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決められた道






 あと少しで何か思い出せる。そこまでのヒントを私に与えたのにも関わらず、レスディさんはこの話は終わりだと言うように手を叩いて私の思考を絶った。

 音に少し驚いた私は少し目をぱちくりさせながら、なぜ、レスディさんはオルフェさんの事までも知っているのか疑問に思っていると、突如目の前の、レスディさん自身の醸し出す雰囲気が変わってしまった。

 

 色素の薄い髪色と白い砂浜、雲ひとつない蒼い空。全てがあの、天秤の前で、オルフェさんによって記憶の箱が開かれた時と同じような神秘さを感じてしまう。

 なぜ、こんなにもオルフェさんを思い出してしまうのだろう。今、話しているのは、エピソードのことなのに。

 レスディさんの言う通り、オルフェさんのエピソードと私のが関係があるならば、オルフェさんがエピソードのことを仄めかしたままにとどまっているのも納得できてしまう。全て思い出さない私の前で、エピソードが自分と関係ある。と言ってしまえば混乱してしまうだろう。だから、オルフェさんは、段階を踏んで、私が思い出すのを待つしかなかった。

 この私の目の前にいる人、プシュケノアというプシュケーを導く人は、この世界の真相よりももっと深いところまで知っているのではないだろうか?  オルフェさんのことを深く知っていて、私とのエピソードが共通していること、オルフェさんはそれを私に伝えようとはしなかっとこと、を全てレスディさんが知っていて、私に伝えてきた。

 この世界の理を私に理解させることがレスディさんの役割だというように、全ての情報を開示してこようとする強い意志を感じる。 少なくとも、小出しで焦らすように教えてきたオルフェさんよりももっと強い想いをもっているに違いない。 これも、レスディさんの役割というのなら、この物語のキーパーソンは、きっと──。


「 ──殿下、話を戻しましょうか 」

 レスディさんは私がこの場から去ることを望んでいないようだ。 彼の雰囲気に圧倒されて一歩一歩後ろに下がって、距離を取ろうとした私の足は砂に絡め取られて、ついには動かなくなってしまった。レスディさんの啓示はまだまだ続く。

「 先程申し上げたように、神から予め与えられた試練を克服してはじめて真の力を手にできる……。 神の逸話通りになるということです。言い換えると、ご自分の由来する神の力のエピソードが達成されること。すなわち、力の元である神と同じように、神が行った行為を再現しなくてはならないということですよ。 」

「 それは……。エピソードを克服するのには神と同じ事をしなくてはならないという事ですか? 」

 私は自分自身が由来する神すらも、そしてエピソードがどこまで進んでいるのからもわからないというのに。そもそも、神と同じことを繰り返すということは──。

「 ええ、これでわかりましたか? 神の力とエピソードは深く繋がっていることが。エレーヌ殿下にはこれから様々な困難が降り掛かってくるでしょう……。でも目を逸らしてはいけませんよ 」

 レスディさんは、私の両頬をやさしく、でも目を逸らさないくらいにがっちりとつかんで、こう囁いた。

「 ……次の神の子である、エレーヌ殿下のプシュケーには早く安定していただかないといけません。なぜなら、この世界の破滅のシナリオに殿下が深く関わっているのです 」


 私は自分自身が置かれた状況があまりにも複雑だと、はっきりと実感させられた。この世界の破滅に私が関わっていて、まずは、自分のコトを安定させなければいけないなんて。


 初めから、いくつもの糸は絡まり、解くことすら無謀なことだと突きつけられた瞬間だった。


「 世界の運命はエレーヌ殿下にかかっていると言っても過言ではありません 」

 他者からはっきりと言葉にされて私の立場がわかるなんて──。

 いいや、わかってた。破滅してしまうこの世界に訪れる運命も、過酷な未来が待ち受けていることも。でも、見えない道を何も対策もせずに進むのができなくて、そして未来を誤った方向に変えてしまう過ちを犯すのが怖くて、今まで逃げてきた。

 ( 逃げていた罪を突きつけられた気分だ……。)

 ──絡まった糸を少しずつゆっくりと解いていければいいと思っていた。

 私はいま揺らいでしまっている。このまま、糸が解けないのならば、絡まったままでその先に待ち受けている破滅を受け入れる事でもいいのではないかと。私がいつの日か決意した事が根本から音を立てて崩れ落ちていく。私のいままでの行動が無駄だったのではないかとかさえ、思ってしまう。


「 私ができることは、エレーヌ殿下がなぜ次の神の子にならなくてはいけないか、どうやってこの記憶たちを克服していくかヒントを教える事です。 この先の運命を変えるために、陛下もまわりの方々も最大限に今動いているのですよ 」

 レスディさんは、揺らいでいる私の気持ちを見越したからのように手を差し伸べてくれた。

「 本当は、エレーヌ殿下に教えていい事の範囲は限られているのですがね……。 私も今後の世界の見通しが立てられないほど、エレーヌ殿下のプシュケーは謎が多くて、とても大変だ 」


 風が出てきた。太陽が空の真上から下へと下がろうとしている。今日が終わる。私が太陽を眺めているとそれを遮るようにレスディさんがまた一歩私に近づいてきた。私たちの影が重なり合った。

「 私たちは繰り返しているのですよ 」

 そっと耳元で告げられる。私は顔の近さと、伝えられたことの二つの驚きで背を逸らしてしまう。そうして、恐る恐るレスディさんの顔をみると、今まで見たこともないような、感情を含まない目をして、無機質さを感じさせるようにして、彼は笑っていた。

 ( これがレスディさんの本意だろうか? )

 ともかく彼の思惑も狙いも分からなくて混乱してしまう。


「 薄々気がついているのでしょう? もうこの世界が繰り返し滅亡していることを。……さあ、風が強くなってきました。そろそろ戻りましょうか 、私のエスティア…… 」

「……私は……。 」

 私は罪を自覚して、放心状態でもうなにを考えたらいいのか、わからなくなってしまった。突きつけられた現実の重さに耐えきれなくなって、頭がぐらぐらと揺れる。

 そんな私を見てレスディさんは何を思ったのだろうか。彼は、私の前にたち、プシュケノアというプシュケーを導く神聖な者のイメージとは真逆の、愉悦にひたるような目で私を見下げると、私の腕を取り海辺を歩き出した。その場から立ち去ろうにも動けなかった足がやっとレスディさんに連れられて動く。その次にはもうそこからの記憶はなかった。



 次に目覚めた時には、私は部屋に寝かしつけられていた。枕元にいる、心底安心したような顔をしたレスディさんと目があった。その目をみると何故か胸の中心がチクリとした。また原因不明の目眩も起こってしまいそうだ。

 ( あの海辺で、話した人とはまるで別人だ……。彼は誰? )

「 ……よかった。エレーヌ殿下が急に居なくなられて、皆で大慌てで探したのですよ。浜辺で倒れている殿下を見つけた時は、心の臓が止まるかと思いました……! 目覚められて本当によかったです 」

「……え、私 」

 今目の前にいるレスディさんの話によると、私はひとりで海に行き、行方不明になっていた。私がいないと心配して、皆総出で探したところ、海の近くの砂浜で倒れていたのを発見されたらしい。

 そして原因不明の熱が下がらず、目も醒めない私をレスディさんは、三日三晩看病してくれたとのことだった。


「どうしてあんなところにお一人で? 」

 なんて、そんな事をレスディさんは私に尋ねもしなかった。

















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