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結びつき






「 エピソードというものはわかりますか? 」


 レスディさんからの突然の問いかけに反応が一歩遅れてしまう。

「 ……はい、神の力を持つものの運命。──だと教わりました 」

「 ええ、正解です。神の力に由来する神が持つ逸話通りに人生を歩まされることですね。 このエピソードがプシュケーを操り、器を行動させていることはもう習いましたか? 」


 夜中、オルフェさんに連れられて行った、天秤がある祭殿での出来事を思い出す。そう。私たち神の力を持つものの人生は予め決められている。そう思い知らされたあの時を。


 レスディさんは、あの日、私が思い出したこの世界の理を補足するように説明を続けた。

「 エピソード、つまり神の逸話が何かの妨害によって未完成になった状態。それが混乱を生じさせる、第一歩になるんです。ご存じでしたか? 」

 今回のエディ兄様のことが、まるでソレが原因だと私にわからせるように。

 私が今わかっていることは、エピソードが崩れてしまい、達成しない場合には、最悪 ≪呪い≫ となり暴走して世界を破滅させてしまう──。ということ。

 でも、エディ兄様の今回の出来事だけが、この世界が破滅する原因だと言われたら、違うような気がする。この物語は、他にも破滅する要因がどこかに散りばめられているはずだ。レスディさんが言うように、彼がこの世界を見届ける役割を本当に持っている場合、この先の未来を知っているなら、その破滅の原因を知っていてもおかしくはない。けれど、それを、そもそも私に教えてもいいのだろうか? 

 まだ、私が知らないこの世界のことをレスディさんは私に教えようとしている。二人だけで誰も目が届きにくいところに誘ったのも、それが目的だろう。


 ( 私に今教えたいのは何? これが、レスディさんの神から与えられた役割? 私に何か教えても、レスディさんの得になるようなこと、ひとつもない気がする…… )


「逆に逸話通りに条件が揃うこと。それをエピソードの完成といいます。神の力を持つものは、神の逸話を達成するために、自分で無意識のうちに行動してしまうんですよ…… 」



 エピソードが達成しないとどうなるか。やがてそれは、破滅をもたらすということはわかっていた。でも、完成、達成なんて言葉は……。 明確に出てこなかった気がする。私が忘れているだけだろうか? でも、似たようなことを聞いたことがある。私が思い出そうとしているうちに、どんどんレスディさんは説明を続けていく。今までの総復習のようだ。


「 実際、この器も借り物でしかないんです。 ──神の依代です。犠牲を払うのはいつも器。……ここまでは誰からもあまり詳しく教えてもらえなかったようですね? むしろその反応を見ると隠されていた。と表現した方が良さそうな雰囲気です…… 」

「 犠牲を払う…… 」

「 ええ、神から予め与えられた試練を克服してはじめて真の力を手にできる。と聞きませんでしたか? 」

 ──そうだ、克服。オルフェさんが強調して与えてきたその知識。これがもしかしたら、彼が伝えたかったことなのかもしれない。エピソードの完成がもしかすると、克服と関係がある? では、オルフェさんが、しきりに話していたもうひとつの事、コンプレックスもレスディさんは知っているのだろう。話を聞いていると、なにやら二つに関係性があるのだと思ってしまう。探れば、教えてくれるだろうか?

「 ……克服はわかります。ある人から聞きました。そのある人……がいっていた克服と今からレスディさんが私に伝えようとしていることは関係があるんですね 」

「 ああ、もう彼と会っていたんですね。 今回は少し早いようだ 」


 私が確証を得ようとする前に、オルフェさんの存在を仄めかすと、レスディさんは、まるでオルフェさんのことを昔から知っているかのような口ぶりで話しだした。でも、今までこの神殿にいるレスディさんと西の塔という閉ざされた場所にいるオルフェさんに繋がりはあったのだろうか? 

「 今回は……? オルフェさんのことを知っているのですか? 」

「 ええ、アポスフィスムの彼とは旧知の仲でして……。 彼は自分のことになると秘密主義ですから……。本当の彼の正体やアポスフィスムの特性についても、殿下はまだご存じないのでしょう? 」


 昔を懐かしむようにレスディさんは目をつぶって、オルフェさんのことを語りだす。まるで、オルフェさんの存在自体が私のエピソードと関係があるように。まさかここで、オルフェさんの話題が出てくるとは思わなかった、私は驚いてしまう。まるで、オルフェさんが私に伝えたかったことを代わりに話すように、レスディさんは彼のことを詳しく語りはじめたのだ。レスディさんさオルフェさんのことをどこまで知っているのだろう。なかなか教えてくれないオルフェさんに代わって、ここで私が聞いていいものなのだろうか。そんなことはお構いなしに、レスディさんは話し続ける。


「これは彼自身がもつある一つの物語です。エレーヌ殿下が今、神の力とエピソードがわからずに彷徨っているように。彼は永遠と暗い闇の中を独りで歩いているのですよ。一筋の光を探して。それが彼の役割でもあり運命でもあるのです。だって彼は貴女で形作られているのですから── 」

 (オルフェさんが私で形作られている? どういうこと?! )

 オルフェさんが最初から私に接触してきたのも、会いたくても会えない日が続いたのも、まるでそれこそ、オルフェさんのエピソードであるかのように。

 (でも、レスディさんは何故それを知っているの? )

 今それを私に話すということは、その、ある物語の登場人物にオルフェさんと私がいるということで、これは私の神の力の逸話にも関係がある。そして、オルフェさんのエピソードに私が関係している。とレスディさんの語りから、感じとってしまった。


「……おっと、 私が今言えるのはここまで。アポスフィスムの特性上、真実に気がつけば気がつくほど、大切な物に近づけば近づくほど、彼のプシュケーは蝕まれていくのです。 ……とても哀れでしょう。導きたくても最後までは辿り着けない運命なんですよ。 今だってもう、深い眠りについたことでしょう。毎回毎回そうでしたから 」

 アポスフィスムの特性もはじめて聞いたことばかりだ。勿体ぶるように、レスディさんは最後に意味深なことを言う。


 まるで、オルフェさんとはもう会えないような事を──。


 私が頭の中で今までのオルフェさんの言動とレスディさんから聞いたことを照らし合わせて、正解に辿り着こうとしていたのだが……。

 あともう少しで手掛かりを得る前に、私の思考を打ち消すように、レスディさんはパンっと手を打ち鳴らした。



 ──この物語の見届け人(レスディさん)によると、今はまだオルフェさん関連の糸を解く時ではないらしい。















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