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疑念






「……殿下。……アストレオス殿下、どうされましたか? 」

「 ……っ、あ、ノータナーか 」


 レスディが去ってから、呆然としていた僕の意識を取り戻させたのは、ノータナーだった。僕はいつのまにか階段の手すりにもたれかかっていたらしく、ノータナーが僕の目を心配そうに見つめている。


 ノータナーの肩をかりて僕に与えられた部屋へ向かう。なぜここにいたのかもお互いに尋ねる余裕もなく、僕は今さっきレスディから聞いたことが本当であるのか、ノータナーは何か知っているのか探りを入れてみる。

「……ノータナーはオルフェのこと、どう聞いている? 」

「 アポフィスムで厳重管理をされている人物だということをアーティ殿下から聞いております 」

「 それ以外になにか思うことはある? アポフィスムについて知ってることでもなんでもいいんだ。エレーヌを守るためにも教えてほしい 」

 エレーヌの名前を出したら肩がびくりと揺れたことを僕は見逃さなかった。僕の部屋に着き、僕はノータナーの肩から手を離し椅子に座った。すると、ノータナーは周りに人がいないことを確認してから、声を落として付け加えた。

「 ──重要な人物であるということを一度聞いたことがあります。 研究にとってそしてミィアス国にとっても…… 」

 塔に隠されたオルフェが実は王族であることなんて、さっき僕だってはじめて知ったんだ。ノータナーもオルフェについてはこれ以上なにも知らないらしい。でも、いつからオルフェは西の塔にいるのだろう。王家の血を引いているらしいが、親族にオルフェと名を連ねる者はいないと記憶している。オルフェの素性について、そしてあいつの能力についても、もう少し調べる必要がある。エレーヌのためならなおさらだ。アポフィスムについても、知識が欲しい。

 

 もしかしたら、ここに連れてこられたのは、王宮の状態が落ち着くまでの待機期間以外にもいくつもの理由があると思い始めた。

 シェニィアから受ける授業は基本的な知識だけだ。レスディの話ぶりを見ていると、シェニィアからまるで真実を知るのはまだ早いと言うように隠されている気がした。レスディがなぜ王族のことにまで詳しい知識があるのか不思議だか、あまりにもレスディが包み隠さず話すものだから、それにも何か意図があるのは見え見えだった。

 秘密にしたいシェニィアに意を反するように、僕に何かを気づいて欲しそうにヒントを教え続けてくるレスディ──。

 ( そもそもレスディはなぜいろいろなことを知っているんだろう。ミィアス国とここの繋がりは多分強い。僕の知らないことを知っているそぶりだった。僕が幼少期ここに預けられていたように、エレーヌのことも含めて何か明かされていない秘密も知っているかもしれない )


 僕とノータナーはエレーヌと一緒に連れてこられてきたのにも関わらず、現在、エレーヌと関わるのを禁止されて部屋へ行くことも禁じられている。廊下ですれ違って手を振るのが精一杯だった。ここ最近は、不本意だけどエレーヌよりも、剣術の稽古などとノータナーと過ごす時間が増えてきた。


 エレーヌのプシュケーは清らかで穢れやすいからと、エディ兄様の件があってからというもの一段と脆く、浄化を必要としていると聞いている。ここが避難先に選ばれたのも浄化ができるレスディがいるからだろう。

 ( ではそもそも、エレーヌのプシュケーが僕らからも影響を受けるとわかっていながら、なぜ一緒に連れてこられたのだろうか? )


「 ノータナー、レスディについては、どう思う? そもそも、なんで僕たちまでここに連れてこられた理由、ノータナーは知ってる? 」

「 そ、それは…… 」

 腹の探り合いだ。そもそもノータナーはレスディと初対面のはずなのに、何かを隠すように目を逸らされてしまった。

「 何か知っているの? エレーヌは浄化のためにここに来た。でも、僕たちは? エレーヌの状況を見ても離れて避難した方がよかったと思わない? 」

「 王宮が落ち着くまでの避難の意味もありますが、教育的な意味も含まれている。とそれだけしか今は…… 」

 ノータナーにもそこまでしか明かされていないらしい。一度生まれた疑問はどんどん膨らがっていく。この答えを解き明かす方法もレスディ本人に聞くしか手立てはないらしい。

「 へー。そうなんだ 」

 僕はあえて興味なさげに返事をしてから、ノータナー部屋から退出させた。


 ドアが音を立てて閉まる。中の音を全て遮ってしまうように、そしてそれは僕の質問に今日はもう答えるつもりもないというノータナーの断固たる意志にも思えた。ノータナーも隠されていることがあるに違いない。そして、ノータナーが僕らに言えないことがあるのだろう。


 でも、やっぱり僕は諦められない。エレーヌを守るためにも、ここにいる間で、全てを聞き出してしまわないと。


 ──明日、レスディの部屋のドアを叩くだろう。


 今日レスディから聞いたことを全て今まで読んできた史料と照らし合わせながら整理して、明日に備えることにした。そして僕は、僕とエレーヌの今までを思い出しながら、一晩中、レスディに質問することを考えた。恐らく、意図的に隠されていることがたくさんあるに違いない。レスディが話そうという素振りを見せている今がチャンスだとそう思った。

















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