32.怒り。それぞれの理由。
「でも、実際に襲われてる人がいるんでしょう?」
僕は言った。
「理由はコンキスタだとしても、暴力事件の捜査は警察の仕事だ。今のところ運営に出来るのはせいぜい警察への情報提供と、プレイヤーに注意を呼びかけるくらいだよ」
「そうですか……」
確かに言われてみればその通りだった。
他人を襲うというのは立派な犯罪行為だ。犯人を捕まえるのは警察の仕事だろう。
「ひと気のないところでテソロを見つけたときはキミも気を付けた方がいい。さっきみたいにいきなり襲われかねないからな」
「……分かりました」
僕はそう言ってうなずく。
「あの、もうひとつ質問していいですか?」
そしてそう言った。
「ん? なにが聞きたいんだ? 私で答えられることなら答えよう」
「先輩はどうしてそんな、こんな危険なゲームを続けてるんですか?」
僕は気になっていたことたずねた。
もっと安全に気楽に遊べるゲームは他にいくらでもあるだろう。
先輩が危険な目に会いながらもコンキスタを続けているのはどうしてなのか気になったのだった。
「やっぱり先輩も賞金が目当てなんですか?」
僕は続けてそう言った。
危険な目に会ってまで続けているのは涼と同じように賞金が理由なのだろうか。
「賞金は関係ない」
先輩は首を横に振ってきっぱりと言い切った。
「キミはさっき危険といったが、誤解しないで欲しいのは、決してゲーム自体が危険なわけじゃないんだ。私はこのゲーム自体はとても素晴らしいものだと思っている。アヴァンサールの実験的な最新技術が使われていて、これからのARの可能性をさらに広げる技術だと思っている」
「確かにこのリアリティは今までのARとは比べ物にならないですね」
僕は本来公園であるはずの湿地を見渡して言った。
頭では公園だと分かっていても、目に映る風景は本当に別の世界のようだった。
「だろう?」
先輩はまるで自分が褒められたかのように嬉しそうにうなずく。
しかし、その表情はすぐに曇る。
「そんな素晴らしいゲームを特定の人間が自分の利益のためにルールを破り危険なモノにしている。そのことに腹立たしさを覚えるよ」
先輩はそう言って眉をひそめる。
さすが生徒会副会長を務めるだけあって、規律やルールを乱す人間には厳しいようだ。
「……すまない。キミに愚痴を言っても仕方がないな。ただ、少しでも面白いと感じたなら、これに懲りずに続けてみてくれ」
「そうですね……、もう少し遊んでみようと思います」
僕は先輩の言葉にうなずいた。
確かにこのリアリティで実際に冒険するような感覚はなかなか他のゲームでは味わうことが出来ないだろう。
先輩への愛想ではなく、もう少し遊んでみるのも悪くないと本当に思っていた。




