表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/85

囚われの子どもたち





 

 私たちは囚われている、神から与えられた力と引き換えに。力を持つものは、神の運命や理に左右されている。 ≪神の力≫ をもつ者は皆、神から示された理に囚われて生きているのだ。


「……シェニィア、それは本気で言っているの? 」

「ええ、陛下のプシュケーを維持し続けるのにも限界があります。 エレーヌ殿下への継承に時間がかかる以上、どちらかを取るべきでしょう 」

 アーティはこの行き詰まった状況で、シェニィアに助言を求めたことを後悔した。


 時は戻ること、まだ月が空高く輝く時間帯。アーティの研究室にノータナーが息を切らせて訪ねてきた。一瞬、エレーヌにも何か起こったのかと冷や汗が背中を伝ったが、彼の表情をみるところによると、どうやら少し違うらしい。

 ≪神の力≫ をもつ者ならば、 ≪コンプレックス≫ あるいは ≪混乱≫ が発現してしまったのかと身構え、器とプシュケーが取り込まれないように対策をするが、彼は違う性質をもつ者だ。それも ≪血の契約≫ を結ばせた理由のひとつなのだが──。

 ノータナー自身に明らかな変化が起きていた。 目の色が変わり、何処からか湧き出てきた、何かの衝動を抑えつけるように、エレーヌとの繋がりだと大切にしている(ぎょく)を握り締め、意識が飲み込まれないように耐えている。この状態は、ノータナーを鍛え上げた人物が記した、ノータナーに関する報告書での現象と類似していた。

 急いで、アーティは、昨今の出来事で消耗しつつある自身の力を少しだけ使い、その場凌ぎの呪い(しばり)をかける。即効性はあるが、持続時間は短い。そして、ノータナーに提案すること自体辛い提案をし、同意を得る。万が一に備え、施行したくない権限の許可を王から受けて、重ねて保険をかけておく。今はエレーヌとの距離を置くように、と伝えた。そしてノータナーを監視する目的で、しばらくは研究所の一室で過ごしてもらうことにした。それは、何かが起こってしまった時に直ぐに対処できるようにするためだ。


「ノータナーのもうひとつの力を縛りつけているラシウスの力がここまで弱ってしまっているのね…… 」

 エディの ≪混乱≫ が最悪 ≪呪い≫ に変化して、暴走してしまうまで、刻一刻と時は迫っていた。データから導き出した、運命の日まであとひと月も満たないだろう。そんな中で、ノータナーも力が押さえつけられないほどになってきている。

 護るべき子どもたちのプシュケーが、どんどん飲み込まれてしまっている。問題に対する対策を練り、己を酷使してひとつひとつ解決していったが、そのリソースである ≪神の力≫ の消耗が激しかった。まあそれもそのはずと、部屋の奥の暗闇から漏れている光を見つめる。

「ん……。 もう時間ないよね 」

 護るべきものたちが少しでも幸せに健やかに生きられますように──。そんなことを、残酷な計画の実行中に願うことは矛盾しているとアーティも思ってはいるのだか、この国のため ≪神の力≫ をもつ者のためには、今は手段は選んでいる場合ではなかった。

 アーティは疲れからぐだりそうになる自分に鞭をうち、ノータナーのことを王に報告がてら、いつもそばに控えているであろう、彼に助言をもとめるため、宮殿へと向かった。

 なのに、そのシェニィアからあまりにも無慈悲な提案を聞くとは思わなかったのだ。聞き終えてから「確かに、理にかなっているが血も涙もない考えをよく思いつくな」と、ある種の恐怖心を覚える。この人物はやはりプシュケーがない者であると再度認識した。

 シェニィアの提案は、エディの器かエレーヌのプシュケーかどちらをとるか──。という二つに一つは切り捨てるという選択肢しかなかった。慈悲がない、この状況の解決だけを最優先する方法であった。


 ≪神の力≫ をもつ私たちは、いざという時に、人間の姿形をしている(からだ)の安全を取るか、神の力の由来であり、神の運命に囚われているプシュケー()の安定をとるか、表裏一体な選択を迫られるときがある。

 それもそのはず、神は私たちに、力とともにその代償とでもいえる運命を授けた。その神からあらかじめ定められている理のなかに囚われ続けているのがプシュケー。プシュケーは力の源であり、因縁の根源でもある。運命と理とも言われるソレは持つものの全てを予め決定づけ、終わりまでの先導者となっている。


 ──神由来の| ≪神の力≫ の保持者《私たち》は、過去も今も神に縛り付けられている。


 ある国の王は、死の運命に直面していた。元々は単純な最期を迎えるはずで、己の死後のことを考えていた矢先、ある夢をみたのだ。それ以降、彼の運命は幾つもの人物のソレと絡まりつつある己を理から、いかに被害を少なくして脱却する方法を探すこととなった。

 彼の大切な次世代の≪神の子≫(子どもたち)が成長するにつれ、子どもたちのエピソード(ストーリー)に自身が大きく関わりがあることがわかってきた。厄介な事に、実の子の ≪エピソード≫ が彼の死を呼び起こしている。要するに、彼は実の子らに殺されてしまう理に囚われているのだった。


 もしも、複数人の ≪エピソード≫ の条件が重なってしまっている場合、それはその中で一番強い力のもつ者、もしくはその環境下で発現するための一番優位な条件をもつ者の ≪エピソード≫ が発動する。全ては神の御心のまま、神に彼らの運命は委ねられていた。

 ≪エピソード≫ ととは異なる、ある条件を保持する者でしか起こらない、 ≪コンプレックス≫ という近年発見された現象がある。これが起こる可能性のある者の法則性は見つかっていないが、シェニィアから先日受け取った資料からこの謎は解明できそうだった。おそらく、 ≪エピソード≫ に由来しているのだろう。 ≪コンプレックス≫ の克服に要する時間と経験は、プシュケーが神によって囚われている私たちをさらに神の運命に近づけるのだ。


 ──まるで、力の由来の神に同化するように

 

 シェニィアの元を退散したアーティは、自室の椅子に腰掛けた。思うに、彼の残酷な提案はミィアス国や ≪神の力≫ のもつ者たちの将来にとっては一番犠牲が少なくて、いいだろう。だが、あいつの狙いを忘れてはいけない。顔に微笑みの仮面を貼り付けて、じっくりと時期を見定めているのだ。

あいつ(シェニィア)の思い通りにはさせない。 彼の計画がどんなに緻密であっても必ず糸のほつれはあるはず 」

 アーティは問題がまた追加されたことに、さほど気にせず、家族のため、護るべき次世代の ≪神の子≫ (子どもたち)のためにその晩も徹夜をした。


 目下の悩みに支配されていた彼女は、西の塔の住人のことなど頭の隅に追いやってしまっていた。むしろ、最近は大人しくしてくれていて、ありがたいと感じるほど。

 アーティも気がついていなかった。 ≪神の力≫ をもつ子どもたちの世話で、オルフェの事など、気にかけている暇さえなかったのだ。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ