02.ビッグブラザー。管理社会と同級生。
学校の前までやってくると、駅の改札のようなゲートが設置された校門が見えてくる。
登美ヶ丘高校の生徒たちがそのゲートへと吸い込まれるように入って行く。
僕もまたその流れに乗ってゲートへと進む。
そして、胸ポケットから学生証の入ったカードケースを取り出しゲートに向かってかざした。
ゲートが学生証を感知するとピッと音が鳴り開く。
校門のゲートはカードキーで開くようになっている。
入学時に支給されるICチップの埋め込まれた学生証がカードキーになっているのだ。
最先端の技術が集う登美ヶ丘市。
その高校にも新しい技術やシステムは取り入れられている。
ICチップの入った学生証により生徒の情報が全てコンピュータで管理されているのだ。
このシステムにより、ホームルームで点呼をしなくても生徒の出欠が把握できる。
ついでに下校時間もしっかり記録されるので、途中で学校を抜け出してサボることもできない仕組みというわけだ。
ゲートを設置することで警備員を置かなくても不審者の侵入を防ぐことができる。
機械化による人件費の削減、オートメーションの波は教育機関にも押し寄せているというわけだ。
さらに、校内での備品の貸し出しやPCルームの利用など、履歴が残るものは全てこの学生証で管理されている。
お金をチャージすれば電子決済も利用出来るようになっており、購買や学食で利用する生徒も多い。
つまり、学校のどこかにあるサーバーにアクセスし、学生証の利用履歴を辿れば、その日一日校内のどこで何をしていたか大体分かってしまうというわけだ。
まったく管理社会というやつは恐ろしい。
校門のゲートをくぐると、目の前には校舎へと続く緩やかな上り坂が現れる。
そしてその先には、どこかの大型ショッピングモールを思わせるような流線形の校舎があった。
登美ヶ丘高校は市立高校とは思えないほど広い敷地と贅沢な校舎を持っている。
緑豊かな丘陵地帯のなかに近代建築のような校舎が建てられており、その校舎を囲むように運動場と体育館、武道場や部室棟が併設されていた。
保護者からは最新の設備と自然が揃った環境の良い学校として評判は良いらしい。
しかし、実際に通う生徒の立場からすれば、無駄に広く移動の面倒な学校だった。
まだ完全に目の覚めていない僕にとって、校舎まで続く坂道は険しい山道のようだった。
のろのろと歩いていると、突然、なにかがぶつかるような強い衝撃が背中に走る。
「おーっす、陽成!」
と、同時にやたらとボリュームの大きい声が僕の耳に響く。
どうやら誰かが声をかけると同時に僕の背中を思い切り叩いたらしい。
まぁ、『誰か』とは言ったものの、朝からこれだけバカみたいに元気な人物を僕は一人しか知らないのだが。
「はぁ……」
僕はため息混じりに振り返ると背後の人物を確かめる。
そこにいたのは予想通り藍だった。
香坂藍。
僕のクラスメイトである。
藍はスクールシャツのうえに少し大きいサイズのパーカーを着ている。
下は膝上まで短くした学校指定のスカートに黒のタイツという恰好で、足下は赤いスニーカーを履いていた。
本来、登美ヶ丘高校の制服は、学校指定のスクールシャツとブレザーにスカートかスラックス。
そして、白の靴下とローファーである。
しかし、実際は生活指導がそれほど厳しくなく、よほど奇抜な恰好でない限り注意すらされなかった。