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ある計画 Ⅰ






 限られた人しか知らない、研究所練の最奥の一室、そこでは連日連夜、≪神の子≫ についてのある計画が推し進められていた。

 実験は完了している。非検体との融合には今のところ、問題は起きていなかった。現在、最終段階を実行するまで、あと一歩のところまで来ていた。

「ここで躊躇している場合ではないのに…… 」

 この計画の主導者で執行権を与えられた現王の姉アーティは、深いため息をついて頭を抱えた。彼女は自身のもつ特殊な ≪神の力≫ の特性を利用して、ミィアス国王の力の継承の弱点を無くそうとしている。今まで、沢山の犠牲を払ってきた。混乱状態に陥ったままの子は最悪にだけはならないようにした。そのはずだ。でも、最後のあと一歩が踏み出せない。それを間違えてしまうと、この努力の塊は、全て水の泡となって消えてしまうから。

 正確な名称は避けるが、今ここではあるものを生み出そうとしている。極秘計画のためこの内容は、王とアーティ、シェニィアにしか開示されていない。

 ──ミィアス国、ひいては ≪神の力≫ の存続に大きく関わる計画。 外部に漏れれば、悪用されかねない。それに、今後の国の情勢を左右する計画だ。


 国王は強大な力とそのプシュケーの清らかさから ≪神の力≫ を持つ者たちを、神の代わりに管理する役目を ≪神の子≫ として担っている。≪神の子≫ は次世代の ≪神の子≫ が生まれると弱体化してしまうことから、さまざまな弊害が生じ、急な ≪エピソード ≫ の書き換えにより、狂い死んでしまう場合がある。第一子のエディの急激な変化もこれに関連があると考えていた。被害をこれ以上拡大させないためにも、早急な管理権の継承が望まれた。

 しかし、継承にも正式な手順が必然であった。その上、授けられる者には成熟した(からだ)と清らかなプシュケー、継承の儀式に十分に耐えられるだけの力を必要とした。もし急に国王になにか起こった場合、継承が行われずに、最悪の場合、無秩序になるのを畏れ、次世代の子が誕生した後には、王周辺の行動も自ずと慎重になる。古くから、次の ≪神の子≫ が誕生したその日から、継承の日までは、油断を許さない状況であった。些細な混乱状態も、抑えきれる力がなければ、やがてそれは、国を揺るがす事態となってしまう。

 また、継承を受ける子にも負担は大きく、失敗してしまった場合は、 ≪呪い≫ を生み出し ≪エピソードの記憶≫ も狂ってしまうと言われている。今までの事例は、ただ一つ。だが、その後の国と世界の壊滅的状況には目も当てられなかったと記録に残っていた。


 ≪神の子≫ の役目を歴代の王が継承していくように、ミィアス国で代々引き継がれている聖遺物がある。それは、 ≪神の力≫ を持つものたちの管理に使用する、古代に神から授けられた、天秤・剣・盃 だ。この三つは神と人間、人間の器、器のなかのプシュケー、神の力を持つもの全てを結びつけ、存在する限り世界に調和と平和をもたらすものとされている。

 以前から、継承までの不安定さと三つの聖遺物の存在意義の重要さから、それらが万が一失われた時の危機的状況を想定し、これが近年の研究のテーマとなっている。これらの課題をどう解消するか、彼女は日々考え頭を悩ませていた。そんな ≪神の力≫ 研究の第一人者である彼女の前に、強力なブレーンとしてやってきたのがシェニィアだ。


 彼は、国外から謎の ≪神の力≫ の使い手として颯爽と現れ、国王と国第一の研究者が今まで考えもしなかったある提案をした。

「失くすのが惜しいものなら、代わりをつくってそのなかに隠せばいいのです 」

 それは誰にも思いつくことができないほど人間には残酷で、けれどこの国や ≪神の力≫ を持つ者たちには、ましてや世界の存続のためには必要なことだった。王は決断した。歴代の王が躊躇してきたツケが回ってきたのだ。

 以降この計画ではアーティに次ぐ重要人物として中枢を担っている。出身も定かではなく未知のベールに何かを隠し持っている彼が、王の側近として起用された当初、一定数の反発はあったが、知識は未知数で力も誰も把握できていないことから今では逆に恐れられている。


「……ねえ、いつになったら教えてくれるの? 」

「はて、なんのことでしょう? 」

 闇夜を感じさせる長い髪をこの時は結び、金の杯にローズ色の煌めく液体を注いでいる。その中身はなんなのか、彼が作り始めてから数年経った今でも教えてくれない。

「秘密かい? 本当に宰相は秘密が多いね 」

「ええ、将来この秘密を共有できるのはエレーヌ殿下ただおひとりです 」

 にっこり、とってはりつけたような笑顔の仮面をしてこの話題はここまでだと終止符をうつ。

「…… エレーヌ殿下が寂しそうにしておりましたよ 」

 普段のシェニィアから言われたら、ムカついてしまうけれど、この状況で言われると、アーティは反論する言葉すら出てこなかった。

「あの子が一番辛い立場にさせてしまったことはわかっているんだけどね。その上で、この子を本当に生み出してもいいのか迷っているんだ 」

「ミィアス国のためなのです。 ここでやめたら一番の悲劇が降りかかるのはエレーヌ殿下なのですよ 」

「それは重々承知しているよ。私も、ラシウスも──。私たちは国のためにエレーヌを利用しているのだからね…… 」

「はぁ── 」と再びため息をつき頭を抱えるアーティにも時間は残されていなかった。ラシウス国王は契約した ≪神の力≫ のものの力や定められている運命、いわゆる ≪エピソード≫ を把握することが可能だ。だが、その力もエレーヌの誕生からどんどん衰えを感じていた。


 ──時はあまりにも早く過ぎていく。神にとっては瞬き一回が人間はそれが一生分の寿命なのだ。器には限りがある。


 最初から ≪エピソード≫ を失ってしまった幼い兄弟の末路とこの国の将来を天秤にかけた時、傾いたのミィアス国の存続の方だった。

 (これも、この力を持っていることによる弊害なのか。残酷なことをしているよね……)

 ──あの子の幸せを願う資格はもうないけれど、この両目に光が届く限りは、護りたいと思うのはエゴだろうか?


 もう、巻き戻すことはできない。悲観的になってしまった頭を切り替えるために、アーティはシェニィアを部屋に残して外に出ていった。













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