34.人見知り。僕はフレンドが少ない。
僕は試しにメニュー画面からフレンドリストを開いてみる。
フレンドリストにDrakeという名前が登録されていた。
これが現在のところ僕の唯一のフレンドだ。
「フレンド同士ならばテキストやボイスでのチャットも可能だ。分からないことや困ったことがあればいつでも聞いてくれ」
「はい、ありありがとうございます。でもいいんですか? 僕みたいな初心者とフレンドになって」
僕にとっては願ってもない話だったが、コンキスタで僕が先輩に提供できるようなものはなにもない。
先輩にとってメリットはなにもなさそうだった。
「む? なぜだ?」
先輩は理由が分からないといった様子で聞き返す。
「いや、だって先輩にはまったく得がないじゃないですか」
「フレンドは損得で作るものじゃないさ。キミは実際の友達も損得勘定で選ぶのか?」
「まさか。ただ、ゲームでは違うのかなと」
「私にとってはどちらも同じさ。それに、むしろありがたいぐらいだ。私もフレンドを増やしたかったのだが、なかなか機会がなくてな。キミが私の記念すべき最初のフレンドだ」
先輩はエクステンド越しにどこか満足気な表情を浮かべていた。
「え? 先輩、今までフレンドいなかったんですか?」
僕は先輩の言葉にそうたずねる。
つい数時間前に始めたばかりの僕は当然としても、僕よりもずっと前からプレイしているであろう先輩も今までフレンドがいないとは思わなかった。
すると先輩は僕の言葉にハッとしたような顔を見せる。
「あ、いや……。まぁ、その、なんだ……。べ、別に、キミが初めてのフレンドだからって喜んでるワケではないぞ」
先輩はどこか動揺した様子でそう言った。
「もしかして先輩って新しいコミュニティとかに入っていくのって苦手タイプですか?」
「そ、そんなことはない! 私がコンキスタをしていることは、あまり人には言っていないからな……」
慌てて否定する様子は図星と言っているようなものだった。
コミュ障――とまでは言わないまでも、先輩も人見知りするタイプとは意外だった。
遠くから見ていると完璧超人に見えていたがこうやって直接話してみると、なんだか親近感が湧いてくる。
「そ、そんなことよりキミの今後だが」
先輩が話を変えるように言った。
「僕の今後?」
「あぁ、まずはランクをあげるためにいくつかテソロを探すのがいいだろう。今のランクだと、レアアイテムを見つけることは難しいだろうが、不要なアイテムはベースキャンプでエスクードと言う通貨と交換できるからな。エスクードを使えば必要な探索アイテムを揃えることができる」
「なるほど……。分かりました」
僕はそう言ってうなずく。
「よし、それじゃあ今日は帰ろう」
「はい。それじゃあ」
「あぁ。それじゃあ、またな」
先輩はそういうと、軽く手を振って公園から去っていく。
「またな。か……」
僕は小さくなっていく先輩の後姿にそうつぶやいた。




