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 黄昏の海に、今にも海に沈み込もうとしている金の灯りと同じ色をもつ二人の子供が見えた。怯えたように肌を寄せ合い手を握っている二人と、その子らを飲み込まんばかりの波音。きっと彼らのプシュケーも迷っているのだろう。大人たちに言われるがまま連れてこられた先が、此処だなんて。今まで、何を信じてきて、これから何を私から受け取るのだろうか。行く末も知らないまま。


 これ以上怯えさせたら、プシュケーにまで悪影響を及ぼしてしまう。やっと目の前に彼女がいるという高揚感を無理やり押さえつけて、なるべく安心させるようにゆったりと近づいて、人当たりの良さそうな笑顔を浮かべて話しかける。

「 長旅ご苦労様でした。 はじめまして。 私はここを管理している、エレスディレオスと申します。 ……気軽にレスディと呼んでくださいね 」

 彼女たちを出迎えた後は、滞在する場所について、簡単に説明する。

 疲れているのだろうか、以前出会った記憶の時よりも幼げな表情で私の話を聞く彼女は、不思議そうにぼんやりとした目で、私の話を聞いている。その表情はあまり見たことが無いから思わず目尻が下がってしまう。でもあまり彼女を見ることは許されていない。隣のレオス殿下は彼女の手を意地でも離さない意志を感じさせるし、さっきから睨まれているように感じていた。


 ( 二人きりになるタイミングを伺うしかないですね…… )

 彼女が眠る前に、プシュケーを浄化するためと称して少しだけお話をした。今日受けた衝撃はなかなかにしんどいものだったはずだ。明日から本格的に浄化と禊ぎをしなくては。

 そして、疑問は早くに解決させたほうが良いだろうという判断から、眠る前のおとぎ話がわりに私いう人物の役割とここの説明をした。正直なところ、つい、彼女と再び出会えたのが嬉しくてまだ離れがたいから、まだ話していたいという理由もある。


 プシュケノアの役割は、神から与えられたこの神聖な土地と神聖な力で、神の力を持つものたちのプシュケーを見守る役目を担っている。神の子とは違って、プシュケーの声を聞いて、彼らを正しい方向へ導くのだ。

 残念ながら、救い出せないプシュケーは山ほどある。安定をしているように見えても、憎悪が眠っている場合や悲嘆にくれて、今にも根本から崩れ落ちそうなプシュケーだって、その場合は触ることも救い出すこともできない。黒くて深い闇に葬るしか方法がない。だから、海の近くに神は私を住まわせた。

 もちろん、ここは神殿だ。光を失い迷い混むものを保護したり適切な処置をすることがある。意外と生まれ落ちてからいままで、神の力を上手くコントロールできる者は少ない。私が見てきた中では、強大な力を恐れて、助けを求めてきた者。その未知の力によって迫害されてきた者。力を暴走させてしまった者。生と死の間で、彷徨ってきたさまざまな者たちを受け入れてきた。


 あと一つ、プシュケーを導く役目とともに世界をまもる役割を授けられた。この世界を見守る役目は永遠に続く。そしてこの勤めの副産物として、私は世界に何か異変が有ればすぐにわかるようになっている。でもそこには、主だった介入できないのが縛りだ。世界が正しい方向へ向かうためや、秩序立てのための破滅ならそれもまた、必要なこと。


「──私のようなプシュケノアはミィアス国の王、神の子のように、神の力を持ったものたちを制御したり管理することに比べると出来ることが限られています。それに神の力の強さはさほど必要ありません。ただプシュケーが清らかであれと、この世界の安寧が永遠に続くようにと祈っているだけなのですからね。……私はただこの世界の均衡が崩れないように、秩序が乱れないように、見守っているのですよ 」

 一生懸命に私の話を一言一句逃さないようにこちらを見上げているが、彼女は眠たそうな表情をしている。可愛らしいと思いつつも、このままではかわいそうだ。


「 これから、しばらくの間よろしくお願いしますね…… 」

 彼女の苦しみが少しでも癒されていきますようにと、すこしだけ力を使い、彼女を眠りにいざなった。

「 いい夢がみれますように。エレーヌ殿下……私のエスティア 」


 私には他のものと違って神から役目を授けられた。これは、私にとっては鎖でもある。ある条件が達成されるまで終わりがないのだ。そう呪いをかけたのは自分でもあるけれど──。私のエスティアが今度こそこの縛りを解いてくれるはずだと信じて。


 エスティアは今度こそ破滅を回避して、次こそ私のプシュケーを掬い上げてくれるだろうか──?


 その先に待つ理想郷は、まだ誰も足を踏み入れたことが無い。


 私だって好きで繰り返しているわけでは無い。早く救いが欲しい。だなんて、迷える人々を救う立場の者がこう思っているのはおかしいだろうか?

 

「知っていますか? 私にとっての救済は、エレーヌだけなのですよ…… 」 

 彼女の部屋から退出して、誰もいない廊下で誰にも聞かれてないことをいいことに独り言をもらす。

 外を見ると、銀色の月明かりが海に反射していていた。波は穏やかで、キラキラと輝きを放っている。彼女は安らぎを与えてくれる月夜の女神のようだ。


 ──どうか、この時が永遠に続きますように。







  









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