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兄様たちと私 I ー『オルフェリアの希望』より






 今日は朝から剣術の練習があった。最近私に稽古をつけてくれるのは、レオス兄様だ。練習といっても、実戦形式なので、レオス兄様は、エレーヌ姉様が私に弟のように優しくするのが気に入らないのか、私が姉様を独り占めしていると思っているのか、嫉妬心を隠さずに、日頃の鬱憤を晴らすかのように容赦なく飛びかかってくるので、避けきれず、たまに切傷をつくってしまうことがある。


「今日は、直接当たることもなかったし……。傷はないかな 」

 姉様のところへ戻る前に、傷がついていないか確認する。私の怪我を目敏くみつけ、傷に効く薬を塗ってくれるのは姉様だ。姉様が甲斐甲斐しく治療をしてくれるので、結局のところ私が姉様と過ごす時間はさらに増え、レオス兄様はさらに嫉妬する。そして稽古もかえってキツくなる。私の怪我が増えるたび手当をしてくれるのは姉様なので、私たちの過ごす時間がその分増える。その悪循環にレオス兄様は気がついていない。案外どこか疎いのだ。


 この前は、レオス兄様のちょっとした揶揄うような戦術に飲み込まれてしまい、つい私もむっとなってしまった。そしてヒートアップしてしまった結果、結局稽古が終わった私の頬には切傷ができていた。

 そんな顔に傷を作った私をひと目見て、姉様は廊下に響き渡るような悲鳴をあげて、すぐさま姉様の部屋に連れさられ、手当てをしてもらった。それから数日、姉様の手で直接薬を塗ってもらったりと、果樹のように甘やかされた私とは反対に、レオス兄様は姉様にこっ酷く叱られたらしい。 

 私も姉様にこんなに構ってもらえるなんて思ってもおらず、私だけに優しくしてもらうのは嬉しい反面、レオス兄様が少し不憫に思えた。

 エレーヌ姉様に心配されたいがため、独占したいがために、ワザと少し挑発させたことが狙いだと気づかれたとしたら、そんな構ってほしい子供のような性格をもっているなんてバレたら、姉様には恥ずかしくて顔を見せられそうにない。レオス兄様がエレーヌ姉様を独占したいように、私だって、姉様と二人でいたい。

 本当は剣の稽古をしてないで、姉様と空を眺めながら、お話しする方が好きだ。神の力だけに頼らないようにするために、剣の腕をあげるのことは必要なのは理解しているし、将来姉様の力になる為にも役立つと思っている。けれども、最近は、午前中はずっと稽古、午後からの自由時間はあるけれど、それは、ほんのごく僅かしかない。帝王学を学んでいるため、時間が取れない。姉様もバタバタと最近は以前にも増して忙しくしているため、二人でゆっくりする時間がなかなか取れなかった。だから、二人で話せる時間は、手当の時くらいで、その時間が貴重で大切だった。わがままを言うなら、以前みたいに、エレーヌ姉様と一緒に誰にもバレないように、王宮の外へ行って、たどり着いた市場で見たこともない、果実や動物を見たり、人々と交流して新しい知識を身につけたい。そんな時間、今の現状では取ることができなかった。みんな、何かに追われるように急いでいる。そう、姉様だって……。


 貴重な自由時間を無駄にはできない。急いで、これから自室に戻り、(からだ)を清潔にして着替えたら、姉様の部屋に行こう。切傷に効く薬草が切れてしまったとそんな見え透いた言い訳でも、姉様は私からの構ってほしさを感じ取るのが上手だ。誰かがみたら怒られそうなほど、姉様は私をうんと構って、甘やかしてくれる。


 そんなことを考えていた、ある日の午後。列柱が立ち並ぶ中庭に面した廊下で、柱に背を預けて寄りかかっている人がいた。影になっているから、いつもよりも暗く見える茶色に近いあの髪の色は、エディ兄様だ。私たちは互いの気配で誰か気がつくことができるが、兄様はあまり自らの存在を他者に認識させないために、気配を消して行動しているらしい。そっとしておいて欲しいのだろう。

 気配を消して近づくと、特にエディ兄様には警戒されてしまうから、──王宮で誰が害されたなど聞いたことはないけれど、そういう部隊が各国にあると聞いている──誰が歩いていると、認識されるために、足音をいつもよりたてて近寄り、手を触れる前に許可を得る。これも、エレーヌ姉様から教えてもらった。決して声を荒げずに、ほんわかとした姉様のような柔らかな声色で声をかける。

「……エディ兄様、お部屋まで肩をお貸ししましょうか? 」

 顔色をみて、元々真っ白な顔が青白くなっていると気づく。やっぱり、体調がすぐれないようだ。元々エディ兄様はプシュケーが不安定で、こうして動けなくなる時があると聞いたことがある。ここから、エディ兄様の部屋までは少し距離があるので、部屋まで私が送っていこうと提案する。あまり、私たちとの関わりを避けているエディ兄様だから、断られることも想定していたけれど、今は頼れる人が私しかいないと判断したのだろう。

「……あぁ、ユディ。すまないね、少し腕を借りてもいいかな 」



 ──この後、エディ兄様に起こることを何も知らずに、兄様の手を引いて、兄様の歩幅に合わせて私たちはゆっくりと歩き出した。









「兄様たちと私 I」『オルフェリアの希望』より










『オルフェリアの希望』の主人公のエディと兄達のお話が続きます。


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