31.犯罪。稀によくある事態。
「なるほど」
先輩の説明に僕は納得する。
「アカウント名が不明とはいえ、呼び名がないと不便だからだろう、いつからかワッケーロと呼ばれるようになっていたよ」
あくまで仮の名前といったところだろう。
どうやらロールプレイや自分で名乗っているわけではないらしい。
「で、そのワッケーロとやらにどうして僕たちは襲われなくちゃならないんですか?」
アカウント名が分からない理由は先輩の説明で分かった。
しかし、襲われる理由が分からない。
「宝箱を奪うためだ」
先輩が答える。
実にシンプルで分かりやすい回答だった。
「つまり、ワッケーロは僕たちが見つけたテソロを力ずくで奪うために先輩と僕を襲ったと」
「ああ。その通りだ」
先輩はそう言ってうなずく。
「先ほども説明したが、コンキスタの仕様は基本的に早い者勝ちで、最初にテソロに触れたプレイヤーにテソロを開ける権利が与えられるのだが、権利を得たプレイヤーが宝箱を開けずに一定時間放置するかゲームからログアウトした場合、権利が消失するんだ」
「権利が無くなるというのは初耳ですね」
「そうしないと一生、放置可能だからな。ワッケーロは権利の消失を狙い、宝箱を見つけた人物を襲って強制的にログアウトさせているんだ」
僕はその説明でようやく襲われた理由を理解する。
僕たちが襲われた理由は個人的な恨みや因縁ではない。
ただ、テソロを先に見つけたというだけの理由だ。
「そんな素敵なプレイヤーがいるゲームだなんて知りませんでしたよ」
僕は言った。
たかがゲームでそこまでしてテソロを奪おうとする理由は聞かなくても分かる。
「賞金に目がくらんだ、ただの犯罪者さ」
先輩は憎らしげに拳を握りしめてそう言った。
他人を襲ってまで賞金を手に入れる。
僕には思いもしなかった発想だが、十億という高額な賞金にもなれば犯罪行為をしてでも手に入れたいと思う人間もいるのだろう。
「今までにどれくらいの人が襲われているんですか?」
僕はたずねた。
「すでに十人以上が襲われている。なかには大けがを負って入院している人もいるらしい」
「そんなに……。コンキスタの運営は対応してないんですか?」
普通に考えてそんな行為が許されるはずがない。
ゲームの規約違反はもちろんのこと、おまけに犯罪となればアカウントの永久停止処分くらいされていてもおかしくないはずだ。
「運営も事態の把握はしているようだが、今のところ犯人を特定できる確かな証拠はないようだ。なにせ、コンキスタ自体で不正行為を行っているわけではないからな……」




