39.倉庫街。横取り40万。
コンキスタを始めて一週間。
日曜日の正午を過ぎたころ湾岸に面した倉庫街にやって来ていた。
居住セクターの一部である倉庫街の堤防付近でかれこれ一時間ほどさ迷っている。
日々新しい建物が建ち、街並みが変わっていく登美ヶ丘市とはいえ、十年ほど住んでいる街で道に迷ったわけではない。
コンキスタをプレイしているのだ。
2番街を一番南まで下がった先には海に面した倉庫街がある。
倉庫街は海岸を埋め立てられて整備されているため、コンクリートで固められた海岸に砂浜は無く、決して遊びにくるような場所ではない。
主に積荷を保管しておくための倉庫が並ぶ殺風景な場所だ。
平日なら倉庫の作業員や運送会社の社員たちがそれなりに行き来し、朝方や夕方には堤防を散歩する人もいるのだが、日曜日の正午過ぎたこの時間はまったく人の気配が感じられない。
そのうえ、コンキスタをプレイしエクステンド越しに見る倉庫街は風雨で土色にくすんでいる。
シャッターは錆つき、朽ちたドラム缶には木の根が絡みついていて、すっかり廃墟と化していた。
荷物を吊るす太いチェーンが時折、風でユラユラと揺れると、より一層侘しく感じられた。
僕はテソロを探して倉庫街をウロウロとさ迷う。
この一週間でランクは3まで上がったものの、まだ僕のランクとアイテム性能では電子コンパスの精度はずいぶんと低いようだった。
倉庫街に来てようやくテソロの場所を示す青い範囲が地図の中に表示されたが、歩いている最中に範囲の広さがコロコロと変化する。
僕は倉庫街を隅々まで確かめながら慎重に歩いて行く。
すると、積み重ねられた木箱の陰に隠れるように置かれたテソロをようやく発見した。
「ふぅ……」
僕は安堵のため息を漏らす。
そしてテソロのそばまで歩いて行こうとしたその時だった。
倉庫の物陰から突然、なにかが飛び出した。
それは飛び掛かるように一瞬で木箱の横に置かれたテソロに迫っていく。
それが人だと認識した時にはもうすでにテソロは開けられてしまっていた。
テソロを開けた人物は振り返ってこちらを見ると、唖然とした僕にむかってニンマリと笑って見せた。
その人物は女性――というよりも女の子だった。
有名スポーツメーカーのパーカーにタイトなスエットパンツ、バスケットシューズという恰好をしている。
ロングのストレートの黒髪にキャップを目深にかぶっているせいで顔はよく見えないが、雰囲気からすると僕と同じか年下に見えた。
「ふふん。お先に失礼」
女の子は腰に手をあてると、僕に向かって勝ち誇るように言った。
僕はあまりに突然の出来事にあっけに取られるしかなかった。




