彼に絆されたのか、神の子として、神から託されている役割を持つもの同士の仲間意識からなのか、彼と自然と打ち解けるのは早かったと思う。


 そして、ミィアス国が抱えている継承の問題。それに随時した神の力、エピソードの複雑化による難易度が上がった克服すべきものの多さ。さらには、第一子の力が預言であり、その予言通りに進んでしまっている最悪の現状。今後のミィアス国の存続に関わる問題に頭を悩ませている。とレスディを信用して隠し通さずにミィアス国が陥っている目下の諸問題を相談してくれた。

 プシュケノアとして尊重し、世界の守護者として信頼して協力関係を結ぼうと歩み寄ってくれたこの時から、レスディもこの計画の加担者となった。

   


 そして今から数年前、影に呑み込まれようとしていた片方が捧げられた。供物として。絶好のタイミングだった。彼らは、その赤子を利用することにした。そして人工的に、ひとつの対が出来上がった。その片方は影に侵されないため、片方の力を補強して互いの生存のために使っている。片方は浄化のため、もう片方は脆い片方を補佐する力のために。これが、ミィアス国を存続させるためのひとつの方法だった。

 王達は二人の偶然共通している、あるエピソードを利用した。どちらが崩れてしまわないように。

 だが、この二人は他にも複数のエピソードを持っていた。どれかのエピソードの条件が達成してしまう場合には、片方の他のエピソードが崩れてしまう、最悪のケースが起こる可能性もあった。

 いつしか、その複雑なエピソードの名をコンプレックスと名づけられた。何故だか、これらコンプレックスを抱く者は王家の血が濃いほど多い。


 そして、そのコンプレックスを持つ者はあの子たちの中にもいる。コンプレックスが一番発生しやすい王族の子はエディだった。不幸なことに、彼のエピソードは狂ってしまった。コンプレックスは残したままに。果たして、そのエピソードの破綻はこれから彼にどのように作用していくのだろうか。プシュケノアとしては心苦しく思っている。だが、私自信としては正直なところ、まだあの少年に対する気持ちを掴みきれていないのだ。今後どうなっていくのか、好奇心が芽生え始めていた。


 そしてその間にも、コンプレックスを持っている西の塔の君は、深い眠りにつく時期を迎えた。また、夢の中である人物を探して彷徨うことだろう。何度も繰り返していることを彼はわかっているだろう。もし、お目当ての君を見つけたとしても、手に入ることはないだろうが──。


 もう少しで、計画の要となる子が生まれるだろう。その時が、はじまりである。今度こそ破滅しないために、この計画を立ててきたのだ。

 だがその計画では、残念なことに、私は私のエスティアは再び離れ離れになるだろう。




 全てはあらかじめ決められている事。運命。神から離れられない私たち。どうか、今度こそは──。


 
















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