05.昼休み。僕と親友(自称)。
毎日のことながら、四時間目の授業は時間が引き伸ばされたように長く感じる。
授業用のタブレットPCからは催眠波でも出ているかのように、容赦なく僕を眠りに誘っていた。
僕は眠気覚ましに軽く教室を見渡すと、何人かの頭がユラユラと揺れている。
どうやら催眠波を受信しているのは僕だけではないようだった。
ようやく四時間目の授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、先生が教室から出て行くと教室は一気に緩んだ空気へと変わる。
昼休みの教室では、クラスメイトたちはお弁当の用意をしたり、購買や食堂に向かおうとしていた。
「んー……」
僕はタブレットをスリープモードにすると、両手を高く突き上げ大きく伸びをする。
誰かのせいで朝から大幅に体力を消耗しながらも、午前中の授業を居眠りすることなく乗り切った自分を褒めてやりたいところだ。
とはいえ、やはり疲労感は否めない。
「さて、パンでも買いにいくか……」
今日のところはどこか静かな場所でゆっくりと一人メシを決め込むことにしよう。
僕はそう決めると椅子から立ち上がる。
その時だった。
「よう、陽成」
そう言ってこちらに近づいて来たのは隣のクラスの久多良木涼だった。
涼は気さくな笑顔を浮かべ、まるで自分のクラスのように当たり前に僕の前までやって来る。
「……涼か。どうしたんだ? お前の教室は三組だろ、自分の教室も忘れたのか?」
僕は目の前までやって来た涼を見て言った。
涼の制服姿はその笑顔と同じように、ずいぶんとラフだった。
第二ボタンまで外されたワイシャツにネクタイは緩くぶら下がり、シャツの裾は制服のスラックスになんとか収まっているような状況だ。
しかし、その恰好がだらしなく見えるかと言えばそんなことはない。
うまく着崩していると言った方が正しいのだろう。
全体的に清潔感があり、一見無造作に見える髪もしっかりとワックスで整えられている。
手首にはイエローのスポーツタイプのスマートウォッチと革細工のアクセサリーが身に着けられ、おしゃれに気を使っていることが分かる。
「ったく、相変わらずツレねえなぁ。せっかく親友が昼メシに誘いに来たってのによ」
「なにが親友だよ、まったく」
涼の言葉に僕は呆れて言った。
僕が涼と知り合ったのは高校生になってからだ。
入学式で初めて出会ったのだが、同じクラスで席が隣だったこともあり、気付けばいつの間にか話をするようになっていた。
一年間同じクラスで過ごしただけあって今ではお互い遠慮のない仲である。
しかし、だからといって一緒に遊んだりするわけでもなく、学校の外ではほとんど付き合いが無いので親友と呼べるかははなはだ疑問である。
『何事もほどほどに』が信条の僕にとって人付き合いも例外ではないのだ。
「いいから、いいから。食堂行こうぜ。ちょっと聞きたいことがあるんだ」
涼はそう言うと強引に僕をお昼に誘う。
「なんだよ聞きたいことって」
僕は怪しむ視線を涼に向けて言った。
涼がわざわざ僕をお昼に誘ってまで話したいことがあるとすれば、それはたぶん僕からすればロクでもない話に違いない。
「内容はメシ食いながら話すよ。ほら、いこうぜ。どうせ友達の少ないオマエのことだ、便所メシでえもするつもりだったんだろ?」
「誰が便所メシなんてするかよ」
一人というのは否定できないが、トイレでこそこそメシを食うほど情けない学校生活は送っていないつもりだ。
「冗談だって。早く行こうぜ」
涼はそう言って軽く笑うと、僕の意思など無視して歩き出す。
「……まったく、分かったよ」
強引な誘いだったが特に断る理由があるわけでもない。
僕は涼の後をついて歩き出した。