26.襲撃。物理で殴る。
「どうしたんだ急に。故障か?」
僕はエクステンドを外すと、手の中でくるくると回して異常がないか確かめてみた。
登美ヶ丘市では最新のIT技術を提供するために、インフラもしっかりと整備されている。
電波障害や回線不良といったことが起こることはまず考えられない。
となると、デバイス本体に何か問題が起きたと考えるのがごく自然な発想だった。
しかし、本体を落としたり不自然な衝撃を与えた記憶もなく、デバイスを見ても特にこれといった問題があるようにも見えなかった。
「これは、ジャミングアイテム……? まさか……」
僕が不思議がってエクステンドを眺めていると先輩がつぶやくように口走る。
「先輩のエクステンドも調子悪いんですか?」
そう言って先輩に視線を向けた瞬間――
「先輩! うしろ!」
僕は反射的に叫んでいた。
その背後には、警棒を振りかぶり今にも振り下ろそうとする人物がいた。
全身黒い服に身を包み、フルフェイスのヘルメットをかぶった謎の人物。
突然現れた誰がどう見ても怪しい謎の人物は、振りかぶった警棒を先輩に向かって躊躇することなく振り下ろした。
「くっ……!」
先輩が飛び退くと、警棒はギリギリのところで空を切った。
その一撃は一切手加減のない、明らかに悪意のこもった一撃だった。
もし、まともに喰らっていれば、軽いケガ程度では済まなかったはずだ。
僕は背中に冷たいものが流れるのを感じる。
間一髪、突然の襲撃を避けた先輩は、距離を取るように後ろへと下がる。
すると、謎の人物はヘルメットで覆われた顔をこちらへ向ける。
ロボットがターゲットをロックするように顔と顔が向き合うと、今度は僕に向かって襲い掛かってきた。
「うぉっ!」
僕は慌ててその攻撃を避ける。
動作の大きい攻撃だ。
藍の正拳付きに比べれば避けるのはそれほど難しくなかった。
しかし、謎の人物は攻撃を止めることなく追撃を加えようと襲い掛かって来る。
まったくなにがなんだか分からない。
分かるのは殴られればタダでは済まないということだけだ。
マジメに生きてきた僕がいったいなにをしたというのか。
最近じゃ工事現場に無断侵入したというだけでこんな目に合わないといけないのだろうか。
再び来るであろう攻撃に備え身構えたその時――
「末永! テソロから離れるんだ! そいつの狙いはテソロだ!」
氷室先輩の叫び声が背後から聞こえてくる。
「は、はい!」
僕はワケも分からず、とにかく返事をする。
そして慌ててテソロから離れると、氷室先輩の横まで逃げる。
「大丈夫か?」
隣に立つ先輩が僕に声をかける。
「はい。先輩こそ大丈夫ですか?」
「あぁ、キミの声がなければ危ないところだった」
先輩は謎の襲撃者から視線を外すことなくうなずくと、エクステンドを外した。
謎の人物は追いかけて来ずに、テソロのあった場所でまるで宝箱の番人のように立ち塞がっていた。




