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僕の決意






 西の塔のあいつと会ってから、エレーヌはたびたび兄様の図書室に行きたいと言って、史料をよく読みにいくようになった。どうやら、あいつに唆されたのだろう。何かあったのか聞いてみようにも、それに触発されて余計なこと──例えば、黒い靄のこととか。──に勘づいてほしくなかったので、見守っていた。どうやら、 ≪契約≫ について調べているらしい。


 ≪契約≫ について僕らが知っているのは限られている。ひとつは神の子が神の力を持つものを管理するために結んでいる、契約。これは、神の力を持って生を受けた時から既に結ばれている。これは力をもつものを保護、そして管理するためのモノだと聞いたことがある。


 もうひとつは、エレーヌとノータナーが結んでいる ≪血の契約≫ だ。古い史料には、この契約方法については載っていないから新しいものだと思う。アーティ叔母様たちが考えたのだろうか。エレーヌのプシュケーが穢れに弱いからと護るために結ばせたのだから、きっとこのエレーヌがあらゆるモノを引き寄せやすい体質を見越して、プシュケーを奪おうとする脅威から護るための契約だろう。


 (僕が常に、エレーヌの側にいればいいことじゃないか )

 頭では、 ≪血の契約≫ は僕ら兄弟や、ミィアス国の将来の事を考えてのことだとわかってるけれど、エレーヌの事となるとどうしても我慢できないのだ。僕はただひとりのエレーヌの双子の兄弟だ。なんでもわかる僕がエレーヌの側で護りたい。ノータナーが側にいるのが気に食わない。僕らだけの世界に他の色はいらない──。いつもここまで考えて、そんなエレーヌを独占しようとする厄介な感情を自制心でなんとか抑え込む。きっとこれは嫉妬。だって僕らはいつも一緒だったから。


 でも、ノータナーとの稽古をする時は、無意識のうちに剣を持つ腕に力が入ってしまう。余計な感情が湧き上がってしまい、つい手加減を忘れてしまう。ノータナーは相手が僕だからか本気を出してこないのも気に食わなくて、つい必要以上に力をだしてしまって、怪我をする。

 そしてエレーヌにちょっと怒られるのが数日続いていたある日の事だった。


 重い空気に耐えられなくなり目を開くと、むせかえるほどの黒い靄が広がっていた。そして一瞬、地鳴りのような音がした。何が危機が王宮で起こっている。僕は飛び起きて、この闇の発生源まですぐさま向かった。


 僕がたどり着いて見た光景は、ぼろぼろになった廊下と兄様の部屋にあつまる大人たちだった。


 大人たち──大体が服装からして研究者たちだろう──の間をかき分けて、誰かの静止を張り切って、兄様の寝台までやっとたどりついた。


 アーティ叔母様はまわりの大人たちに指示をだし、シェニィアは聞き取れないが、呪文詠唱をして兄様の額に何やら光の輪が見えた。それなのにエディ兄様からは、暗い闇が未だなお発生し続けているし、父様は兄様から発する闇を押さえつけるように何やら短剣を胸に懐き呪文を唱えていた。そのただならぬ緊迫した状況に圧倒されて立ちすくむ。


 父様と目が合い、僕がその場にいることに、はじめて気がついたようだった。互いにはっとすると同時に、ここにいても何もできない、自分に気がついた。おそらくヤミが見えるのが僕だけだから、その危機的状況を視覚的に感じ取れるだけしか、今は力を使えないのだ。まだ神の力は開花していない。きっと役に立てない。

 呆然としていると、誰かの手が僕の方に触れた。アーティ叔母様だ。いつもより真剣な眼差しで王族として言葉をかけてくる。それに釣られて普段猫背の僕も背をただす。

「 今はエディの闇が見えているのは、レオスだけでしょう? これがエピソードが狂った時に発現する呪いだよ。 これに触れたら並大抵の器は耐えられないだろう 」

「それじゃあ、エディ兄様は……?? 」

「 エディは助かるよ。暴走してこうなってしまったけれど……。呪いは最低限に押しとどめたし、延命処置は成功したからね。 でもね── 」

 これは僕だけにしか話せないことだと前置きをした上で、アーティ叔母様はこれからのことを説明してくれた。

「 これは、この闇はレオスはもちろんエレーヌにとっても悪影響を及ぼす恐れがあるんだ。だから、二人には別の土地の神殿へ浄めとして避難してもらうことになる。 レオスも行ったことがあるはずだよ。エレーヌが眠っている頃に何度かね 」

「あの、海の……。……でも、どうして僕も行かなきゃいけないの? ヤミが見えるのは僕だけだから、エディ兄様の状態がわかって役に立つかもしれないのに!! 」


 このままのエディ兄様をひとりにさせるのは、僕にとってもエレーヌにとっても不安要素のひとつになるだろう。エレーヌのそばにいたい気持ちと兄様のことが心配な気持ちで押しつぶされそうになって必死にアーティ叔母様になんとかならないかと詰めよる。

 そんな僕を安心させるように、同じ目線にしゃがみ込んだアーティ叔母様の目は覚悟を決めた目をしていた。

「 エディのことは私たちに任せてほしい。いずれ時が来たら、レオスとエレーヌを迎えにいくから。 それに、レオスは天秤の審判で定期的に帰ってこないといけないから、運が良ければその時にエディと会えるかもしれないよ 」

「 わ、わかった……。 だけど、エレーヌはエディ兄様としばらく会えないってことなんだよね? 」

 僕の質問に肯定するように頷いたアーティ叔母様は、心なしか悲しそうだ。

「 これは、エレーヌにはまだ言えないことだけどね。 ココには、エレーヌに魅入られるモノが集まりすぎたんだ。 それからの避難の役割もあるんだよ。 レオスとエレーヌのプシュケーは互いを慈しみあっているから──。二人で成り立っているんだよ。二人一緒だから意味があるんだ。わかってくれるかい? 」

 エレーヌのプシュケーを護るため、なら僕がエレーヌの側で護らなければいけない。答えはひとつしかなかった。

「……僕たちは双子だから──。 エレーヌと一緒にいないと……。 ──わかった 」

「 避難するための準備は予めしておいたから、今日、日が昇ったらエレーヌと共に出発だ。 ──頼んだよ。 」

 僕は頷き、誓った。エレーヌを護れるのは僕だと。エレーヌのはんぶんだからこそ、できることをしよう。と。 


 そしてエレーヌがノータナーに連れられて避難しているという、ミィアスの天秤のところまで、急いでエレーヌを迎えに行った。


 僕に与えられた使命は、僕のはんぶんのエレーヌを護ること。エレーヌの綺麗なプシュケーが、闇によって濁らないように。誰にも奪わせない。曇りなき清らかなエレーヌのプシュケーはこの国の希望なのだから。

 












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