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はじまっていた物語






『オルフェリアの希望』

 

 一見ファンタジー系のシミュレーションゲームと見間違えるほど可憐なタイトル。妖精たちが出てきそうな雰囲気だ。第一印象は児童文学かなと思ってしまうほど。


 でも実際に読んでみると、中身は全くの別物だった。戦乱で王が死に、第一王子は行方不明の中、 呪いの影響で国が乗っ取られてしまう。そして、破滅が着々と近づく世界で、主人公のユディが国の安寧や家族の絆を取り戻そうとする。


 呪いによって破滅を迎えつつある世界で、母も兄弟も失った少年が奮闘する物語。

 しかし最後は、メリーバッドエンドだという。誰かにとっては幸せなエンディングを迎えるけれど、実態はどう見ても悲しい結末らしい。


 私は想像すらできなかった。この物語のタイトルが何を意味しているのか。誰がための希望なのかと。


 そしてこの本との出会いが全ての出来事のきっかけになるなんて全く思いもしなかった。「これはただの夢」だなんて、最初はそう思っていた。


 私は、忘却してしまった。嫌、違う。誰かよって仕組まれたソレは深い記憶の奥底の箱に仕舞われていた。箱を開けない方が良かったのかもしれない。あの水を口に含んだ時、私は記憶を失ってしまった。


 ≪運命≫ という名の幾つもの糸に雁字搦めにされていることを知るために、巡り巡って今に至る。


 ──この世界では皆、理に囚われて生きていた。



 

 私がこの本を読んだのは全くの偶然だった。


(……この分野は、場所がニだからここかな? あ、珍しく装丁が凝った本がある。……あれ、これ小説だ。ここには本来置かれていないはずなのに。誰かが間違えたのかな?)


 図書館で目当ての本を探している時、同じ分類の棚に目をひく背表紙があって、なんとなく手に取った。


 表紙は深い青に刺繍のようにされた煌びやかな金の箔押し加工、小口は銀色に染色されていて、装丁がとびきり綺麗だったから、一目惚れして借りてみようと思った。

 

「レポートも終わったし、何もすることないな。……そうだ、今日借りてきた本を読もう」


 いつもなら時間がなくて貸出期間内に読了できず、惜しみつつ返却した作品は多数あれど、たまたま時間がとれたので腰を据えて読みはじめた。


 その本の美しい装丁を堪能したあとに、目次でだいたいの物語を把握する。次のページに登場人物紹介がある場合は、ネタバレが怖いので見ないようにする。頭の整理がつかなかった時用の休憩所として取っておく。本の傍に登場人物の名前と性格・特徴がメモできるように紙とペンも忘れずに。


「課題以外でゆっくり小説読めるの久しぶりかも。前は読書記録つけていたのに、あのノートどこ行ったっけ? まあ、ルーズリーフでいっか」



 気がついたら読み始めてから何時間もたっていたようで、窓から見上げた空は綺麗なオレンジ色の夕暮れに変化していた。


「もう夕方?! 思ったよりも時間が経つのはやいな」


 こんなに時間を忘れて本を読む機会も最近なかったので、思いがけず良作に出会えてよかった。


 まだ、明かされていない秘密とか、登場人物の裏の顔もあったりするのだろうか。これから読み進めて、伏線も回収したいと思い、ルーズリーフに気になったところをさっと書き留めていた。最初に読んだ目次から戦記もので血みどろの物語と予想はしていたけれど、主人公の青年は幼い頃からのトラウマがあるみたいだった。まだ出てこない兄弟のことも、このあと語られるのかなと登場人物の関係性を簡単に整理していく。


 お気に入りの栞を挟み、一旦休憩。登場人物や大まかな時系列を書いたメモを片付ける。ふいに思い出した読書好きな友人が気に入りそうな本だからとお薦めするのも忘れない。


「夕食は軽めにしよう。今朝焼いたベーグルが残っているから、それにクリームチーズと生ハムでも挟もうかな」



 その後で、この本はシリーズものと判明した。異なる分類の場所に一冊だけ間違って置かれていたから、気がつかなかった。ページ数が多いから、借りてきた本だけで完結すると思い込んでいたのがいけない。


 偶然、幼い頃に全巻読んでいたという、原作ファンの友人に猛プッシュされ、思いがけず一晩で一巻目を読破した。私にしては、妙に惹かれて、珍しく考察したくなる作品だったというのもあるけれど。


「まあ、結末はメリバと有名らしいけれど……。私はその結末に至る過程が好きだから、あまり気にしないでおこう」


 原作ファンの彼女曰く、スピンオフのゲームが発売されたり、原作が過去に舞台にもなっていたそうで今度一緒に舞台の円盤の鑑賞会をすることになった。

 原作本は三冊あるそうだ。今日は一冊しか借りてきていない。シャワーを済ませ、眠る前にメモを見返してこの時点でわかっていることを頭の中で整理してまとめた。



 この本の舞台であるミィアス国は、地中海近郊に繁栄を築いた古代文明に似た文化を持っている。物語の世界が史実と違うところは、不思議な力を持って生まれてくる子供がいることだろう。


 特に、遙か古代から国を統治する正統な王家の血を引いたミィアス国の王族は、力を持って生まれてくる子どもが多い。主人公のユディやその兄たちも例外ではない。しかし、その力は人によって色々な制約がある。力を使うのにも命を削り、能力が開花するのにも試練を乗り越える必要があるため、大切なモノを失う確率が高い。


 そして、この世界は呪いによって破滅する運命を辿っている。主人公が生まれた時から国が滅亡の危機に瀕していたのもそのせいだろう。これは、結末はメリーバッドエンドと言われている理由とも捉えられる。


「なぜか、エレーヌという登場人物が出てくるたびに頭が重くなってしまうんだよな……。違和感があるっていうか、どうしてだろう?」

 

 主人公ユディのトラウマの原因は、姉と慕っているエレーヌだと示唆されているから、どこか頭の隅で引っ掛かっているのだと思って、大して気にしていなかったけれど。彼女の生い立ちや人間関係が結構やっかいだった。読み進めたらわかるのだろう。物語のキーになる人物のようなので、メモした彼女の名前の上に、赤い印をつけた。

 

「よし、終わり! 本の続きは明日探してみよう。まずは原作本を読み終えて、その次は、スピンオフ作品、そしてゲーム。そのゲームは、主人公の姉がヒロインの恋愛シュミレーションモノらしい。……うん、物語の舞台や時代背景から考えて、攻略が大変そう。ロマンスファンタジーって悲恋が多いイメージあるから」

 

 こんなに何かに取り憑かれたように夢中になるのは久しぶりで、この胸の高揚感が心地よく感じる。この本は年代物らしいので、続きがあるとしたらあの図書館が確実かと思い、明日の予定に図書館へ行くことを追加した。


「やっぱり読書はやめられない……!!」


 そして私は、期待でドキドキする心と目からくる疲労感によるクタクタの身体でチグハグなまま、シリーズを読破するまでの道筋をたてつつ眠りについた。

















初作品初投稿です。


お見苦しいところ等多々あるかと思いますが

よろしくお願いします。

いいねやブックマーク、感想をいただけると嬉しいです。励みになります。


第二章までの登場人物と世界観のキーワードをまとめたものを投稿いたしました。














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