37.フリマサイト。女子高生の使用済みアイテム。
「おじゃましまーす」
僕が自宅マンションの玄関ドアを開けると藍はそう言って一緒に入って来る。
一応、他人の家に上がるときの礼儀くらいは心得ているようだ。
「荷物はその辺のイスにでも適当に置いてくれ」
リビングまで進むと僕はそう言ってダイニングテーブルを指さす。
「わかったわ」
藍はそう言うとデリバリーバッグを置いて中の料理を取り出し始めた。
その間に僕は洗面所に向かいバスタオルを取って来る。
「ほらバスタオルくらいは貸してやる。フロは洗面所の奥だ」
僕はそう言ってバスタオルを藍に向かって放り投げた。
「あら、気が利くじゃない。ありがと」
藍はバスタオルをキャッチすると洗面所に向かう。
「それじゃあシャワー借りるわね。一応、言っておくけど、覗くんじゃないわよ」
「誰が覗くか。オマエの――」
そこまで言って僕は言葉を飲み込む。
オマエのカラダじゃ興奮しない――
そう言いかけたが、まだ痛む左足が僕の口を制止した。
「オマエの、なによ?」
「い、いや、なんでもない。ゆっくりと汗を流してこい」
僕はそう言って藍を風呂場へ促す。
藍はなにか言いたげな表情を浮かべながらも風呂場へと消えていく。
ふぅ、危ないところだった。
これで右足にまでカーフキックを喰らったら明日は歩けず学校を休まなきゃならなくなる。
我ながらナイス自制心だ。
僕は自分を褒めながらそっと空気清浄機をオンにした。
藍がシャワーを浴びている間に僕はレトルトのご飯を二人分用意し、藍がもってきた唐揚げと春巻きを温めなおす。
藍が風呂場から出てきたのはちょうど食事の準備が整ったところだった。
「ふぅ。さっぱりした」
藍はバスタオルで濡れた髪を拭きながらリビングにやってくる。
その姿は少し大きいサイズのTシャツにスエットパンツというラフな格好だった。
「バスタオルは洗って返すわ」
藍はバスタオルを首にかけて言った。
「別にそれくらいいいぞ。一緒に洗うだけだからな」
「いいわよ。アンタなら『女子高生の使用済みバスタオル』とかいってフリマサイトで売りかねないからね」
「失敬な。誰が売るか。ちょっと自分で匂いをかぐぐらいだ」
「ほら、やっぱり」
「冗談に決まってるだろ」
僕はそう言うと冷蔵庫に入っていたペットボトルの水を渡す。
「ありがと。ご飯の用意まで完璧ね」
藍はテーブルを見て言った。
「意外とアンタって気が利くのね。アンタが旦那だったら将来、楽なんだろうなぁ」
藍はそう言った瞬間、ハッとした表情を浮かべる。
「べ、別にアンタと結婚したいとかいう意味じゃないわよ! 例えよ、例え!」
「はいはい。自分がお腹が空いたから準備しただけだよ。ほら食べようぜ」
僕はそう言ってイスに座る。
「そ、そうね……。早く食べましょ」
藍が向かいのイスに腰を下ろすと、僕はようやく遅くなった晩御飯にありついたのだった。




